泉原舞香が惚れた日
第7話
瑠美の家を後にした俺は土手を歩いていた。
昨日、俺は童貞を卒業して男として一つ成長した。
その代わりに腰の痛みという代償を負ってしまった。
腰の痛みはいつか消えるが童貞卒業という一生で一度しか出来ない経験は俺の中から消えることはない。
そう思うと俺の初めてをもらってくれたのが瑠美でよかった。
学年一の美少女に初めてをもらってもらったなんて一生自慢できる。
「それにしても、まさかだよだ」
あれだけ何度も体を重ねて、一夜明けた今でも未だに昨日のことが夢なのではないかと思ってしまう自分がいる。
もちろんそんなことはなく、俺は童貞を卒業したわけだが。
「お前もしつけぇな」
瑠美と何度も体を重ねた昨夜のことを思い出しながら歩いていると河原の方からそんな声が聞こえてきた。
少し先の河原の方を見てみると、そこには何かの映画の撮影でもしているのかというくらいの人がいた。
三十人以上の男が一人の女を取り囲んでいた。
映画の撮影かと思ったがどうやらそうではないらしい、周りにカメラはないし、三十人以上の男と一人の女しかそこにはいなかったから。
それに囲まれている女の顔に俺は見覚えがあった。
「あれは泉原か?」
腰まで伸びた真っ赤な髪の毛がトレードマークの彼女の名前は泉原舞香。
俺と瑠美と同じクラスのクラスメイトで女番長と呼ばれ、恐れられている女子だ。
泉原が番長と呼ばれているのにはちゃんと理由がある。
それは泉原には数々の伝説的な噂があるからだ。
例えば、泉原一人で何十人もの男を倒したとか。
まさに今のような状況だ。
きっと泉原なら一人でなんとかするだろう。
「けど、見逃せないよな」
俺の知らないところで、こういうことが起きているのなら、助けようがないし、知らないことだが、その場面を目撃してしまったからには知らん顔で素通りすることは俺にはできなかった。
腰が痛いのが少し懸念点ではあるが、まぁなんとかなるだろう。
俺はそう思って土手から河原に続く階段を下りて泉原の元に向かった。
「お前が俺の物にならねぇからだろ」
「何回も言わせんなよ。私は私よりも強い男にしか興味ねぇの。あんた、私に何回負けた? いいかげん諦めなよ。あんたじゃ、私に勝つのは一生無理だって」
「うっせぇ!」
「一人じゃ無理だからこれだけの仲間を連れてきたんだろ?」
「だ、だから、うるせぇって言ってんだろ! いいから、とっとと俺の物になれよっ!」
「図星かよ。情けぇねな。男ならタイマンで挑んでこいよ。ま、タイマンじゃ、あんたは私には絶対に勝てないけどな」
「ちっ! クソがっ! お前らやれっ!」
集団のボスらしき男が命令を下すと泉原を取り囲んでいた男たちが、一斉に泉原に襲い掛かり始めた。
泉原は襲い掛かって来る男たちは次々と倒していた。
さすがは女番長と呼ばれるだけはある。
その肩書きは伊達ではないらしい。
集団の元に到達した俺は後ろの方のやつらを次々と倒していった。
「だ、誰だお前!?」
「さぁ、誰だろうな」
俺が乱入したことで、集団の三分の一くらいの男たちが俺の方に向かって来た。
「その程度の人数で俺を止められるわけねぇだろ」
俺は俺の方に向かって来た男たちを全員制圧した。
その間に泉原も残りの男たちを制圧していた。
残すは集団のボスらしき男のみだった。
「ちっ! クソっ! 何なんだよお前!? 俺の邪魔してんじゃねぇよ!」
集団のボスらしき男は舌打ちをして怒鳴り散らすと俺に襲い掛かって来た。
頭に血が上っているからか、集団のボスらしき男の動きは単調だった。
そんなやつに俺がやわれるわけもなく、俺は集団のボスらしき男の腹に思いっきり蹴りを入れて、すぐそばにある川まで吹き飛ばした。
「そこで頭冷やせよ」
これで泉原のことを取り囲んでいた男たちは全員制圧した。
「あんた誰?」
泉原が声をかけてきた。
どうやら俺がクラスメイトの神崎海斗だとは気がついていないらしい。
泉原は鋭く力強い目つきで俺のことを睨みつけてきた。
その目つきで今までどれだけの男を睨みつけて怯ませてきたのだろうか。
(まぁ、全く怖くないけど・・・・・・)
泉原より怖い目つきのやつに今まで何人も会ってきた俺にとっては、ただの目つきの怖い女子としか思えなかった。
それはそれとして、俺は正体を明かすか迷った。
天内には声でバレてしまったが、泉原に関してはそんなことは起こりえない。
なぜなら、俺は泉原とこれまで一度も話したことがないからだ。
(とりあえず誤魔化すか?)
声で正体はバレることはないし、容姿でもおそらくバレる心配はないはずだ。
「俺は・・・・・・かいだ」
本名を言ったらバレてしまう可能性があるので、俺は去年、ある界隈で使っていた名前を言った。
俺が名前を名乗った瞬間、泉原は目を見開いて俺の両肩をガシッと掴んできた。
「今、かいって言った?」
「い、言ったけど・・・・・・」
なんだか泉原の様子が変だった。
泉原は体をぷるぷると震わせて、目に大粒の涙を浮かべていた。
「もしかして、あなたは・・・・・・生きる伝説とまで呼ばれていた、かい様ですか?」
泉原が何を言っているのか分からなかった。
(生きる伝説? かい様? 泉原は何を言ってるんだ?)
何を言っているのか分からなかったが、大粒の涙を浮かべている泉原が冗談を言っているようには見えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます