第18話 諦めの悪い子は何処にでもいる

 今日は終業式。教室は朝からざわついている。俺が席に座っていると神林が寄って来て

「東雲、プールの時の連絡にグルチャ作りたいからスマホの連絡先教えてくれ」

「分かった」


 スマホは授業中触らない限り学校内への持ち込みは許されている。直ぐにポケットから出すと神林と連絡先を交換した。

「じゃあ、これで細かい事連絡するから」

「了解だ」


 神林が立ち去ると

「ねえ、東雲君。私とも連絡先交換しない?」

「えっ、なんで須藤さんと?交換する理由有ったっけ?」

「うん、あるある。ちょっと連絡する時とかさ」

「それ無いと思うけど」

「そんな事無いよ。ねっ、交換しよう」


 須藤さんはバッグからスマホを取出して俺の目の前に出した所で担任の琴吹先生が入って来た。

「東雲君、後でね」


 後でもしないけど。


「皆さん、体育館で終業式をします。廊下に出て下さい」



 皆で体育館に言って校長先生の話を聞いた後、生徒指導の先生から夏休み中の注意事項等を言われて教室に戻った。


 席に着くと直ぐに須藤さんが

「東雲君、さっきのスマホの連絡先だけど。交換しよう。ねっ!」

「うーん。夏休み連絡する用事無いでしょう。それに登校日とかあるし」

「用事発生するかも知れないし。ねっ、お願い。この通り」


 頭の上に手を合わせて頼み込んで来た。どうすればいいんだ。


「やっぱり止める。だって理由無いし」

「クラスメイトだよ。理由あるじゃない」

 押し問答している内に琴吹先生が入って来た。良かった。琴吹先生から夏休みの過ごし方とかが書いてあるプリントと通知表を渡され下校になった。



 俺は、そのまま席を立ってバッグを持って廊下に出ようとするとまた須藤さんが

「東雲君、お願い」


 根負けした。

「分かりました。でも人には絶対に教えないで下さいよ」

「うん!」


「あっ、京子だけずるい。東雲君私にも」

 早瀬さんが言うと

「私も」

 やっぱり加藤さんも言って来た。


「須藤さん、やっぱり止めます。じゃあ、登校日迄」


 俺は、サッと廊下に出ようとして若菜とぶつかってしまった。

「痛い!」



 しまった。若菜の体に思い切りぶつかってしまったようだ。須藤さん達に気を取られて前を見て無かった。膝から血が出ている。

「若菜、保健室に行くぞ。歩けるか」

「うん。でもちょっと痛い」

 肩貸したいけど背が合わない。チラッと見るとクラス委員が


「東雲君、私が保健室に連れて行く」

「悪い」


 やっぱり気を付けないと名前呼びしてしまう。今のは仕方ないか。


 俺達が保健室に立ち去ると


-ねえ、今の。

-うん、体張ったね。

-そこまでしてって感じだね。

-うんうん。

-結局、連絡先教えて貰えなかった。はぁ。



 俺は、クラス委員と一緒に如月さんを保健室に連れて行くと保健の先生が

「ちょっと擦ったみたいね。消毒して止血ガーゼで止めといてあげるわ」

「ありがとうございます」

「東雲君、如月さん、私教室に戻るね」

「済みませんでした」


 如月さんが消毒液を塗られるとちょっと痛そうな顔をした。薬が塗ってあるシートを傷口に貼ってガーゼで止めると

「これで良いわ。もう帰って良いわよ」

「「ありがとうございました」」


 二人で保健室を出ると

「和樹」

「俺が前見て無かった。悪かったな」

「ううん、それはいい。ねえ、お願い」


 今回は仕方ないか。

「分かった。どこでする」

「私の部屋」

「でもお昼食べるだろう。ファミレスでもいいぞ」

「コンビニで買って行く」

「…そうか」



 俺と如月さんは、彼女の家の最寄り駅で降りてコンビニに寄ってお昼を買うと彼女の家に行った。ダイニングで買った物を広げると


「本当は作りたいんだけど。今は駄目だよね。だからこれ」

「食べるか」

「うん」


 二人共何も話さずに食べ終わった。後片づけすると

「部屋に行く」

「分かった」


 如月さんの部屋に入るのは去年の九月以来、久しぶりだな。二人でベッドの端に座ると


「……………」

「……………」


「如月さん、話さないんなら帰るぞ」

「駄目、ちょっと待って」


 今更何考えているんだ。


「和樹」

「……………」


「私ね。去年、あなたが転入して来た時は、本当に神様はいるんだと思ったの。そしてあなたを見た時から、もう心の中はあなただけになった。

 後藤の事は…。正直、あなたに分からない内に別れようと思ったんだけど。でも結果は知っての通りになった。

 あの事に言い訳するつもりは有りません。全部私が勝手にしてしまった事。後藤とはあの後、直ぐに別れた。彼とはもう何も関係ない。


 和樹は、私を心の中から追い出してしまった見たいだけど、私はあなたが心の中心にしっかりといる。そしてそれは絶対に動かないもの。

 お願いです。友達からで良いです。もう一度口を利いて下さい。この通りです」


 如月さんがベッドから降りて床に正座して頭を下げている。

 確かに俺は如月さんの事は心の片隅にもいなくなっている。同じクラスにいる俺とは関係のない一人の女の子という位だ。


 今更彼女と友達になったからって接点を持つ気など更々ない。どうしたものか。如月さんは何も言わず頭を下げている。


「如月さん、頭を上げてくれ。そんな事されても何も変わらないよ」

「和樹、私のいけない所全部直します。何でもします。何をされてもいい。だから、せめて話をさせて下さい」

「いま、しているよ」

「そういう事じゃない。普通に話したいの」

「友達とか話が出来る様になるとか言っても、もう如月さんとは接点がない。接点を作る気もないよ。だから話す事も無いよ」

「和樹、お願いです。接点はこれから見つける。時間かかっても見つける。だから話をする機会を作るチャンスだけは与えて下さい。この通りです」


 参ったな。こっちがその気ないのにどうやって作るって言うんだ。でも意固地に断る理由も無いか。

「分かった。何か接点が見つかれば話してもいいよ。でも無駄話は止めて」

「うん、分かった」


 それから俺は少しして如月さんの家を出た。あまりしっくりこないけど仕方ない。確かにファミレスで話すような事では無いな。


 明日から夏休み、取敢えず宿題先に片付けるか。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします


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