第13話 寂しい新学期の始まり


 俺は、頭の中が真っ白だった。学校の最寄り駅で起こった出来事を全く理解出来なかった。


 山崎豊治、音江のセフレ、二年間付き合ってる、右胸の下のほくろ?一体何が起こったんだ。


 音江は、付き合っている彼氏が居ないからと去年の十月辺りから付き合い始めた。可愛くて優しくて無駄話もしない。

 あっちは経験者だったけど俺が知らないからとゆっくりと教えてくれた。


 でもあいつは二年間も付き合っていたと言っていた。

 俺と音江が付き合い始めて最初の三ヶ月は、毎日会っていたけどそんな素振りは全く見せなかった。


 春休みに入る前、いやもっと前だ。三学期が始まって少し経った頃から、少しずつ会えない日が出て来た。そして春休みは三日に一回は会えなかった。


 あいつの言っていた二年間と一致しない。まさか俺が居ながら山崎と二股掛けられていたのか?でもそんな事出来る子ではない。


 じゃあ一体、今日の事は何なんだ。ただ、音江はあいつの言っていた事を否定していたけど、俺と音江しか知らない事を知っていた。やはり付き合っていたのは事実なんだろう。


 信じたくない、でも突き付けられた事実もある。


 俺の頭の中にまたかという言葉が浮かび上がって来た。運がないのか俺に縁がないのか。




 翌朝、俺はいつもと同じ時間に登校した。学校の最寄り駅で音江が待っていたらどうしようという気持ちが有ったけど居なかった。


 今日は入学式だ。校門は、飾りが付けられて、〇〇年度私立菅原学院高校入学式と書かれている。

 そういえば俺は、去年九月に転入したからこの経験は無かったな。



 教室に入るとまだ音江は来ていなかった。俺が席に座ると両側に座る須藤さんと早瀬さんが挨拶をしてくれた。

「「おはよう、東雲君」」

「おはよう、須藤さん、早瀬さん」

 


 予鈴が鳴って担任の琴吹先生が真っ白なジャケットとタイトスカートで入って来た。似合っています。先生。


 開口一番

「八頭さんは、本日体調不良の為、欠席です」


 クラスの生徒が複雑そうな顔をしている。須藤さんと岩瀬さん、それに若菜が同時に俺の顔を見た。

 

 やはり昨日の事が理由なんだろうか?



「皆さん、入学式が始まります。廊下に出て体育館に移動します」


 ガタガタという音ともに廊下に出ようとすると神林が近付いて来て、

「東雲、今日終わったらちょっと良いか」

「ああ、構わないが」



 入学式が行われたけど、俺に頭の中の半分は音江の事だった。昨日からの事が全然スッキリしない。

 気が付くと入学式も終りが近くなっていた。



 入学式も終り教室に戻って来ると何となく教室の中がざわついている。入学式とは関係なさそうだ。



 琴吹先生はまだ戻ってこない。色々有るのだろう。その内須藤さんが小声で


「東雲君、昨日ね。駅前で君と八頭さんそれにもう一人の男の人、多分八頭さんの元カレじゃないかな。三人が話をしている所を聞いてしまった人が多くて」

「……………」


 そういう事か。だから朝来た時といい、今といい、ざわついているんだ。


「だから八頭さん、それが原因で…」


 担任の琴吹先生が入って来た。簡単な注意事項を言った後、終わりとなった。直ぐに神林が近付いて来て、

「東雲、ちょっと良いか。あっ、帰り支度で構わないから」


 連れて来られたのは裏庭。

「東雲、さっき須藤さんがちょっと言っていた件だ」

「……………」


「おまえ、八頭さんに元カレが居た事知らなかったのか?」

「なんでそんな事聞く?」

「いや、色々好き勝手に言っている奴がいてさ。八頭さんを二人の男が取り合っているとか、元カレが振られた腹いせに仕返しに来たとか、他にも色々言っていてな。でもはっきりってどれも正しくない。

 八頭さんが大学生と付き合っていたのは去年の六月まで。結構ラブラブでさ。学校にまで来る様な奴だったから」


「前に付き合っていた相手が居た事は知っていたけど、俺と付き合い始めた時は、もう別れたと言っていた。

 俺も確認して付き合い始めたんだが、昨日の話で分からなくなった」

「そうか、実は八頭さんとその男がラブホに入って行く姿を見たって知り合いがいてさ。それが今年の二月中位からなんだ」


 そういう事か。

「だから、お前と八頭さんは別れたのかと思ったんだけど、始業式の時、ラブラブで来たから、あれって思たんだよ。そしたら昨日の事だろう。気になってな」

「そういう事か。確かに音江は二月くらいからなんか変だった」

「確定だな。理由はどうあれ、八頭さんがしていた事は、お前を裏切っていることになる。残念だけど」


「なあ、何で神林は俺にそんな事言うんだ?」

「東雲は、俺の大事な友達だ。だから変な噂に巻き込まれない様にする為だよ。火消さ」

「変な噂?」

「その内分かるよ」



 翌日から登校中でも学校内で歩いていても学食に居ても、何かジロジロ見られている気がする。前の様な好意的な目じゃない。あまり気持ちが良くない視線だ。


 音江はずっと休んでいる。理由は分からない。俺への連絡もない。連絡が無いという事はあれが事実なんだろうな。


 だけど、やはりこのままではと思い、音江に連絡をして見たけどスマホを変えたのか通じなくなっていた。


 ただ、このままではあまりにも良くない。音江とは別れた訳では無いと考え彼女の家に行ったけど、母親から

「音江はあなたと会いたくないと言っている。帰りなさい」


 とても冷たい言い方だった。あの時、音江を一人にしない方が良かったのだろうか。


 私は、二階の窓から和樹が帰って行く姿を見ていた。本当は会いたい。会って抱き締めて貰いたい。


 でも豊治との事実を知られた。これ以上和樹と会うのは、彼に対してあまりにも失礼だ。だから…。もう会わない事に決めた。


 豊治については、その日に両親に話をして弁護士を通して、直ぐに警察に連絡して貰った。家に居た豊治のスマホに私が寝ている間に乱暴している録画が残されていた為、その場で逮捕された。


 弁護士の話では、彼は二十歳を過ぎている。未成年に対する薬物使用による不同意性交罪は非常に罪が重い。七年は出て来れないだろうと言っていた。


 また、豊治の両親に対しても多額の慰謝料を請求した。でもこんな事で私の心の傷はいえない。


 豊治に騙された時、なぜ直ぐに親に助けを求めなかったのか。今更ながらに悔やまれた。


 和樹と付き合っていた時間は本当に幸せだった。だから豊治の事より彼を優先してしまったのが原因。


 ごめんなさい。和樹。私は本当にあなたを愛していた。だから……。


 後は、思いも続かない位、涙で頬が濡れていた。




 始業式から三週間。担任の琴吹先生が入って来て

「皆さん、残念なお知らせがあります。八頭音江さんが転校する事になりました」


「「「「「えーっ!」」」」」


「静かに。本人の希望です。学校側としては引き留めたのですが、本人の意思が固く、転校が決まりました」


 そういう事か。


 それからというもの、須藤さんや早瀬さん、それに神林や小岩井さんは話しかけてくれるが、それ以外の人はあまり好意的な視線で見てくれなくなった。


 神林の言っていた事と関係が有るんだろうな。俺の知らない所で色々な噂が流れているんだろう。


 俺は、この日以来、登校時や校内での視線は全く無視をする事にした。そして放課後は図書室で勉強か本を読む事にした。


―――――

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