第3話 もう一人の中学時代の友達
俺が通う私立菅原学院高校は、俺の家の最寄り駅から四つ目の駅で降りる。まだ夏服だけど、それでも十分に暑い。ボストンでは今の時期もう最高気温は二十五度を切っているし最低気温も十五度を下回る。早く体を慣らさないと。
そんな事を思いながら学校の最寄り駅で降りて歩いて行くと後ろから声を掛けられた。
「東雲和樹」
まだ声を掛けられるほど知られてはいない筈なのに。後ろを振り向くと何となく記憶の底に埋もれていた顔が蘇って来た。でも名前は憶えていない。
「私の事忘れたの?」
「ごめん、顔は何となく覚えているんだけど」
「私よ。八頭音江(やつがしらおとえ)よ。酷いな忘れるなんて」
八頭音江。俺の記憶では、もっと背が低く、眼鏡を掛けていたはず。俺がその子の
顔をジッと見ていると
「そんなに見つめないでよ。背が伸びて、髪の毛も伸ばしたの。眼鏡は止めてコンタクトにしたから分からなかったのね」
なるほどそういう事か。
「東雲君のクラスは?」
「1Aだ」
「私は1Bよ。あっ、またね」
その子は小走りに他の女子の所に行った。そしてこちらを振り返りながら何か話をしている。
八頭音江か。全然変わったな。あれじゃ、気が付かないよ。
昇降口で上履きに履き替えると教室に向かった。中に入ると
「和樹、おはよう」
「おはよう、若菜」
―何で名前呼びなんだろう?
―小学校時代から知り合いだとしても名前呼びはね?
―付き合っていたとか?
―でも如月さん、今は…。
―そうよねぇ。昨日だって。
あの子達は何を話しているんだ。俺と若菜が名前呼びして何が悪いんだ?
そんな言葉を無視して毎日の授業を受けた。
ここに来て五日目、今日も登校して教室に入ると俺は、バッグを机の横に掛けると椅子に座った。
そこに女子達が数人来て
「ねえ、東雲君。お昼一緒に食べない。お話したいんだけど」
「「うん、私も」」
「若菜も一緒でいいか?」
「それは構わないけど」
「和樹、私はいいよ」
「えっ、でも」
はっきり言ってちょっと積極的な子は苦手だ。
「如月さんも一緒に食べよ」
「それならいいかな」
この日も授業の中休みに他の生徒から色々聞かれた。
「ねえ、東雲君。向こうでは彼女とかいたの?」
「ステディな人はいなかったよ」
「ステディ?」
「ああ、特定の決まった人」
「そうなんだ。向こうの子って背が高いの?」
「そんなことないよ。まだミドルだったし、大きな子もいたけど」
「ミドル?」
「ああ、中学の事」
「そっかぁ、東雲君、三年間英語で過ごしたんだものね。じゃあ、私が日本語教えてあげる」
「何言っているの。私よ」
「私」
「いや、俺は…」
予鈴が鳴った。助かった。段々深い質問が多くなったな。
やっぱり和樹はモテる。中学の時でもお母さん譲りの綺麗な顔だったけど、まだ可愛いという感じだった。
でも三年間見ない内にとても綺麗な顔立ちになった。身長と頭の良さはお父さん譲りだろう。なんとか中学校初め頃の関係に戻りたい。
午前中の授業が終わると朝、声を掛けて来た女子三人が俺の所にやって来た。
「東雲君、学食行こう」
「若菜」
「うん」
昨日覚えた学食で自販機の列に並んでいると昨日は気付かなかった色々なボタンの上に食べ物の名前が一杯書いて有る事に気が付いた
「若菜。ラーメンとかそば、うどんとかも有るんだ。あっ、唐揚げ定食とかもある。大盛りも出来るのか」
「そうだよ。ボタンの下に書いてある値段の分、お金入れればどれも食べれるよ」
「そうか」
俺は唐揚げ定食を選んだ。他の女子達はA定食を選んでいる。確かにサンプルはヘルシーな雰囲気だ。
カウンタで唐揚げ定食を受け取ると
「東雲君、あそこの六人席に行こう」
「うん」
学食の真ん中より少し窓よりの席だ。俺が座ると両横に声を掛けた女子が座った。もう一人の女子と若菜は俺の前に座っている。
食べる前に自己紹介してくれた。
俺の右横座る女子が髪の毛が肩まで有って、少し目が吊り上がっている須藤京子(すどうきょうこ)さん。
左隣に座るのが髪の毛が背中近くまで有って大きな目が特徴の加藤恵子(かとうけいこ)さん。
そして若菜の隣に座るのが髪の毛が肩より少し長くて眼鏡を掛けている早瀬多佳子(はやせたかこ)さんだ。
「私達、同中なの。東雲君。これから宜しくね」
「はい」
三人から朝の引き続きの様な質問をされながら食事をしていると須藤さんが、
「如月さん、最近ずっと東雲君と一緒だけど、後藤君はいいの?」
「あっ、うん。今は良いんだ」
「そうなの?でも彼氏でしょ。いくら東雲君と幼馴染と言っても小学校まででしょう。ここ一年はずっと後藤君と一緒だったよね」
「えっ!若菜、後藤とかいう奴とは仲のいい友達だとか言ってなかったっけ?」
「東雲君。違う違う。如月さんと後藤君は誰でも知っている深い仲だよ」
「えっ?!本当なのか。若菜?」
「…和樹。私先に教室に戻る。その話は明日しよう」
若菜は、食べかけの定食のトレイを持つと席を立って行ってしまった。
「須藤さん、なんであんな事を言ったんだ?」
「後藤君から最近如月さんが、知らない男とずっと一緒に居るからどういうことなのかって聞かれたから、私も分からないって答えたの。でも私達も如月さんの気持ち知りたくて」
「そういう事か。ありがとう須藤さん」
俺は、明らかに若菜に対する嫌がらせとしか思えなかった。ここでわざわざあんな事を言う必要はない。だから食事中だったけど定食のトレイを持って席を離れた。
「須藤さん、言い過ぎじゃない」
「でも後藤君って彼氏が居ながら、東雲君をまるで自分の彼の様に振舞ってるのはちょっと許せなかった。これで東雲君も如月さんに対する態度変えるでしょう」
「それはそうだけど」
俺は、学食を出ると若菜を追った。でも廊下で見たのは、前に若菜に声を掛けた男子が若菜と話をしている姿だった。
男子が少し怒った顔して彼女に何か言っている。そして最後に怒って若菜から離れて行くと若菜が彼を追いかけた。
やっぱりあの子達が言っている事は事実だったんだ。
俺は教室に戻りながら
仕方ないよな。二年と言ったのに帰国に三年も掛かってしまった。新しい彼氏が出来ていても仕方ない。
でもショックだな。結局若菜から連絡が途絶えたのは後藤という彼氏が出来たからなのか。
でも土曜日の午後、授業が終わった後、若菜から声を掛けられた。
―――――
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