第8話

「えっと・・・・・・まずは落ち着こうか」


 俺は泉原の背中を摩って落ち着くように言った。


「ご、ごめんなさい。私・・・・・・かい様のファンで、憧れてて、尊敬してて、大好きで、結婚したくて、子供を産みたくて・・・・・・」

「す、ストップ!」


 いきなり何を言い出すかと思えば、俺と結婚をして子供を産みたいと言い出した泉原。

 ファンで、憧れで、尊敬されて、大好きになられるようなことを俺は泉原にした覚えは全くない。

 もしかしたら、俺のことを誰かと勘違いしているのかもしれない。

 そうでなければ説明がつかなかった。


☆☆☆


「もしかして、他の誰かと勘違いしてないか? 俺は生きる伝説なんて呼ばれたことはないんだが?」

「ち、違うんですか? 去年、この辺りの不良たちを片っ端からボコボコにして、総勢千人以上の不良をまとめあげたと言われている生きる伝説のかい様じゃないんですか?」


 泉原が言ったことに俺は心当たりがあった。

 去年、俺はこの辺りの不良どもを片っ端からボコボコにしていた。

 それも「かい」という名前で。

 ということは、つまり泉原が言っている「かい様」というのは俺のことということになる。

 まさか生きる伝説とまで呼ばれているようになっているとは知らなかった。


「も、もしも俺が、泉原の言う、かい様だったらどうする?」

「かい様の○奴隷になって、かい様の子供を産みます!」


 泉原が返事に俺は思わず、泉原の頭にチョップをしてしまった。


「はぁ〜幸せ♡」

「幸せを感じるな。痛がれ」

「だって、幸せなんですから仕方がないじゃないですか」


 頭にチョップをされたら痛がるのが普通だと思うのだが、泉原はなぜか幸せを感じているようだった。

(それにしても随分とキャラが変わったな)

 俺がかい様だと分かった泉原はすっかりと乙女の顔をしている。

 さっきまで何十人もの男を薙ぎ倒していた泉原と同一人物とは思えなかった。

 口調もなぜか敬語になってるし。

 

「ところでかい様。かい様はなんで私の名前を知ってるんですか?」

「そ、それは・・・・・・」


 しまった。

 せっかくバレていなかったのに墓穴を掘ったせいで俺の正体がバレそうになってしまったいた。


「ほら、泉原に迫っていた男が名前を呼んでただろ? それが聞こえたんだよ」


 実際はあの男は泉原の名前を呼んではいないが、俺はそう言って誤魔化した。


「あの男は私の名前を一度も呼んでないと思うんですけど?」

「ぐっ・・・・・・」


 どうやら泉原の記憶力はよかったみたいだった。

 そういえば、こんな見た目で女番長なんて呼ばれてるけど、泉原はいつも学年テストで五位以内には入るほど頭が良いんだった。

(はぁ〜。諦めて白状するか)

 自分のバカさ加減に心の中でため息をついた

俺は泉原に本当のことを話すことにした。


「俺が泉原の名前を知ってるのは、俺が泉原のことを知ってるからだ」

「それはどういう意味ですか?」

「そのままの意味だな。神崎海斗って名乗ったら分かるか?」

「神崎・・・・・・海斗」


 泉原は俺の名前を呟くと頭の中で俺のことを検索しているのか顎に手を当てた。


「あっ! もしかして、同じクラスの?」

「俺のこと知ってたんだな」

「えっ・・・・・・嘘!? あの陰キャぼっちの神崎海斗とかい様が同一人物!? そんなことってアリ!?」

「陰キャぼっちで悪かったな。がっかりしたか?」

「いや・・・・・・そんなことは」

「間があったぞ?」

「が、がっかりはしてないです! ただ、驚いただけというか、予想外だったというか・・・・・・」

「まぁ、そうだろうな」


 去年の俺と今の俺の両方を知っている人からすれば、去年の俺と今の俺をまるで別人のように思うだろう。

 そう思ってくれているのなら、俺は見事に陰キャぼっちを演じることに成功しているということだから、俺からしてみれば嬉しいことだ。

 

「でも、残念ながら生きる伝説のかい様と陰キャぼっちの神崎海斗は同一人物なんだよな」

「かい様が今は陰キャぼっちになっていたとしてもいいです! 私にとってはどんなかい様でもかい様には違いありませんから!」


 泉原はそう言って顔をずいっと近づけてきた。

 改めて、至近距離で泉原の顔を見て思った。

 泉原は天内に負けず劣らずの美しい顔をしていた。 

 さすがは天内に並んで学年の五大美少女と呼ばれているだけはある。

 目力の強い切れ長な目、その目を縁取るように凛と咲き誇っているように見える長いまつ毛、外国人のような高い鼻、たしか泉原は学年美少女ランキング(誰が言い出したのかは分からない)で二位だったはずだ。

 

「それにしてもまさか、かい様が私と同い年で、しかも同じ学校に通っていて、クラスメイトだったなんて、これは運命ですよね!? 神様が私にかい様の子供を産めって言ってるようなものですよね!? だから、私にかい様の子供を産ませてください!」


 あまりにも圧の強い泉原の懇願に思わず頷いてしまいそうになったが、俺は寸前のところで冷静になった。

 

「泉原。ちょっと落ち着こうか」

 

 俺は泉原の肩をポンポンと叩いて落ち着くように言った。


「かい様の子供を産ませてくれるんですか!?」

「だから、落ち着けって。感情に任せて物を言い過ぎだぞ」

「そんなことはありません! かい様の子供を産みたいっていうのは心の底からの本心ですから!」


 天内といい、泉原といい、俺の中での今までの印象がガラリと変わってしまった。


「とりあえず、場所を変えないか? こんなところでそんなことを叫ばれたら恥ずかしいんだが?」

「分かりました! では、二人っきりになれるっ場所に行きましょう! それで、私と子作りをしましょう♡」

  

 泉原は何が何でも俺の子供を産みたいらしい。

 正直、泉原レベルの美少女から迫られて断る理由はないけど、天内とのことがあるから提案を受け入れるのには少しだけ罪悪感があった。

 そんな俺の気持ちなど知る由もない泉原は腕に抱き着いてきた。

(でかっ……) 

 俺の腕に密着している泉原のおっぱいは天内より大きいように感じた。

 

☆☆☆


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