第20話 上条さんとプール


ちょっと長いです。


―――――


 俺は、八時半には家を出て、電車に乗った。上条さんの家の最寄り駅に着くと彼女は約束通りホームの一番後ろで待っていた。俺を見つけると手を振って来た。

 白い短パンに黄色のTシャツ。白色のかかと付サンダル。とても爽やかな格好だ。


 しかし、彼女の持っているバッグは大きいな。俺なんかスポーツバッグに半分も入っていないのに。


「おはよう、東雲君」

「おはよう、上条さん」


 夏休みの所為か、家族連れが多い。シートには座れなかった。

「上条さん、バッグ、棚に乗せますよ」

「ありがとう」


 俺は彼女の大きなバッグを受け取って棚に乗せると

「東雲君位の身長があると楽々だね。私ではそうはいかないわ」

「あははっ、そうだね」



 渋山で一度降りてプールの有る遊園地に行く路線に乗り換える。結構客が降りたので今度は座る事が出来た。

「やっぱり座った方がいいね」

「そうだな。三十分立ちっぱなしはきついからね」


 二人で学校の事とかを話していると直ぐに着いた。同じ車両に乗っている人が沢山降りた。


 駅からほとんど直結に近い。直ぐにチケット売り場に行ったけど結構な人が並んでいた。

「結構来るんだね」

「そうだな。でも全員プールって訳じゃないだろうし」

「ねえ、今度遊園地の方も行ってみたいね」

「……………」

 何かどさくさに紛れて口約束させられそう。


「ねぇ、こういう時は、そうだねって言うの」

「でも…」

「大丈夫、言質取ったなんて言わないから」

「そうだね」

「ふふっ、じゃあ来ようね」

「へっ?」

 なんか丸め込まれた感じ。


 十五分位待ってチケットを買うと早速ゲートをくぐった。目の前にプールは右の矢印が出ている。

 俺達はそのまま右に行くと三十メートルもしない内にプール側のゲートに着いた。チケットを見せて中に入ると


 左手に男女別のロッカールームがある。

「着替えたらここで待合せね」

「分かった」


 俺は右手側の男子のロッカールームに入ると空いているロッカーを探して着替えた。男子の着替えなんか簡単だ。


 洋服脱いでサポータと海水パンツを履くだけ。後はタオルと貴重品を防水バッグに入れて終りだ。

 サンダルに履き替えてロッカールームの外で待っていると他の男性も待っている人が多い。親子連れもいる様だ。


 女性側ロッカーから人が出て来る度に視線が集まる。まあ当然だよな。そして待つ事二十分。なんでこんなに待つんだ?


 やっと出て来た。えっ!

 髪の毛は後ろでポニーテールの様にまとめられている。水着は一昨日買った青と黄色の花柄の水着だ。


 彼女の大きな胸を包んで首の後ろに紐で結んでいる。勿論背中にも紐で結ばれているけど。

 手にはタオルと防水バッグが入ったビニールバッグとラッシュガードを持っていた。


「どうかな。この前買った奴だよ」


 俺は直視しない様にしながら

「う、うん。とても似合っている」

「ねえ、こっち見て言ってよ」

「で、でも」

「ふふっ、私の体に惚れちゃった?」

「何を言っているんだ。早くラッシュガード着てくれ」

「じゃあ、また後でね」

 ふふっ、ファーストインプレッションは成功って所かな。


 プールサイドを見ると結構一杯いる。監視台の後ろが空いていた。

「あそこはどう?」

「うーん。もっと二人で居れる所がいい。あっちは」

「まあ、いいけど」


 監視台から二十メートル位離れているけど、無難な場所か。


 彼女は持って来たシートを敷くとそこにビニールバッグを置いた。俺も自分のタオルだけ置くと

「ちょっと準備運動しようか」

「えっ、するの?」

「足攣ったら痛いよ」

「分かったぁ」


 向こうでも何回かプールには行っている。泳げるって程ではないけど金槌でもないといった所。


 最初流れるプールに入っていたけど、上条さんが

「浮輪借りたい」

「そうしようか」


 どうも彼女は泳ぎは出来ない様だ。


 彼女は浮輪を借りると浮輪の真ん中に自分のお尻を入れて

「東雲君、引っ張って」


 中々のお嬢様だ。


「分かった」


 流れる方向にゆっくり引っ張ってあげると

「気持ちいいなあ。ねえ、もう少し早く」


 結構我儘だな。さっきより早めに浮輪に付いている紐を引くと

「いい、いい。その調子」

 

 俺疲れるだけなんだけど。調子に乗って引っ張っていると

「きゃーっ!」


 ザブーン。


 横のバランスを崩して右にひっくり返った。

「あははっ」

「酷ーい。人の不幸を笑うなんて」

「いやいや不幸ではないでしょう。楽しかったんだから」

「じゃあ、起こして」

 

 彼女は何故かプールに体を沈めたままだ。

「起きれるでしょ?」

「起こして」

「もう我儘だなぁ」


 俺が手を引くと、えっ!


