第9話 中間考査の後に


 俺はそれ以来、放課後になると直ぐに家に帰って、その日の復習と明日の予習をした。


 十月に入った。後二週間で中間考査だ。若菜は昼休みになると後藤と一緒に学食に行って、放課後はいつも一緒に帰っている。


 こんなに仲が良かったんだ。だとしたら若菜は俺を揶揄っていただけなんだろう。そう思った俺は、そんな姿を見るのが嫌で、昼に学食で食べるのを止めて購買で買って校舎裏のベンチで食べたり、先客が居る時は教室で食べたりした。


 クラスの人は、もうあまり俺に構う事も無くなった。元々友達が居ない俺だ。この状況を最初は予定していたから寂しさとかは無かった。




 最近、和樹は一人で居る事が多い。クラスの人も彼に話しかける事が少なくなった。理由は二つ。


  一つに学園内で有名になり過ぎた事がある。

 彼と話をしたり付き合う事になったら、いじめが身に降りかかるかも知れないという全員竦みぜんいんすくみの状態になっている。


 もう一つは、やはり彼の雰囲気にもある。

 声を掛ければ色々話すが、社交的とは言えないのだ。話が続かず途中で切れてしまうからだ。

 でも和樹は騒がないが人付き合いは上手くできる。慣れていないのだと思っている。


 だから、だからこそ今がチャンスなのに。あの時見られた事なんていくらでも言い訳は出来る。実際、何回もしている訳ではない。


 彼が処女厨でも無い限り、そんな事は問題にならない筈だ。問題は孝之が別れてくれない事だ。


 だから、最近は会う事も減らす様にしている。土日はもう会っていない、けど学校で寄って来られたら、人目もある無下に断れないのも事実だ。


 前は昼一緒に食べる事もなかったのに最近は食べる様になった。明らかに他人の目を意識した行動だ。これで孝之と私が付き合っているという事を見せつけたいからだ。


 だからという訳でもないが、最近は彼の事が鬱陶しくなって来た。やはり中間考査が終わった後、もう一度別れを切り出そう。




 来週から中間考査。今は考査ウィークといって授業が午前中だけになる。俺は家に直ぐに帰って勉強していたけど、八頭さんが図書室でやるのも良いんじゃないと言って来た。


 確かに気分は変わるし、良いかもと思って図書室に行く事にした。但し、矢頭さんも一緒だ。これは仕方ない。土日は家で一人で勉強した。


 そして考査期間に入った。火曜日から金曜日までしっかりと入っている。考査を受けた後、家に帰っては次の日の考査範囲の勉強をした。


 考査が終わった金曜日。家に帰ろうかとした時、教室の出入り口に八頭さんがいた。

「東雲君、帰ろうか?」


-えっ、どういう事?

-なんで1Bの八頭さんが東雲君に声掛けるの?

-如月さんが脱落して安心していたのに。


 また好き勝手言っている女子三人組。それを無視して八頭さんの所に行って

「ああ、帰ろうか」

「うん」



 まさか、八頭さんが和樹に触手を伸ばすなんて。彼女は和樹と何処にも接点がない筈。なんで?



 次の週の火曜日。成績順位表が中央階段横の掲示板に張り出された。昇降口で履き替えると俺はそのまま通り過ぎようとした。何故って俺には縁のない事だから…と思っていたら神林から


「東雲、凄いじゃないか」

「えっ、何か有ったのか?」

「お前の成績順位だよ」

「いや、俺はこれには縁がな…。在った」

「九月に転入して来て、まさかの五位かよ。俺より凄いじゃないか」


 確かに神林は十位。小岩井さんは仲良く十一位だ。


「偶々だよ。それに中間だし。期末はこうはいかないよ」

「ははっ、謙遜、謙遜」



 和樹が五位に入った。また目立った。私は二十位、全然下だ。


「東雲君、凄いじゃない。私なんか二十五位よ。今度勉強教えて」

「八頭さんか。まあ縁が有ったら。俺、教室に戻るから」


 ふふっ、これでいい。こうでないと私の彼に相応しくないわ。後は…。



 中間考査の後は、平穏な時間が過ぎて行った。相変わらず八頭さんとは金曜日の放課後だけファミレスや喫茶店で二時間位話をする。


 月末に健康診断が有った。身長は向こうで計ってからもう一年経っている。百八十二センチはその時の身長だ。


 健診の先生が、

「はい、百八十七センチ。一年にしては大きいわね」

「あははっ、育ち盛りです」


 一年で五センチしか伸びて無かった。そろそろ伸びが止まるのかな。


 珍しく、十一月に入って最初の土曜日、二人で映画に行った。彼女がどうしても見たい映画が有るけど一人では行けないと言われたからだ。


 それがきっかけで土日も二人で会う事が多くなった。そして

「ねえ、東雲君。私達、これだけ二人で居るよね。それって私の事嫌いじゃないからだよね」

「嫌いだったら最初から会っていない」

「じゃあ、私の事好き?」

「…まあ、好きといえば好きかな」

「私、東雲君のこと大好きだよ。勿論異性として。…お願いです。お付き合いして下さい」

 彼女が頭を下げて来た。場所は勿論公園のベンチ。


 そんな事言われてもなぁ。何となく男の子との付き合い慣れている様だし。


「あの、一つだけ聞いて良い」

「うん、何でも」

「八頭さん。今お付き合いしている彼居ないよね」

「勿論だよ。正直過去に居たけど、もう随分前の話だし。居ればこんなに土日会えないよ」

「分かった。そういう事なら付き合おうか」

 若菜の事はノーカウントだから良いか。


「じゃあ、和樹って呼んでいい。お昼一緒に食べていい。お弁当作る」

「名前呼びは良いけど。お弁当は…」

「私こう見えても料理上手なんだよ。そうだ、明日の月曜日作って行くから、一度食べて。口に合わなかったら諦める」

「そこまで言うならいいよ」

「やったぁ。ねえ、私の事、名前で呼んで」

「いいよ。音江」

「えっ?!」


「どうしたの?」

「もっと、恥ずかしそうに言うかと思ったから」

「あっ、ごめん。向こうに居た時は親しい友達は男女関係無く名前呼びだったから」

「そっか、名前呼び慣れているのか」

「ごめん」

「ううん、謝らなくていいよ。じゃあ早速今から名前呼びだよ和樹」

「うん、音江」


 こっちが恥ずかしいよ。こんなにスッと言ってくれるんだもの。もっと歯に噛むと思っていたのに。でも嬉しいな。


「ねえ、学校でも名前呼びで良いよね」

「全然いいけど?」


 なるほど、彼は名前で呼ぶことに抵抗が無いんだ。ふふっ、後は、あれだけね。


―――――

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