第5話 二学期は忙しい


 月曜日、俺はいつもの様に登校した。教室に入ると俺は若菜に

「若菜、おはよう」

「おはよう、和樹」


-うーん。金曜日の事、あまり効果なかったのかな?

-そうでもない様に思うけど。

-なんで?

-二人の言葉が渇いている。

-へーっ、そんな事良く分かるね。将来心理療法士にでもなったら?

-なにそれ?



 あの三人組が朝から何やら言っている。バッグを机の横に掛けて椅子に座って本を読んでいる内に予鈴が鳴って担任の御子柴先生が入って来た。挨拶を終えると


「後、二週間で文化祭が有ります。今日午後のLHRで委員と催し物を決めますので各々考えておいて下さい」


 御子柴先生が教室を出ていくと少しざわついたが、直ぐに一限目の先生が入って来た。


 俺がこのクラスに来て二週目。流石に興味を無くしたのかそんなに中休み色々聞いて来る人は居なくなった。


 二限目が終わり、俺がトイレに行く為に廊下に出ると丁度1Bから八頭さんが出て来た。

「あっ、東雲君」


 俺はその言葉に頭を軽く下げてから廊下を歩こうとすると彼女が近付いて来た。


「学校慣れた?」

「まだ全然です」

「そうかぁ、ねえ、今日の放課後用事ある?」

「特に無いですけど」

「じゃあ、ちょっと話をしない」

「いいですよ。ちょっと急ぐので」

「分かった」


 ふふっ、彼はまだ友達もいないみたいだ。ここはさっと近付くか。



 午前中の授業も終り、昼休みになると若菜が声を掛けて来た。土曜日の午後あういう話をしたからって、別に仲が気まずくなった訳ではない。お互いの今の関係を認識しただけだ。それは割り切っている。


「和樹、学食行こうか」

「ああ、そうするか」


 

 和樹と二人で学食に行く。先週の様に女子三人組が絡んで来る事はない。二人で静かに食べていると視線を感じた。


 そっちの方を見ると孝之がこっちを見ている。だからと言って何をして来る訳ではなさそうだ。


 そのまま、和樹と昼食を食べ終わって食器を食器洗浄室に流しいれると二人で学食を出ようとした時、孝之が声を掛けて来た。

「若菜」

「俺、先に帰っているよ」


 後藤が若菜に声を掛けて来た。俺は関わりないようにそのまま彼の横をすり抜けて行った時、睨まれたような気がしたけど気にしてもしょうがない。


「孝之何?」

「話しが有る。裏のベンチに行こう」

「いいよ」


 若菜は予鈴が鳴るギリギリまで帰って来なかった。色々有るんだろう。



 午後一限目の授業が終わると中休みが終わって、担任の御子柴先生が入って来た。紙の束を持っている。


「これを後ろに回して」

 席の列毎の先頭の人に何枚か渡している。紙が俺の所に届くと文化祭についての事が掛かれていた。


 文化祭実行委員を決めるとか催し物を決めるとか実際の実行案の作り方とか、それを生徒会に持って行って確定させるとか手順なども書かれていた。


「読めば分かると思いますが、先ずは文化祭実行委員を男女一人ずつ決めて下さい。誰かなりたい人が居ますか。自薦他薦誰でも良いですよ」


 やはりこういう仕切りを好きな奴がいるようで自薦で男子が一人決まった。確か神林武夫(かんばやしたけお)とか言っていたな。


 彼が実行委員をやると言うと女子から何人か手をあげた。人気が有るらしい。女子は俺に声を掛けて来た須藤さんだ。彼女はこういうのが好きなんだ。


「皆、神林武夫だ。文化祭の実行委員をやるから宜しく」

「同じく須藤京子よ。宜しくね」

 中々二人とも積極的だな。


「皆、催し物何にするか決めよう。紙に書いてある通りだけど、下にこれ以外でもいいと書いてある。何がやりたいか言ってくれ。須藤さんは黒板に書いてね」

「うん」


-メイド喫茶。

 何だそれは?

-たこ焼き屋

 何だそれは?

-お好み焼き屋

 これは知ってる。

-クレープ屋

 分かる。

-執事喫茶。

 なんだそれは?

-普通の喫茶

 なるほど。


「他に無いか?」


-焼きそば屋

-うどん屋

-ポテトフライ

 何故か食い物が多い。


「色々出たから多数決で行くぞ」


 神林が黒板に書かれた催し物案毎に賛成者を確定していく。


「如月さん、東雲。二人だけ手を上げていないぞ。どれがいいんだ?」


 いけない。孝之と昼休み時間話した事で頭が一杯だった。

「私は、…普通の喫茶店」

「俺は、…普通の喫茶店」


「ほう、二人共同じか。この二票は大きかったな。普通の喫茶店に決まりだ。だけど普通の喫茶店って何するんだ。これ挙げた人、説明してくれ」


 普通の喫茶店を説明し始めた。要は模擬店などと違い、手間かけずにコーヒーとか紅茶とかと一緒に出来合いのケーキとかを出せばいいと言う事らしい。


 そのネタはどうも親戚にそういうケーキを作って売っている人が居るからだそうだ。何となく思いは分かった。


 神林は、予算とか仕入れ方法とか実行案をドンドンまとめていく。中々だ。俺は裏方を希望したが、残念ながら二日ともフロアを午前の二時間任される事になった。


 文化祭迄の二週間は放課後、飾り付け等を皆で作ったりして何となく充実した雰囲気で俺もクラスに馴染んで来た。


 文化祭の前日、飾り付けとかをする時、クラスで一番背の高い俺は何故か一番こき使われている気がするのは気の所為か。


 そういえば、八頭さんとの放課後のお話は文化祭の準備でお流れになっていた。




 私は二週間前の昼休み、孝之から和樹との関係を詳しく教えろと言われた。私が悩んでいる時、話したはずなのにもう一度聞かれた。


 その上で別れたいと彼に言うと和樹が理由なのかと問われたのでそうだと言うと絶対に別れないからと返された。


 当たり前だよね。自分の都合のいい時だけ優しくしてもらって、和樹が目の前に現れたらさよならじゃ、人としても失礼だと思う。でも私は孝之への気持ちは切れてしまっている。


 時間が無くまた話そうと言っていたけど、文化祭の準備を理由に会わなかった。土曜日も日曜日も体調が悪いという理由で会わなかった。


 教室に居ればいつも和樹の傍に居れる。この方が良かった。


―――――

投稿初めは皆様のご評価☆☆☆を頂くと投稿意欲が湧きます。

宜しくお願いします。

感想や、誤字脱字のご指摘も待っています。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る