第6話 文化祭当日は色々ある
文化祭、これは土曜と日曜を使って開催される。土曜日は生徒だけ、日曜日は生徒関係者、一生徒に二名迄が入場できる。
両親とも来たかったらしいが、お母さんは芸能界復帰を決めたらしく、忙しいからとお父さんだけ来てくれる事になった。
俺が高校でどんな風に過ごしているか見て見たいと言っていた。確かに心配するよな。
土曜日午前十時、生徒会長の開始の放送と共に開始された。予想はしていたけど、全然入ってこない。
一時間位経ってからパラパラと生徒が入って来るようになった。俺の担当時間は午前十時から午前十二時までだ。
段々、入って来ているが、忙しいと言う程でもない。だけど、廊下にある受付を通して入って来た生徒に
「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ」
と言うと何故か顔を赤くしてぼっとする。
「こちらメニューです。決まりましたら声を掛けて下さい」
と言うと中には
「君」
とか訳の分からない人もいた。
午前十二時になり、担当時間が終わると実行委員の神林が声を掛けて来た。
「なあ、東雲。悪いんだけど、このプラカード首から掛けて如月さんと校舎を回って来てくれないか。これから昼時になる」
「えっ?!」
プラカードには1Aで喫茶店をやっているという事が書いてある。なるほど動くCMか。
「分かった。取敢えず一回りで良いよな」
「ああ、勿論だ。如月さんも頼む」
「うん、分かった」
なんてラッキーなの。和樹と二人で校舎内を回れるなんて。
「和樹行こうか」
「おう」
二人でプラカードを首に下げて廊下を歩いている。一階から三階までと校舎の周りで模擬店をしているからその辺も回る事にした。
二人で歩いていると結構ジロジロ見られる。二階とか三階の上級生の階に行くと結構声を掛けられた。
「君、給仕しているの?」
「はい」
「何時から?」
「午前十時から二時間です」
「そう、その時行くね」
「ありがとうございます」
若菜も同じように声を掛けられていた。
それにしても若菜が可愛いい所為か思い切り注目を浴びている。同じような事をしている他のクラスの人も居るんだけどな。
四十分程ゆっくりと回ってから教室に戻って神林にプラカードを渡すと
「ありがとう。客の入りが良くなったようだよ。明日も頼む」
「分かった」
この後は、このままの流れで若菜と一緒に模擬店で好きな物を一緒に食べた。
「若菜、後藤と一緒でなくて良いのか?」
「いいの、いいの。文化祭だから」
意味の分からない事を言っているが、本人が良いと言うからにはいいんだろう。
その後は、二人で他のクラスの催し物や体育館でやっているブラスバンドや軽音等も聞いて回った。
私にとっては最高の一日だ。和樹と事実上のデートだ。明日も出来るようだし。嬉しい。
一日目が生徒会長の放送で終了すると一度教室に全員が戻って、今日の簡単な反省というか明日への注意事項を神林君からまとめて説明を受けると解散になった。
私は、そのまま和樹と一緒に駅まで帰ろうと教室を出ると
「東雲君」
中学時代に一緒だった八頭音江さんが立っていた。
「あっ、八頭さん」
「東雲君、この前放課後一緒に帰って話をしようと言っていたじゃない。あれ流れちゃったから今日どうかな?」
「ごめん、今度にして」
「そう、じゃあまたね」
何で八頭さんが和樹に声を掛けたんだろう。中学時代は別クラス。三ヶ月もいなかった和樹の事知るはずなかったのに。
二日目は、午前十時に生徒会長の放送で開始されると…。何故か既に廊下に生徒が並んでいた。どうしてだ?