 手を俺の背中に回して思い切り俺に抱き着いて来た。鳩尾辺りに彼女のふくよかな胸が思い切り当たっている。

 

「上条さん?」

「なあにぃ」

「あのこの状態不味いのでは?」

「ええ、そんな事無いよう。東雲君も気持ちいいでしょう」

 ふふっ、どうかな私の体、東雲君。


「痛い!」

 デコピンされた。


「調子に乗らないの」

「ちぇ、もっとしてたかったのにぃ」

「ここはそういう所ではありません」

「じゃあ、そういう所行く?」

「駄目、行く根拠がない」

「じゃあ、根拠作ろうよ」

 駄目だ。この子、どうも頭があっちにいっているらしい。


「そんな事ばかり言っていると帰りますよ」

「えーっ、もう言わないから。そんな事言わないで」

「それならいいです」


 今度は彼女が浮輪の中に入って。俺が浮輪に掴まってぷかぷかと流れるプールに身を任している。中々気持ちいい。


「東雲君、ねぇ、今日だけで良い。名前で呼んじゃ駄目?」

「別に良いけど」

「えっ、いいの?」

「向こうじゃ、親しい子は男女問わずに皆名前呼びだったから」

「えっ、そうなの?」

 どうも彼は日本の名前呼びの意味が分かっていないらしい。


「じゃあ、和樹」

「じゃあ、佐那」

「ふふっ、なんか嬉しいな。そうだ。あれしようよ」


 彼女が指差したのはウォータースライダーだ。結構大きい。流れるプールから出て、浮輪をシートの傍に置くとウォータースライダーまで歩いて行った。それなりに並んでいる。

「大きい方と小さい方、どっちにする」

「勿論大きい方」


 階段を待ちながら登ると十分位でスタート位置まで来れた。

「和樹、二人でやろう」

「二人で?」


「はい、彼氏さん前に座って下さい。彼女さんは後ろに座って彼のお腹に手を回しってしっかりと握って下さいね」

 俺の考えを言う時間は無かった。


「それでは行ってらっしゃーい」


 少しのストレートの後、右に二回転、左に二回転。結構長い。彼女が思い切り俺のお腹に回した手を握って来るので、彼女の胸は俺の背中に強引に押し付けられている。

 その胸が右や左に回転する毎に捻じれてくる。結構メンタルに来る。


 そして


 ドボーン、ドボーン。


「うわぁ、楽しかった。もう一度やろう」

「えっ、でも…」


 結局三回もやってしまった。流石に

「佐那、これ以上はちょっと」

「そうかぁ、もっとやりたかったけど和樹の気持ち尊重するね」


 いえいえ、今迄十分に無視されていましたよ。


 一度シートに戻ってから二人で売店にジュースとかき氷を買いに行った。勿論スプーンは二つ。


 シートに座りかき氷を半分こにしながら食べていると

「楽しいなぁ、来て良かった」

「そうだな」


 その後、もう一度流れるプールに入って遊んだ後、売店で焼きそば、たこ焼き、フランクフルトを買って来て、シートで食べた。


「ふふっ、和樹と二人でこうした事が出来るなんて、嬉しくて堪らない」

「あははっ、そんなに喜んでくれると嬉しいよ」

「和樹も楽しい?」

「勿論だ」

「よかったぁ」

 良し、これで気持ちの確認も取れた。最後は、


「ねえ、食べて少し休んだ後、波の出るプールがあるんだって」

「へーっ、行ってみる?」

「もちろん」


 食べてから十分に休んだ俺達は、一度浮輪を売店に返してからそこに行った。確かに結構広くて大きな波という程ではないけど、雰囲気はある。深さもそれなりだ。


 波が来る度に潜ったり跳ねたりしたけど、佐那が

「ねえ、二人で手を繋いで波が来たら一緒に跳ねない」

「いいよ」


 三回目を飛んだ時だった。


 ポロン。


「あっ!」

「きゃーっ!」


 佐那が急いで胸に手を当てた。そしていきなり俺にくっ付いて来ると

「いい、動かないでね。絶対に動かないでね」


 その後、下に垂れてる首紐を上げて、それから手を俺と彼女の胸の間に入れてゆっくりと水着を上げて来た。そして水着が胸を被うと紐を首の後ろで結んだ。そして俺をジッと見て

「見た?」

「見てない」

「見たでしょ」

「見てない」

「見た?」

「ちょっとだけ。とても綺麗だった」


 ボカ!


「痛い!」

 胸を叩かれた。


「誰も感想なんて聞いていない。責任取ってよ」

「責任?」

「だって私の大切な胸、見たんだから」

「いや、これは事故で」

「事故でも責任取るの!」

「責任と言っても」

「じゃあ、私の彼になって」

「はっ?いやそれは保留と言う事で」

「じゃあ、チャンス有るのね。良かった」

 どうもこの子に口で敵う事は出来ない様だ。



 それからまた少し波の出るプールで遊んで午後三時になった所で上がった。


 俺達はロッカールーム手前にあるシャワー室で体を洗った後、ロッカールームの中で体をタオルで拭いて着替えて外に出た。髪の毛が少し濡れているけど直ぐに乾くだろう。


 二十分ほどして彼女も出て来た。来た時と同じ白い短パンに黄色いTシャツ、白色のかかと付サンダルそれに大きなバッグを持っていた。髪の毛はポニーテールのままだ。


 駅から帰りの電車に乗っていると

「和樹、もう一度会いたい。この遊園地に来れないなら街でもいい。ねえ、もう一度会って」

「いいよ」


 とても積極的だけど、明るくてとてもいい子だ。もう一度会う位いいだろう。

「えっ、ほんと?」

「だって、佐那が言ったんだろう」

「それはそうだけど」

 和樹の心は私を受け入れてくれたようだ。よし、これなら問題ない。



 その後、佐那は渋山まで俺の腕に手を回して眠っていた。彼女の胸が思い切り当たっているけど、この子はこういう事を気にしない子なんだな。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

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