第19話 夏休みの始めは買い物から
俺は、次の日から夏休みの宿題に取り組んだ。七月中にこれを終わらせれば八月一杯は遊ぶ事が出来る。
しかし、向こうでは夏休みというか六月で学期が終わって九月から新学期だから全然宿題なんて出なかった。
その代りコミュニティへの参加とか、ワークショップへの参加とかとにかく本を一杯読まないといけなかったけど。
どっちが良いのかな。それにしても教科毎に山の様に宿題出すよな。これ本当に終わるか?
朝食を食べた後、午前八時半に開始してお昼休憩と午後三時の休憩以外は午後六時まで宿題をやった。
今回良かったのは、お母さんと朝食を一緒に食べれる事だ。早かったり遅かったりするけど、一緒に食べれるのは嬉しい。普段出来ない事が出来るという事はやっぱりいい。
おかげで七月三十一日には終わらす事が出来た。読書感想文は後でも途中でも出来るからいい。本を読むのは大好きだからな。
その日の夜、お母さんに、
「八月三日と、五日に友達とプールに行くんだ。だから水着買わないといけない。それとお小遣い」
「分かったわ。でももうプールに行く友達が出来たの。女の子、男の子?」
「残念でした。両方です」
「そう、良かったわね」
流石に三日の事は言えない。
お母さんから資金調達が成功した俺は、早速翌日一日にSCに買い物に行った。流行りとか有るのかな?まあ適当で良いか。
ホームからエスカレータで降りて改札を通った所で声を掛けられた。
「東雲君」
「えっ?」
振り向くとなんとそこに上条さんが居た。
「奇遇ねぇ。こんな所で有るなんて。やっぱり私達赤い糸で結ばれているのかしら?」
「赤い糸?」
「運命の糸の事」
「へぇ、そんな諺あるの?」
「うん、あるある」
「偶然が赤い糸か。じゃあ、人とバッタリ会うのは皆赤い糸って訳か?」
「あのう、意味が違うんですけどぅ」
「そうなの?」
「まあ、いいわ。東雲君は何でここに」
「ちょっと用事があって」
「そう、私、水着買いに来たんだ。東雲君一緒に来て」
「はっ?」
「いいでしょう。いこいこ」
いきなり手を引っ張られてしまった。
「ちょっ、ちょっと待って。俺も用事あるんだって」
「何用事って?」
「まあ、用事は用事。だから別行動で」
水着買いに来たなんて言ったら絶対に碌な事がない。
「じゃあ、私がその用事付き合ってあげるから、私のも付き合って」
「いや、それはいいよ」
「よくない」
結構しつこい子だな。周りを行く人達が俺達を見ている。何とかしないと。
「じゃあ、ここで。明後日ね」
スタスタ行こうと思ったらシャツの袖を摑まえられた。
「もう分かったから」
「ふふっ、よろし」
彼女の買い物に付き合ってそこで別れるか。そう思って先に彼女の水着に付き合った。どうせ外で待っていればいいんだろうなんて思っていると
「ねえ、一緒に入って」
「いや、それは流石に。そこの椅子で待っています」
「だーめ!一緒に入るの」
「いや、良いです」
「だーめ!」
「お客様、お店の前でその様な事は控えて頂きたいのですが」
「「済みません」」
「ほら、早く入ろ」
上条さんに折れて中に入ると…直ぐに踵を返したくなった。どう見ても俺が来るところじゃない。目を閉じていると
「どう、こっちがいいかな。ねぇ…。目閉じていても分かんないでしょ」
「でも…」
「ここまで来たんだから」
仕方なく俺は目を開けると右手に赤と白のストライプのビキニ、左手には青と黄色の花柄の首から掛けるタイプの水着だ。
「どっちも似合うよ」
「じゃあ、こっちにする。明後日見るんだよ」
「えっ!」
そうか、不味い。ビキニなんて着られたらこの子の胸は隠れないだろう。
「じゃあ、青い方で」
「分かったわ。こっちにする。ちょっと待って、会計して来る」
「あっ、ちょっと」
置いて行かれた俺は直ぐに外に出た。ご婦人が一人で出て来た俺をなんか変な目で見ている。
待っていると上条さんが出て来た。
「あそこで待っていれば良かったのに」
思い切り首を振って
「むりむり。ところで上条さん、買い物終わったんでしょう。じゃあ、これで」
「えっ、何言っているの。今度は君の買い物だよ」
「いや俺は一人で」
「いいから、行こう」
「でも」
「いいから、何買うの」
周りの人が俺達を見て笑っている。不味い。
「水着」
「ぷっ!なんだ同じなんだ。じゃあもう一度入ろうか」
「いやここは女性物でしょう」
「ううん、奥に男性物があるよ」
なんてところに置くんだ。お店の方に一言言いたい。
売り場に行くと確かに在った。しかし、これは競泳パンツだ。
「これは駄目だよ。競泳用じゃないか」
「ええーっ、カッコいいじゃない」
「駄目、普通のにする。行くよ」
これ履かせたかったな。そうすれば。えへへっ。
「なんか顔がにやついているけど?」
「なーんでもない。行こか」
同じ階の別のお店で売っていた。膝より少し上までの長さの海水パンツだ。青と緑の海の柄だ。悪くない。
買い物が終わると
「じゃあ、これで」
また、シャツを摑まれた。
「なに?」
「買い物終わったら、食事とかお茶とかじゃないの?」
「いつからそんな決まりが?」
「世の中そうなの」
「何処の辞書にも載っていないと思うんだけど」
「良いじゃない、そんな事。さっ、行くよ」
この子結構我を押し通す方だな。学校だと全然分からなかった。
入ったのは〇ック。最近高くなって学生には優しくないお店になったな。
俺はコーク、彼女はオレンジジュースを頼んだ。カウンタから受け取って空いている席に座る。正面から見るのは初めてだけど、結構胸が主張している子だ。
「何処見ているの?」
「えっ?」
つい視線が行ってしまっていたか。
「ふふっ、東雲君が欲しいならいいよ。その代り責任取ってね」
「……………」
なんか難しい事を言われたな。
「ふふっ、冗談よ。それより、明後日現地待合せ寂しいから、私の家の最寄り駅に来て貰うか東雲君の最寄り家の駅に行きたい」
「迎えに行くのは良いけど、上条さんの家の最寄り駅知らない」
「学校から渋山方向に一つ目よ」
「えっ、そうなんだ。渋山で乗り換えるから、じゃあ都合いいか」
「うん」
「渋山で乗り換えたら三十分で行けるから現地十時とすると九時前かな。一番後ろに乗っている」
「分かった。ホームで待っているよ」
その後三十分位して上条さんとは別れた。何か用事がると言っていた。俺はその後、図書館に寄って読書感想文の対象とする本を一冊借りて家に戻った。
しかし、夏休み、上条さんといきなり会って明後日一緒にプールとは。本当に縁でもあるのかな。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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