第5話

「神崎さんゲーム強すぎです。結局、神崎さんに一勝もすることができませんでした」

「初心者の天内には流石に負けることはないな」


 あの後、俺たちはいろんなゲームで対決をした。

 結果は俺の全勝。

 天内はすべてのゲームが今日初めてプレイをしたといった感じだった。

 そんな天内にほとんどのゲームを中二の時に極めた俺が負けるわけがなかった。

 いろんなゲームで勝負をしたが、エアホッケー以外では負けても何も賭けなかった。

 もしも、他のゲームでも同じ約束をしていたなら、俺は五つ以上は天内に何でも言うことを聞いてもらうことができることになっていたはずだ。

 

「次は一勝でもできるように頑張ります」

「まぁ、無理だろうけどな」

「そんなことありませんから」


 天内は不服そうに頬を膨らませた。

 俺との勝負に負ける度に天内は今と同じように頬を膨らませて悔しそうにしていた。 

 

「それにしても、たくさん遊んでしまいましたね」

「そうだな」

「こんな時間までありがとうございました。とても楽しかったです」

「俺も楽しかったよ」

「それならよかったです」


 辺りはすっかりとオレンジ色に染まっていた。

 俺と天内が出会ったのはゲームセンターが開店してすぐだったから、俺たちは八時間くらいゲームセンターにいたことになる。

 俺たちはお昼ご飯を食べることも忘れて、ゲームに夢中になり、ゲーセンターから出た時にはこの時間だった。


「ところで、神崎さん。お腹空いていませんか?」

「結構空いてるな」

「この後もお時間があるようでしたら、私の家で一緒にご飯を食べませんか? その、例の約束もありますし」

「この後も何もないから大丈夫だけど……」


 天内とのゲームに夢中になっていて、例の約束のことをすっかりと忘れていた。

 そういえば、天内のおっぱいを触らせてもらう約束をしていたんだった。


「では、決まりですね。神崎さんは何が食べたいですか?」

「天内は料理得意なのか?」

「得意というほどではありませんが、一人暮らしですので、それなりにはできます。一応、毎日自分で作っていますし」

「それは凄いな。俺も一人暮らしをしてるけど、毎日自分でご飯を作るなんて考えられないぞ。いつもコンビニかスーパーで弁当を買うか、カップ麵とか食べてるな」

「それはダメですよ。栄養が偏ってしまいますよ?」

「それは分かってるんだけどな。一人だとご飯を作る気にはならないんだよな」

「それなら、私が作ってあげましょうか?」

「え、それは有難いけど本当にいいのか?」

「はい」

「天内さ、そういうことはあんまり軽々しく言うもんじゃないぞ。例の約束のこともそうだけど」

「例の約束の時も言いましたけど、こんなことは神崎さんにしか言いませんから♡」

「その理由は秘密なんだろ?」

「はい。秘密です♡」

 

 天内がなぜ俺のことを特別と言うのかは相変わらず分からないままだった。

 俺と天内の関係性を言うならクラスメイトでしかない。

 こんなに話したのだって今日が初めてだ。

 天内は学年一の美少女でクラスの人気者。

 片や俺は平凡な陰キャ。

 接点があるわけがなかった。

 平穏な学校生活を送るために接点を作るつもりもなかったし。

 今日のことは完全にイレギュラーだった。

 今日のことがなければ今後も関わることがないであろう天内とゲームセンターで一緒に遊んで、一緒にご飯を食べることになり、おっぱいを触らせてもらうことになるなんて誰が想像していただろうか。

 

「それで神崎さんは何が食べたいですか?」

「天内に任せるよ。天内が何を作れるか分からないしな」

「それなら、神崎さんの好きな食べ物を教えてください」

「好きな食べ物か。そうだな。カレーライスかな」

「では、カレーライスにしましょう」


 メニューが決まったところでスーパーに到着した。

 スーパーの中に入ると天内が買い物カゴを持った。


「カゴ。俺が持つぞ」

「ありがとうございます」


 俺は天内から買い物カゴを受け取った。


「それじゃあ、まずは野菜を買いに行きましょうか。神崎さんは何か嫌いな食べ物とかありますか?」

「嫌いな食べ物か。特にないな」

「それはいいことですね。では、私がいつも使っているカレーライスを作ってもいいですか?」

「その辺は任せる」

「分かりました」


 野菜コーナーに一緒に向かうと天内は必要な野菜を次々と俺の持っている買い物カゴの中に入れていった。

 カレーライスに使う野菜を一通り買った後はお肉のコーナーに向かった。


「神崎さんはカレーライスには何のお肉を入れますか?」

「実家では牛肉だったな。天内は?」

「私も牛肉です。では、お肉は牛肉にしましょう」


 天内はお肉コーナーで一番高級な牛肉を買い物カゴの中に入れた。


「後はカレールゥですね」

「そうだな」


 俺たちはカレールゥの置いてあるところに向かった。

 天内が選んだカレールゥは俺の実家で使っているやつとは違うやつだった。


「これでカレーライスに必要な材料は揃いました。他に何か欲しい物とかあったりしますか? お菓子とかジュースとか」

「いや、俺は特に大丈夫」

「では、レジに行きましょう」

「お金は俺が払うよ」

「いえ、私がお支払いします」

「いいや、ここは俺に払わせてくれ。ゲーセンでもお金は全部天内が出してくれただろ」

「それは、私のわがままに付き合ってもらったのでですから私がお金を出すのは当たり前のことじゃないですか」

「だったら、俺がご飯を作ってもらうんだから、ここは俺にお金出させてくれよ」


 レジに到着するまでお互いに一歩も譲らなかった。


「仕方ありませんね。それなら、折半にしましょう」

「そうだな。それが妥協点だな」


 そういうわけで支払いは折半になった。

 ご飯を作ってもらうのだから、本当は俺の方が多めにお金を出したいところだったが、天内はそれを受け入れてはくれないだろう。

 だから、他のことで天内にお返しをしようと思った。

 スーパーを後にした俺たちは天内の家に向かった。


☆☆☆

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