第12話

 放課後。

 

「神崎ってのはお前だな。ちょっと面貸せよ」


 靴を履き替えようとしていたところで、見るからに不良な先輩から声を掛けられた。

 これまでの俺だったら、不良から声を掛けられるような学校生活を送っていなかったが、それは今日一日で一変した。

 おそらく原因は天内と泉原。

 学年だけでなく、全校生徒の間で有名な二人がクラスの陰キャぼっちの俺に話しかけて、仲良さそうにしているという噂は、瞬く間に学校中に広まっていた。

 だから、それが原因としか考えられなかった。

 それ以外に俺が不良に呼び出されるようなことをした覚えがない。

 

「用事があるので無理です」

 

 関わっても何の得もないだろうし、何よりめんどくさい。

 俺は靴を履き替えて、不良の横を素通りした。


「おい。何帰ろうとしてんだよ」


 不良に肩を掴まれた。

 無理やり振り払うことはもちろん可能だったが、それはそれで面倒なことになりそうな気がした。

 結局、何を選択しても面倒なことになることは避けられないのかもしれない。

(はぁ~)

 俺は心の中で大きなため息をついた。

 ちなみに天内と泉原は各々予定があるらしくいない。

 もしここに天内か泉原のどちらか一人でもいれば声を掛けられることはなかっただろう。

(ついて行くしかないか。それか、ボコボコにするか?)

 幸いにも今ここには俺と不良しかいない。

 一人なら瞬殺だし、やってしまうか。

 

「おい! 無視すんなよ!」

「うるせぇよ」

 

 俺は不良の手を振り払うって、周りに誰もいないことを再度確認してから、不良のお腹に一発入れた。

 苦痛の声を上げた不良は腹を押さえながらその場にしゃがみこんだ。

 

「じゃあ、僕は用事があるのではこれで」

 

 俺は不良にペコリと頭を下げて、その場を後にしようとした。


「ま、待てよ! 泉原がどうなってもいいのかよ!?」


 不良のその言葉に俺は足を止めた。

 

「おい。それはどういう意味だよ」


 俺は不良の胸倉をつかんで問い詰めた。


「俺らのボスは賢いから、お前だけじゃなくて、泉原も呼び出したんだよ。もし、お前が来なかった時の保険としてな。きっと今頃、眠らせた泉原のエロい体を堪能している頃だろうぜ」

「おい。場所はどこだ?」

「た、体育館裏だ」

 

 俺は不良を吹き飛ばして、急いで体育館裏に向かった。

 泉原の予定がまさか俺絡みだとは思ってもいなかった。

 

「何やってんだよ」


 俺はとにかく急いだ。 

 もしも、泉原の身に何かあったら、申し訳なくて明日から顔を合わせれなくなる。

 それに俺は泉原のことが嫌いではない。

 学校では極力話しかけてほしくはないが、それはあくまでもキャラを守るため出あって、泉原のことを嫌っているわけではない。

(まぁ、当の本人は俺の気持ちなんて微塵も考えてないだろうけど)

 体育館裏に到着した。


「泉……原……?」

「あっ! かい様♡」


 思っていた状況と違っていて俺は戸惑った。

(そういえば泉原は女番長だったな) 

 そのことをすっかりと忘れていた。

 このくらいの人数なら油断しなければ泉原にとっては何ともない事なのだろう。

 泉原の側に数人の男が転がっていた。 

 

「もしかして私のことが心配で様子を見に来てくれたんですか?」

 

 満面の笑みを浮かべた泉原は俺の方に駆け寄ってくると抱き着いてきた。

 抱き着いてくることが分かっていたので俺はしっかりと泉原のことを受け止めた。


「俺の助けは必要なかったみたいだけどな」

「え~。かい様が助けに来てくれるって分かってたら、大人しく捕まっていればよかったなぁ~。そしたら、かい様のカッコいいところが見れたのにぃ~」


 泉原は不満そうに両頬を膨らませた。

 

「そんなバカなこと言ってないで、自分で解決できることは自分でしろ。俺のカッコいいところより自分の身を守るのが最優先だ」


 そう言って俺は泉原のおでこに軽くデコピンをした。


「かい様がそう言うならそうします」

「そうしてくれ。泉原の身に何かあったら悲しいからな」

「かい様……大好き♡」

 

 泉原が首に手を回してきて、キスをしてきた。

 ここが教室じゃなくて良かった。

 教室でキスをされたら、俺の学校生活は完全に終わっていた。

(まぁ、今も終わっているようなものだけど……)

 もっと悲惨なことになっていただろう。


「かい様この後は暇ですか?」

「暇だな」

「じゃあ、どこか行きませんか!?」

「別にいいけど」

「やったぁ~! かい様とデートだぁ~♡」

「あ、でも十八時くらいまででも大丈夫か?」

「何かあるんですか?」

「天内の家で一緒にご飯を食べることになってる」

「えっ!? 何ですかそれ!? 瑠美ちゃんの手料理を食べるってことですか!?」

「まぁ、そうなるな」

「私も行ってもいいですか!?」

「天内に聞いてみないと分からないな」

「私が聞いてみます!」


 そう言った泉原はスカートのポケットからスマホを取り出して、早速天内に連絡をしていた。


「気になってたんだが、いつの間にそんなに天内と仲良くなったんだ?」

「それは、たとえ、かい様だとしても教えられません。私と瑠美ちゃんだけの秘密なので♡」


 二人の間でどんなことがあったのか気になったが、そう言われてしまった以上勝以上は問いただすことはやめておくことにした。

 

「てことで、デートに行きましょ♡ かい様♡ 瑠美ちゃんからはそのうち連絡が帰ってくると思いますし!」

「どこか行きたいところでもあるのか?」

「たくさんありますけど、十八時までってことならクレープでも食べに行きませんか?」

「クレープか。行くか」

「はい!」

「でも、学校を出るまでは俺にくっつくの禁止な?」

「え~。そんなひどい事言わないでくださいよぉ~。かい様にくっついてないと私死んじゃいますよぉ~」

「ちょっとくらい我慢しろ。学校を出たら好きなだけくっついててもいいから」

「言いましたからね? 学校から出たら離れてって言っても離れてあげませんからね?」


 自分から言ったことだが、やってしまったなと思った。

 この様子だと泉原は学校を出たら、ずっと俺にくっついているだろう。

 泉原ならやりかねない。


「分かったよ。でも、その代わりちゃんと節度は守れよ?」

「は~い♡」


 元気な返事をした泉原は俺から離れた。

 

「じゃあ、行くか」

「うん♡」


 俺たちは学校を後にしてクレープ屋に向かった。

 泉原は校門を一歩出たところからクレープ屋に到着するまで、本当に俺にべったりと俺にくっついていた。


☆☆☆

 

 

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