第10話 楽しい時間と賑やかな人達


 俺は八頭音江と正式に付き合う事に決めた。翌日学校の最寄り駅に行くと音江が待っていた。

「おはよう、和樹」

「おはよう、音江」


 周りにいた同じ学校の生徒が驚いた顔をしたけど、今の内だけだろう。音江は俺の横に並ぶと手を繋いで来た。


 一瞬躊躇したけど、俺も握り返すとこっちを見て微笑んだ。よく見れば綺麗な子だ。

 背が高く、長い艶やかな黒髪。目がはっきりと大きく鼻がスッと通っている。可愛い唇とそれらのパーツを生かす綺麗な顔の輪郭だ。胸もしっかりあって腰も括れている。素敵なスタイルだ。


「どうしたの、和樹。私をジッと見て?」

「今更だけど、音江って綺麗だなと思って」


 あっ、顔が赤くなった。

「痛い!」


 繋いでいた手を放して俺の腕をポカポカ叩いて来る。

「なによ。急に。恥ずかしいじゃない。…嬉しいけど」

「あははっ、そんな所がまた可愛いな。痛い!」


 また叩かれた。


 手を繋いで校門をくぐり昇降口まで行く。

「じゃあ、和樹。お昼にね」

「おう」



 俺が教室に入って直ぐには自分の席には行かず神林の所に行き、

「おはよう、神林、小岩井さん」

「おう、おはよ、東雲」

「おはようございます。東雲君」


 俺はそれから若菜の顔を見ない様にして自分の席に座った。若菜はこっちを向いて

「おはよう、和樹」

「おはようございます。如月さん」


 それだけ言うと彼女を無視して一限目の教科書をバッグから取り出した。



 和樹が、まだ目も合わせてくれない。もう後藤とは別れた。あいつ別れてやるから一度だけさせろとか訳分からない事言って来たけど無視した。もう関係無い。


 でもしつっこく言って来て、それするまで学校内では声を掛けるからといわれて仕方なく一度だけさせた。場所は私の部屋。


 もう終わりだからと思ったけど、やっぱり体は反応してしまった。そしていつもと違う感じ、そう強く感じた。気が付いたらあいつ避妊してなかった。


 滅茶苦茶怒ったけど、もう終わりだからって好きな事言って、するだけしたらバイバイと言って勝手に帰って行った。


 私は、シャワーを浴びて洋服を着ると直ぐにドラッグストアに行って恥ずかしいけど隅で薬剤師に理由を言って錠剤を売って貰った。


 本来は、医者の処方が必要だという事だけど、時間無いと言って無理を通した。あれから、一ヶ月経ったけど、変な兆候は無いから間に合ったみたい。

 でも後藤は、それ以来、私には声を掛けて来ないし近寄っても来なくなった。



 後は、和樹に後藤とはっきりと分かれた事を話して、元に戻るだけだけど、全然きっかけがつかめない。最近は八頭さんと土日も会っている様だ。まさかとは思うけど。




 午前中の授業が終わりお昼休みになった。でも和樹は動かない。どうしたのだろうと思っていると

「和樹、お昼食べよう」

「えっ?!」


-えっ、1Bの八頭さん、今なんて言った?

-東雲君にお昼食べようって。

-手に持っているのってお弁当バッグだよね。それも二つ。

-まさか!



「おう、音江、待っていたよ。学食で食べるか」

「うん」


-えーっ!聞いた?

-うん、東雲君が、八頭さんに…。

-悔しいーっ!



 俺は席を立って音江の所に行くと

「賑やかなクラスね」

「いつもの事だ。それよりお腹空いた」

「うん」



 和樹、八頭さんを選んだんだ。皆が手を子招いている間に…やられた。でも彼女、確か…。



 俺達は、学食の隅の方のテーブルに座ると

「はい、こっちが和樹の分」

「おう、ありがとう」


 音江のお弁当箱は俺のより一回り小さい。蓋を開けると

「おおっ!」


 真っ白いご飯に大きな鳥唐揚げ、卵焼き、ミニトマト、レタス、茄子の煮浸しが入っている。

「どうか、口に合います様に」


 俺は鳥唐揚げを噛んで半分口に入れると良く咀嚼した。鳥の旨味と肉汁がジュワーッと口の中に広がる。更によく噛んで喉を通すと

「美味いよー。これ」

「そう、良かったわ。他のも食べて」

「うん」


 卵焼きも塩味を控えめにして卵の旨味が良く出ている。茄子の煮浸しも美味しかった。

「美味いよ」

「ふふっ、明日からも作って来て良いかな?」

「勿論だよ。でもタダという訳にはいかないから…」

「ふふっ、愛情をお金には替えられないわ。だからお金は受け取れません」

「そ、そうか」


 音江と楽しい会話をしながら彼女の作ったお弁当を食べた。周りからの視線が物凄いが慣れるしかない。



 午後の授業が終わると昇降口で待ち合わせて一緒に帰る。そういえば、最近若菜と後藤が一緒に居る所を見た事無いが何か有ったのかな、俺には関係ないけど。



 そんな楽しい時間が毎日続き、冬休みも近くなった時、クリスマスイブに彼女の部屋で初めて彼女とキスをして…初めての事もした。彼女は経験者だったけど、上手くリードしてくれた。次からは俺がしないと。


 クリスマスの日は、俺は両親と一緒にホテルでクリスマスディナーを食べた。お母さんが目立っていたけど、それは仕事柄仕方ない。いつもの事だ。


 その後、三人でマンションに帰って、俺は先に風呂に入って自分の部屋に入った。後は両親の時間だ。




 お正月は、音江と一緒に初詣に行った。音江は着物姿だ。赤を基調とした素敵な着物だ。

 USではこういう習慣がなかったし、小学校の頃も両親の仕事の所為で、三が日中には行けなかったから、とても新鮮だ。


「うわーっ、やっぱり元旦は混んでいるわ」


 確かに神社の鳥居まででも五十メートル以上はある。更に境内に入る前に何重にも列が作られている。


「凄いなあ。いつもこうなのか」

「正月三が日位だと思うけど。でもこの神社有名だからね」


 境内に入り、お参りの仕方が書いてある説明書きを頭に入れてから音江と二人で参拝した。


 それが終わってから二人でおみくじを引いてみた。

 俺は中吉、彼女も中吉だ。音江は嬉しそうに

「ふふっ、いつも一緒ね」

 と喜んでいた。


 勿論、冬休みの宿題は音江の家で一緒にやった。両親には紹介していないけど、俺に彼女が出来たらしい事は何となく分かったようでお母さんが


「早く会いたいな」

 なんて事を言っている。音江には俺の家族の事は言っていないし、聞いても来ないので話していない。


 第一印象は積極的な子だなと思ったけど付き合って見るととても優しいし、お喋りでもない。


 静かな時間は何も言わず一緒にいて、楽しい時は思い切りの笑顔で大きな声で笑う。本当に素敵な子だ。この子とずっと一緒に居たいと思った。


―――――

投稿初めは皆様のご評価☆☆☆を頂くと投稿意欲が湧きます。

宜しくお願いします。

感想や、誤字脱字のご指摘も待っています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る