第11話 あれ、何かが違う


 三学期に入っても俺と音江の仲は続いた。

 駅の改札を出て待合せして、手を繋いで学校に行き、お昼は一緒に学食で食べて、放課後は学校から駅まで手を繋いで帰る。


 土曜日、授業が有る時は、放課後そのまま音江の部屋に行って楽しい事をした。最初ぎこちなかった俺も慣れて来たので、二人で楽しんでいる。



 私は、和樹と付き合い始めて毎日が楽しくてしょうがなかった。偶に本当に偶にだけど彼の腕の中に居る時なんて夢の世界にいるようで堪らなかった。


 明日は日曜日。当然彼と会う約束をしている。さっきまで彼は私の部屋にいた。まだベッドの上に温もりを感じる。彼の匂いがある。堪らない。こんな気持ちになるなんて初めてだ。



 いきなりスマホが震えた。和樹かな?私はスマホの画面に映る名前を見た時、体が凍り付いた。

 なぜ?!

 あいつから連絡が来ている?


 でも出ないと後が面倒になる。ゆっくりと通話ボタンをタップすると

『やっと、出たか』

『なに?』

『久しぶりに連絡してやったのに連れないなぁ。そうだ音江、明日会わないか。話が有るんだ』

『嫌よ。忙しいの』

『ふーん。忙しいか。まあいい。またな』


 なんであいつから今更連絡が来るのよ、もう別れたはずなのに。連絡先ブロックしてなかったのが失敗だったわ。私は直ぐにあいつの連絡先をブロックした。



 それから一ヶ月ほどは和樹との楽しい時間を過ごした。そしてあいつの事は忘れていた。また、私は部屋に居る時、スマホが鳴った。何故か嫌な予感がした。


 スマホの画面を見ると知らない番号からだ。出ずに切るとまたすぐに鳴った。切るとまたすぐに鳴った。この時、この番号もブロックすれば良かったのに…。


『はい』

『やっと出たな。おっと、切るなよ。何度でも手を変えて掛けるからな』

『……………』

『明日、渋山のハチ公前交番の横で午後五時に待つよ。なに、話したいだけだ。必ず来いよ』

『分かった』


 私は翌日、和樹と駅まで行くと一人で家方向のホームに行った。いつもは送ってくれるけど今日は良いと言っておいた。


 私の家のある駅から学校とは逆方向に三つ目が渋山だ。家からは近い。改札を出て約束の場所に行くとそいつは立っていた。

「音江、久しぶり」

「豊治(とよじ)」


 私と待合せた人物は山崎豊治(やまざきとよじ)。大学二年生だ。彼が大学一年の初めの頃、私に渋山で声を掛けて来た。


 結構なイケメンだ。金払いも良く随分ご馳走してくれたけど、彼の浮気が原因で別れた。去年の六月の事だ。何故今になって。


 私達は近くの〇ックに入ると

「俺、あいつと別れた。だからもう一度付き合ってくれ」

「何言っているのよ。浮気したのそっちでしょ。別れたからってはいそうですかって戻れる訳ないでしょう」

「そう言わないでくれあの時は魔が差したんだ」


「どっちにしろ。もう復縁する気は更々ないから」

「今付き合っている奴が居るのか?」

「あんたには関係ないでしょ」


「そうか、そういう事か分かった。じゃあ出るか」


 あれ、何か足元が…。

「おいどうした?」



 気が付いた時はラブホでされた後だった。

「ふふっ、久しぶりだな。気持ち良かったぜ」

「あんた、薬盛ったのね」

「さぁ、何の事だ。お前が来たいと言ったから連れて来ただけじゃないか」

「何ですって!」

「それより、もう一度するか。一回じゃ詰まらないよな」

「何言っているのよ。帰るわ」

「駄目だな。これ見ろ」

「えっ?!」


 私が寝ている間に撮られてしまっている。

「誰にも言わないから、なっ」


 悔しいけど従うしかなかった。そして和樹とは全く違う。こいつは私の弱点を知っている。悔しい。


 三回も終わると

「付き纏うとかしないからしたい時にさせてくれ。食事とか美味しい物奢るし、洋服だって買ってやってもいい。悪い条件じゃないだろう。

 でも約束破ったらネットにこれを流す。考える必要も無いだろう」


 悔しいけど従わざるを得なかった。あんなのも流されたら学校を退学になっただけじゃ済まなくなる。



 

 最近、音江が俺と会えない時がある。用事があると言っている。まさか倦怠期じゃないよな。まだ付き合って半年なのに。


 今、音江は俺の横にいて、学年末考査の準備をしている。後、一週間だ。

「和樹、ここ教えて」

「うん」


「ここは?」

「ああこれか」


 考査ウィークに入って五日目。来週の月曜から木曜日までしっかりとある。この考査は二年のクラス分けにも影響するから二人でしっかりと勉強しないといけない。


「今度の土曜日は、いつも通りで良いか?」

「ごめん、午前中用事があるんだ。午後からうちでしようか」

「いいよ。日曜日は?」

「…うん、勿論一緒」

「そっか。良かった。最近、日曜日会えない時が多いからさ」

「ごめんね。ちょっと家の用事が有って」

「それなら仕方ないな」



 私は土曜日の午前中と日曜日、豊治と会う約束をしていたが、学年末考査直前なので日曜日は断った。流石に考査前は仕方ないと言ってくれたけど。



 土曜日午前中は豊治と会った。勉強を理由に午前十一時までと言ったら、結局、ラブホを出たのは午前十二時近かった。

 午後一時には和樹が来る。だから急いで家に帰ってシャワーを浴びてから自分の昼食用にチャーハンと作った。これを作って食べれば、石鹸の匂いも消える。



 和樹は午後一時十分前に来た。そして家に上がると

「あれ、チャーハン食べたの?」

「うん、お腹空いて」

「そうか、午前中の用事ってお腹が空くほどの事だったんだ。力仕事なら手伝うよ」

「ありがとう。でも自分で出来るから」



 彼の純粋な気持ちを裏切っている私は心苦しくて仕方なかったけど、今は何とか乗り切るしかない。


 春休みになったら、親に素直に打ち明けて弁護士を立てて、和樹が知らない内にあいつから距離を置く用にするしかない。


 音江、チャーハン食べたって言っているけど、首元とか石鹸の匂いがする。朝、力仕事したからシャワーでも浴びたのかな?


―――――

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