第14話 静かな日々
それ以来、朝の登校の時、俺が歩いていると男子がヒソヒソと何か言っている。女子は俺に冷たいというか拒否反応を示すような視線を送っている。
でもUSから来たイレギュラーな男がそんな態度をされるのは最初から覚悟していたから我慢した。
教室ではそこまで酷くないけど俺から見ると親しい友達?を除けば大して変わりない。廊下を歩いていても学食に行っても同じだ。精神的には辛いけど、仕方ない事だ。
お母さんが学校で何か有ったの?と言われても答えようがなかった。でも俺に対して厭らしい嫌がらせというのはしてこない。それだけは救いだった。
そしてGWを迎えた。はっきり言って助かった。当分あの学校の生徒の姿を見る事は無い。
GWは両親に無理言って箱山のホテルに泊まっていた。街に行けば誰かに会うかも知れないという気持ちからだ。
そしてGWが明けた日、俺は視線を気にしながら学校の最寄り駅に降りると、何故か俺に対する周りの視線も柔らかくなっていた。理由は分からない。
クラスの人も須藤さんや早瀬さん以外にも朝の挨拶もしてくれる様になっていた。一番変わったのは、学食で一人で食べていると
「あの、ここに座っても良いですか」
なんていう女子も現れて来た。理由は分からない。
俺は、あの視線が向けられた日から放課後は図書室に居る様にしている。お陰で復習や予習が随分進む様になった。
最近、土曜日はお母さんが家に居る事が多いので、家で勉強をしている。日曜日は出かけたり自由にしているのだけど、最近、怪しげな人が声を掛けて来る時がある。
名刺には、○×事務所とか、横文字で知らない会社名を書いているけど、実際は何かの勧誘かも知れない。
危なそうだから全部断っている。
GW明け二週目に行われた一学期中間考査は、何と学年一位だった。自分で信じられない。図書室の勉強のお陰かも知れない。音江が居たらこうはいかなかったろう。いつも遊んでいただろうから。
「東雲、凄いじゃないか。俺も花蓮も完全に置いて行かれたな」
「そんなことないよ。神林や小岩井さんだって同七位じゃないか」
「東雲君にそんな事言われてもなぁ」
和樹が一位。いずれは取ると思っていたけど。やっぱり彼の頭は出来が違う。いきなり連れて行かれたUSで日本人学校に行かずに向こうのミドルスクールに入って三年間でしっかりと勉強して卒業して来たんだ。私の様な並みの頭じゃ、授業について行く事も出来ないだろう。
始業式以来、あらぬ噂で和樹の評判がガタ落ちだった。信じられない陰口を叩く奴もいる。ほとんどが男子だ。彼の容姿を妬んで好き勝手言ったんだろう。
でもGWも明けて流石に飽きたのか、段々噂は聞こえなくなった。そしてこの結果だ。多分、女子がまた動き出すだろう。あの時は皆噂が鎮まるまで様子見という感じだったから。
俺が教室に戻ると両隣りの須藤さんと早瀬さん、それに加藤さんが、
「ねえ、東雲君。勉強教えてくれないかな。このままだと圏外になってしまいそうなんだ」
「えっ、須藤さん三十位だったよね。まだ余裕じゃない?」
「そんな順位、一瞬で圏外だよ。絶対不味いんだ。うちの両親、勉強にうるさくて」
「いやいや、俺なんて…」
そこに神林が
「少しは静かになって来たな。良かったな東雲」
「ああ、何となく。でも噂とは怖いものだな」
「その通りだ」
「神林には感謝しかない」
「じゃあ、俺と花蓮に勉強教えろ」
「い、いやそれは…」
それでも俺は放課後は図書室で勉強する事にした。結果が出た以上ここでやるのが一番だ。
成績順位表が出た日も放課後は図書室で常連さんと同じ様に隅っこに一人でいる。なるべく目立たない様にする為だ。
俺が明日の予習をしていると
「あのう、ここに座っても良いですか?」