八つしかないテーブルはいつも満席。給仕は四人で対応していたが、急遽五人対応になった。
席に案内するのはその時手が空いている人だけど、注文は俺の所に集中した。流石に一人では対応できなかったので他の人にも頼んだけど、俺が来るまで待つという始末。回転が悪くて仕方なかった。
開始からやっと二時間、担当から解放されると神林が
「お疲れ様。東雲大変だった。モテる男は辛いと言う所だったな」
そう言って笑っていたけど、こっちの身にもなって欲しいよ。
「疲れている所申し訳ないが昨日みたいにプラカードを下げて如月さんと一緒に校舎を回ってくれ」
「分かった」
「うん」
ふふっ、給仕も一緒。プラカードを首に下げて校舎を回るのも一緒。この後のお昼も一緒。その後も嬉しくて堪らない。
昨日みたいに四十分、いえ今日は五十分かかった。一般の人からも和樹は随分声を掛けられていたからだ。
一通り回ってから教室に戻ってプラカードを神林に帰すと
「二人のお陰で入りは順調だ。助かったよ」
「役に立ててうれしいよ。じゃあ、俺達は昼に行っていいか」
「ああ、もう勿論だ。楽しんで来てくれ」
教室を離れると
「若菜、午後二時にお父さんと校門で待ち合わせしている」
「えっ、そうなの?私も一緒でいい?」
「別に構わないさ。お父さんも喜ぶんじゃないか」
「ほんと!」
その後も昨日と一緒に好きな食べ物を模擬店で買って二人で食べた後、催し物を見て回ろうとしたんだけど、食事をしている私達の前に孝之が現れた。
「若菜。俺と一緒に回らないか?」
「えっ?」
「東雲と回るのは面白いだろうけど、俺はまだ君の彼氏だ。別れたつもりは無い。一緒に回ってくれてもいいだろう」
後藤という男は結構紳士のようだ。横暴な雰囲気は全くない。
「若菜、回ってくれ。昨日も一日東雲と回っていたじゃないか」
「でも」
「若菜、後藤の言う通りだ。そうした方がいい。俺はお父さんが来るし」
「……………」
和樹が行ってしまった。
俺はその後、若菜がどうしたか分からなかったけど、午後二時にお父さんを校門のところで待合せしてから、最初に1Aに連れて行った。
お父さんの背も大きい。俺よりある。流石に二人で廊下を歩くと目立った。教室について受付の子に言ってチケットを受け取ると教室に入った。
「ほう、ここが和樹が勉強している教室か。綺麗に飾りつけされているな」
俺達を席に案内してくれた女子が
「はい、東雲君のお陰で高い所も皆付けられました」
「そうか、和樹が役に立っているのか」
「はい」
その子は嬉しそうにお父さんと会話した後、注文を聞いて特設の厨房に行った。
-ねえねえ、東雲君のお父さんってカッコいいわね。
-でも東雲君の顔はお母さん似なのかな?
-確かにそうね。お父さん似じゃないわよね。
-噂だと、東雲君のお母さんてあの有名な北川塔子らしよ。
-えーっ!
-静かに!
-そうなの。お父さんもUSで仕事をするくらいの人なんでしょ。
-いまからならまだ間に合うわ。
-うん、うん。
聞こえているぞ女子諸君。しかし誰だ。人の家のプライベートな情報を流しているのは。
お父さんとはそれから少しして帰って行った。俺が皆に頼られていると思われたらしくとても嬉しそうな顔をして帰って行った。
その後、一人になったけど、教室に戻る気にもならず、終了まで後一時間半。一人でぶらぶらして昨日みたに体育館の隅で演劇や軽音を聞いていると
「ふふっ、居たわね」
「あっ、八頭さん。あなたも一人ですか?」
「うん、彼居ないし。ねえ、東雲君、友達になろうよ」
「友達なら別にいいですけど」
「本当。休みとか会えるかな?」
「うーん、いきなりそういう話はちょっと」
「そうだよね。じゃあゆっくりと一緒に歩もうか」
「……………」
どういう意味だ。
体育館の催し物も文化祭終了三十分前に全て終わった。俺と八頭さんが体育館を出ると若菜と後藤が手を繋いで歩いている。
似合っているじゃないか。若菜もいやそうな顔していないし。やっぱりまだ後藤に気が有るんじゃないか。
「如月さん、うちのクラスの後藤君ととても仲が良いのよ。どこまで進んだかなんて知らないけど、あの手の繋ぎ方からしたら結構進んでいる様ね」
「手のつなぎ方?」
「そう、指をお互いに絡ませているでしょう。あういうのを恋人繋ぎっていうの。東雲君は本当に経験ないんだ」
「また、ストレートに言う人だな。確かにまあ、…そういう事だけど」
「じゃあ、私とそういう事する?」
「あの、そういう事をいきなり言う人は苦手なんですけど」
「あははっ、冗談に決まっているじゃない。じゃあそろそろ教室に戻ろうか」
ちょっと苦手だなこの人。
―――――
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