第15話 ざわつく体育祭
今日は体育祭だ。朝から皆少し緊張した顔をしている。合同の準備体操も終り、2Aの集合場所に座った。
俺の隣には神林と小岩井さん、それと須藤さん、加藤さん、早瀬さんが隣に並んで座っている。
競技はプログラムに沿って行われ、目の前で二人一組でそれぞれの片足を結んで走る二人三脚という競争をしていた。
「東雲君とあれやりたかったなぁ」
「でも、あんなに体くっ付けるのはちょっと…」
「だから良いんじゃない」
なるほど、目的はそっちだったか。やらなくて良かった。
それが終わると今度は障害物競争だ。走って平均台を通り、跳び箱を飛んでネットの下を潜ってゴールする。結構大変だな。その後、玉入れも終り、借り物競争になった。神林が
「東雲、気を付けろよ」
「何を気を付けるんだ?」
「その内分かる」
スタートした生徒が途中で撒かれているカードを拾うと何故か皆キョロキョロしている。その内、用具倉庫に走る人も居れば先生に向かって走ったり、クラスの集合場所に走って…あれこっちに来る。あの子確か…。
「東雲君、一緒に来て」
「俺?なんで?」
「いいから」
「ほら行って来いよ東雲」
神林に言われて立ち上がると、その子はいきなり俺の手を掴んで
「ゴールに向かうわよ。走って」
「えっ?ああ」
二人で手を繋いで走って行くと、何となく周りから何か言われているけど聞こえない。ゴールに着くとその子がカードを渡した。
「えーっ、2B上条佐那さんのお題は…。大切にしたい人でしたーっ!」
「「「「「おおーっ!」」」」」
「「「「「きゃーっ!」」」」」
「東雲君、もう体育祭の洗礼受けているね」
「あいつは元々そうなる運命なんだよ」
「あははっ、ちょっと可哀想」
競技が終わり集合場所に帰ろうとすると上条さんが
「東雲君、分かってくれたかな?」
「何の事?」
「あのねぇ君。お題聞いてなかったの?」
「いや…。ごめん聞いてなかった」
「もう」
聞こえたけど、言わない。
俺はその後も三年のお姉さんに連れ去られた。手を引っ張られる時、神林や他の男子が
「いけいけ東雲」
「そうだ、そうだ。いけいけ東雲」
良く分からない事を言っている。
そして、午前最後の競技、俺が出る百メートル走だ。二年なので一年が終わった後だ。順番が来てスタートラインに立つと皆早そうに見える。
「レディ」
パーン。
電子銃の音で、一斉に走り出した。三十メートルくらいまでは皆一緒だったけど、一人下がり二人下がり、やがて…えっ?俺だけ。気が付いた時は二位を二メートル以上離していた。
-おーっ、すげぇ。
-あいつあんなに早かったのか。
やっぱりな。東雲の奴運動なんてしていないなんて言っていたけど、隣で走っていたのは陸上部の短距離のエースだぞ。ほら声を掛けられている。
「君、東雲だっけ?」
「はい?」
「俺は、陸上部の堀川秀樹(ほりかわひでき)。これでもこの学校の短距離走者だ。俺より早い奴がいるとは思わなかったよ。どうだ、陸上部入らないか?」
「いえ、俺運動部苦手なので」
「お前なぁ。こんな走りして勿体ないじゃないか」
「あっ、俺クラスの仲間の所帰りますから」
あいつ、自分が何秒で走ったか知っているのか。今の俺のベストに近かったんだぞ。
「堀川」
「あっ、部長」
「誰だ、あいつ。お前より早いなんて」
「2Aの東雲和樹です」
「噂とは全然違う男じゃないか」
「ははっ、あんな噂、あいつへの焼き餅や妬みです。信じない方が良いですよ」
「その通りの様だな」
俺はそんな事を言われているとは露知らずクラスの集合場所に戻ると男子が寄って来た。
「東雲、凄いじゃないか。陸上のエースを二メートルも離すなんて」
「まぐれだよ。あの人調子悪かったんじゃないか」
「でも、今のタイム。堀川のベストに近かったぞ」
真面目に走って失敗したな。
やっぱり和樹、目立っちゃたか。何とかしないと。
お昼は教室に戻って、今日はお母さんが作ってくれたお弁当を開けた。俺のお弁当の中身を見た須藤さんと早瀬さんが、
「東雲君。それって?」
「はい、今日の為にお母さんが作ってくれたんです」
「はぁ、プロ並みじゃない」
「一緒に食べますか?」
「えっ、いいの?」
「ちょっと待ったぁ!」
「えっ?」
「須藤さん、東雲君の個人占有は駄目って言ったじゃない」
「でも、お昼位」
「じゃあ、私達も」
「あははっ、校舎裏で食べようかな」
「「「「駄目!」」」」
かくして、俺の周りは、汗で甘い匂い満載の女子達に囲まれて…。
「神林、一緒に…」
「諦めろ東雲。お前の運命だ」
「そんなぁ」
昼休みが終わり、俺は一度2Aの集合場所に行くと直ぐに午後一番の競技全学年クラス対抗リレーに参加する為、スタートゲートに行った。
やはり、堀川もいた。彼はアンカーだが、俺は中継ぎだ。
「東雲、お前なんでアンカーじゃないんだ」
「運動していないってクラスで言ったから」
「お前、それ良くないんじゃないか」
「もう遅いという事で」
「全く」
AクラスからEクラスまで一学年男女二人ずつ四人が出場して、三年のアンカーが最後に二百メートルを走るという競技だ。俺は二年の三番目。その頃には、ばらけているはずだからポジキープで良いだろう。
「レディ」
パーン。
ゴールの都合上、スタートは生徒側からだ。一周二百メートル、一人百メートルずつ走る。一年の最後でばらけて来た。予定通りだ。
二年生になり次は二番手だ。二年も二番手にバトンが引き継がれて、コーナーを曲がって、後五メートルの所で思い切り躓いた。若菜だ。でも助けに行く事は出来ない。仕方ない。
「若菜、頑張れ。ここ迄来い!」
「うん!」
立ち上がって、バトンを受け取った時、
「和樹」
「任せろ」
彼女が転んだ所為で四位と同時になった。何とかしないと、という思いで全力で走るとコーナーの入口で三番手を捉えて抜き去り、コーナーの立ち上がりで二番手を捉えた。そして思い切り抜き去って、何とかポジを元に戻した。
2Aの集合場所を見ると全員総立ちで騒いでいる。
「あいつ、あんなに早いじゃないか。何が運動した事無いだ」
「ふふっ、武夫。東雲君、これからが大変ね。猫かぶりしていたけど、少しずつ正体がバレてきた感じね」
「ああ、背が高く、美男子、頭脳優秀その上運動能力が高い。これからが楽しみだな」
「そうね。もうあの噂を撒いた連中の言葉は誰も信じなくなるわ」
あいつ、何とか陸上部に入れられないかな。しかし、アンカーだったらさっきのリベンジチャンスだったのに。
―――――
体育祭の時、競技によっては運動部員の参加は認められていない高校もありますが、今回は設定上、陸上部員を参加させています。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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