「良いですけ…。周り一杯空いてません?」
「いえ、ここで」
「まあ、何処に座るのも自由ですから」
その子は次の日もその次の日も俺の傍に座った。名前も知らない子だ。勿論、それ以来声も掛けて来ない。当然俺からもしないけど。
でもチラッと見ると横顔が結構可愛い。スタイルは…その抜群だ。テーブルに向っていると胸がテーブルにぶつかって苦しそうだ。
「なにか?」
「いえ」
いけない。見てしまった。勉強しないと。
ふふっ、この学院の憧れの君。でも根拠もない噂というか男子の妬みの為に沸いた彼を卑下する噂の為に全校の女子は、彼に声を掛けるいやそんな可愛い事じゃない、彼を自分の物とする為の行動を控えていた。
だけど男子も流石に飽きて来たんだろう。GW過ぎた辺りからそんな噂、愚痴をいう人が激減した。理由は自分達の根拠のない噂そのものが矛盾し始めたからだ。
だから言い合う事に意味を感じなくなった男子が彼の妬みや愚痴を言わなくなった。
そこに彼を良しとする男子達が覆いかぶさるように東雲君を元の方向に持って行こうした。
それが今の結果だ。だから私は彼の詰まらない噂が鎮まる前に、少しずつ、本当に少しずつ彼に近付いた。
私に取って彼は絶対に必要な人だから。他の人に邪魔はさせない。
俺にとってそんな静かな日が続いたが、それとは別にクラスの中では来週末行われる体育祭の事で賑わっている。
「東雲、何に出るんだ?」
「うーん、俺、運動していないからな」
本当は、向こうでは運動は活発に行っていた。勿論色々なコミュニティにも参加した。身長が有った所為でバスケもしていたし、テニスもしていた。
でも日本ではしない事にしている。どうせ碌な事になりそうにないからだ。
「そうか、そんな風には見えないけどな。四月の体力測定でも凄かったじゃないか」
「ああ、あの後は筋肉痛で大変だったよ」
「そうなのか。まあそれでも何か出ろよ」
「うーん…」
「ねえ、東雲君。私と一緒に二人三脚しない?」
「なにそれ?」
「二人三脚知らないの?私が教えてあげる」
「ちょっと、須藤さん待ちなさいよ。それは駄目。東雲君の個人占有は認められないわ」
-そうよ、そうよ。
-須藤さんだけずるいわ。
どうなってんだ?ついこの前まで口も利いてくれなかったのに。
「東雲、リレーと百メートル走でどうだ」
「何か疲れそうだけど」
「よし、決まりだ」
「おい、俺の意見は?」
「尊重したぞ?二人三脚はしないと」
そこかよ。
和樹のクラス内での人気が戻って来ている。私としても嬉しいけど、何とか彼との関係を元に戻せないだろうか。
でも話しかけるきっかけも雰囲気も全くない。あれ以来、和樹は全く私を視界の中に入れていない。
こっちが目線が合ったと思っても彼の目線の中に私は入っていない様な感じだ。全く意識されていない。
今度の体育祭で何かきっかけがつかめればいいんだけど。
体育祭もまじかになった日、いつもの様に図書室で勉強している。もう最終下校の予鈴が鳴る時間の少し前に隣に座る女の子が、
「あの…」
俺は頭を上げてその子を見ると
「な、名前教えてくれますか?」
何でそんな事聞くんだろう。俺は意味の分からない質問に彼女の顔をジッと見ると
「す、すみません。ごめんなさい」
顔を真っ赤にして俯いた。
「俺、東雲和樹って言うんだ。宜しくな」
「わ、私、上条佐那(かみじょうさな)と言います。さ、さようなら」
何なんだ。顔を真っ赤にして教科書を片付けるとあっという間に図書室を出て行った。
訳の分からない子だな。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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