第9話

 二人っきりになれる場所で泉原が選んだのはネットカフェだった。

 泉原はお店の中に入ると迷うことなくカップルシートを選択した。

 店員に案内され、俺たちはカップルシートの中に入った。

 カップルシートは完全個室になっていて、床には柔らかなマットレスが敷いてあった。

 そのマットレスの上に座椅子が二つあり、テーブルの上には二台のモニターが設置されていた。

 

「かい様♡ 二人っきりになりましたね♡ これで子作りができますね♡」

「いや、ここはそういうことする場所じゃないだろ」

「もしかして、かい様って童貞ですか?」

「い、いや、違うけど・・・・・・」

「ちぇ〜。な〜んだ。残念。まぁ、そうですよね。かい様が童貞なわけないですよね」


 泉原はそう言うと残念そうに頬を膨らませた。

 昨日まで童貞だったなんて言えない。

 もしも、昨日ゲームセンターで天内と会わなければ、俺はまだ童貞のままだっただろう。

(まぁ、まさか童貞を卒業することになるとは思っていなかったけど)

 昨日の天内の積極性には正直驚きを隠せなかった。

 今の泉原もの積極性も昨日の天内に負けず劣らず凄い。

 このままでは押し切られてしまいそうな気がした。


「と、とりあえず、俺は漫画でも取ってくるわ」


 俺はそう言って逃げるように部屋から出た。

 泉原が後を追って来るかと思ったが、追って来ることはなかった。 

 俺は漫画コーナーへと向かった。

 特に読みたい漫画があるわけではなかったが、あのまま一緒に部屋にいたらどうにかなりそうだった。

 天内の時のように本能に身を任せてしまった方が楽なのかもしれないが、天内に申し訳ないという気持ちがあるからそれは出来なかった。

 

「とりあえず、何か漫画を探して行くか」


 漫画を取ってくると言った手前、手ぶらで戻るわけにもいかない。

 俺は漫画コーナーをてきとうにブラブラと歩いた。

 

「これにするか」


 目に入ったのは昨日、俺がゲームセンターで獲ったフィギュアが登場する漫画だった。

 もちろんこの漫画は全巻持っている。

 なにしろ、この漫画は一番大好きな漫画だから。

 俺はその漫画を持って部屋に戻った。

 部屋に戻ると泉原は部屋の隅でちょこんと体育座りをしていた。


「泉原? 何してんの?」

「……」


 俺が声をかけても泉原は何も反応をしなかった。

 心ここに在らずといった感じで、まるで魂の抜けた抜け殻にでもなったみたいだった。

(俺のせい……だよな?)

 さっきまであんなに積極的だったのに、その積極性は今の泉原からは微塵も感じなかった。

 それはそれで俺としては有難いことなのだが、こんなにも露骨に生気を失った顔をされると申し訳なくなってくる。

 

「泉原。大丈夫か?」

「・・・・・・かい様に嫌われた。かい様に嫌われた。もう、私、生きていけない」


 泉原は呪文を唱えるかのように何度も何度もぶつぶつと小さな声でそう呟き始めた。

 どうやら泉原は俺が泉原のことを嫌いになったと思っているらしい。

 もちろんそんなことはない。

 俺が部屋から出たのはあのままいたら、泉原の誘惑に負けそうだと思ったからだ。

 

「泉原。何を誤解してるのか分からないけど、嫌いになんかなってないから」

「本当ですか?」


 泉原は生気のない目を俺に向けてきた。

 

「本当に私のことを嫌いになっていませんか?」

「なってないから安心しろ」


 俺がそう言うと天内の目に少しだけ生気が戻ったような気がした。

 

「突然部屋から出て行ったから嫌われてしまったんじゃないかって思ってしまいました」

「漫画を取りに行くって言ったろ」

「そうですけど……」

「とにかく嫌いになんてなってないからそんな顔するな」

「本当に私のこと嫌いになってないですか?」

「なってないから」

「かい様〜♡」


 完全に生気を取り戻した泉原は俺に抱き着いてきた。

 あまりにも勢いがよくて受け止めきれなかった俺は泉原に押し倒されるような形で倒れ込んだ。

 

「かい様大好きです♡ 愛してます♡ だから、早くかい様の子供を私に産ませてください♡」

「分かったよ。その代わり、後悔しても知らないからな?」

「後悔なんてするわけがないじゃないですか♡ むしろ、かい様の子供を産めずに死ぬことの方が後悔します♡」

「どんだけ俺のこと好きなんだよ」

「そりゃあ、世界で一番好きに決まってるじゃないですか♡」


 そう言って泉原は唇を重ねてきた。

 比べてしまうのは失礼なのかもしれないがどうしても比べてしまう。

 俺のファーストキスを奪った天内の唇と。 

 もちろんどちらが良い唇かなんて優劣をつけることなんてできない。

 どっちの唇も柔らかくて、ぷるぷるで、何時間でもキスをしていたくなるような唇をしているから。 

 

「かい様とキスしちゃった♡」

 

 泉原は満足そうに、これでもかというくらいに顔をとろけさせていた。

 その顔を見て俺の中の理性の糸が切れた。


「か、かい様・・・・・・」

「泉原が誘惑してきたのが悪いんだからな」

 

 俺は泉原のことを押し倒してキスをした。

 泉原の口の中に舌を入れた。

 泉原の舌に俺の舌が触れた。

 お互いの舌が触れた瞬間、何かのスイッチが入ったかのように俺たちはお互いの舌を味わうように舐め合った。

 息苦しくなって俺は泉原とキスをした。


☆☆☆


 ノクターンへの投稿はもうしばらくかかりそうです。

 すみません。

 初めてエッチなシーンを書くのでもう少し書き方を勉強してからになります。

 もうしばらくお待ちください。

 

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