第3話
「じゃあ、俺はもう用済みだな」
「あの! もし、この後もお時間があるようでしたら、私と一緒にゲームで遊んでくれませんか?」
「別にいいぞ。どうせ暇だしな」
「ありがとうございます!」
同じ学校のやつらに見られたら噂になるだろうけど、俺が神崎海斗だということには誰も気が付かないだろう。
噂になったとしても天内に彼氏がいるみたいなことになるはずだ。
(それに関しては確認しておいた方がいいかもしれないな)
俺はバレる可能性は低いから噂になったとしても、大してなんとも思わないが天内は違うはずだ。
「一緒に遊ぶ前に一つだけ確認してもいいか?」
「なんでしょうか?」
「もし学校の誰かに俺とデートしているところを見られたら、天内に彼氏がいるって噂をされるかもしれないけどいいのか?」
「で、デート!? ただ一緒にゲームをして遊ぶだけですよ!?」
「天内はそう思ってても、男と一緒に遊んでるところを見たらデートだって誤解するだろうな」
「たしかに……そうかもしれませんね」
「そういうわけで、一緒に遊ぶのはいいけど天内に彼氏がいるかもしれないって噂が流れるかもしれないが大丈夫か?」
「……大丈夫です」
少しだけ間があったが天内はコクっと頷いた。
「それに神崎さんは私の彼氏さんなんじゃなかったんですか?」
「それはあの場を逃れるための方便で……」
「それでは今日一日だけ私の本当の彼氏さんになってくれませんか?」
誰がこの誘いを断ることができるのだろうか。
天内は天使のような柔らかな微笑を浮かべ、俺に向かって手を差し出してきた。
「分かったよ。俺が言い出したことだからな」
俺は天内の手を握った。
「天内は意外と積極的だったんだな」
「神崎さんだって意外な一面を持っていたのですから、私に意外な一面があっても不思議ではないと思いますけど?」
「それもそうだな」
誰にだって人には見せない一面を持っているものだ。
全部を全部曝け出して生きている人間なんてそうそういないだろう。
「それで、何かやってみたいゲームとかあったりするのか?」
「たくさんあります! 神崎さんには私のやりたいゲーム全部付き合ってもらいますからね!」
「天内が満足するまで付き合ってやるよ。今日の俺は天内の彼氏だからな」
「言いましたからね? その言葉忘れないでくださいね?」
「もちろん」
「それじゃあ、早速行きましょう! 時間は有限ですからね!」
天内は俺の手をぎゅっと握ると駆け出した。
そんな天内について行って到着した先はダンスゲームのところだった。
「天内。これがどんなゲームなのか知ってるのか?」
「はい。もちろんです」
「ダンスできんの?」
「それは分からないですけど、やってみたいと思っていたので」
「そういうことなら、やってみるか」
「神崎さんはこのゲームやったことあるのですか?」
「この機体は初めてだけどダンスゲームは何度かプレイしたことあるな」
機体が変わっていてもゲームの仕様はほとんど変わらないだろう。
もちろんダンスゲームをプレイするも久しぶりだから感覚が鈍っているかもしれないが、おそらくUFOキャッチーと同様に体が感覚を覚えているだろう。
俺と天内は台の上に乗った。
天内がお金を入れると大画面の前にある操作パネルにゲーム選択画面が映し出された。
選択画面には二人で協力モードと対戦モードがあった。
「どうする? 二人で協力モードにするか? それとも対戦モードにするか?」
「経験者の神崎さんに勝負を挑んでも勝てるわけがないと思うので、まずは協力モードがいいです」
「まぁ、そうだよな」
俺は二人で協力モードを選択した。
二人で協力モードは読んで字のごとこ二人で協力してゲームをクリアするモードだ。
それぞれの曲によって設定されているスコアを二人で協力して超えることができればクリアとなる。
「曲はどうする?」
「神崎さんは何がいいですか?」
「俺は何でもいいよ。というか、天内がやりたいって言ったんだから天内が知ってる曲を選んだ方がいいだろ」
「それなら……」
天内は操作パネルを操作して曲を選択した。
天内が選択したのは超有名なアニメのアニソンだった。
曲を選択すると次は難易度選択だった。
「難易度はイージーでいいか?」
「はい」
俺がイージーモードを選択すると曲が流れ始め、大画面に二人の可愛らしいキャラクターが現れた。
大画面の上の方にカメラがついていて、そのカメラで写された俺たちの姿も一緒に大画面に写っている。
どうやら、そのカメラで俺たちの動きを判断するようだ。
「ど、どうすればいいんですか?」
「このキャラクターの動きを真似すればいいんだよ」
「こ、こうですか?」
「そうそう。そんな感じ」
天内はぎこちない動きで画面に映ったキャラクターの動きを真似して体を動かしたり、ステップを踏んだりしていた。
あまりにもその動きがぎこちな過ぎて、その動きを見ただけで天内がダンスが苦手なんだということが分かった。
そんな天内は可愛くて、見ていると揶揄いたくなった。
「イージーモードでそんなに苦戦しているようじゃ、次のモードには進めなさそうだな」
「う、うるさいですっ! これからですから! 徐々に慣れていきますから見ていてください!」
「そういう事なら期待しておくかな」
天内のダンスを横目に見ながら俺はパーフェクトを出し続けた。
イージー程度ではミスをしていては『Kai』としての名が泣く。
俺はそのままミスをすることなくゲームを終えた。
天内はというと、徐々に慣れていくという言葉通り、ぎこちない動きから少しずつキレのある動きになっていた。
「ど、どうでしたか? 私のダンスは」
「初めてにしては良かったんじゃないか? ちゃんと目標のスコアは超えたし」
「それは神崎さんが一回もミスをしていないからじゃないですか」
「まぁ、それはそうだな」
協力プレイだからスコアが共有されているので俺がパーフェクトを出した時点で、天内が全ミスをしても目標スコアには到達していたのでクリア失敗ということはありえなかった。
「それにしても神崎さんは凄いですね。パーフェクトを取られるなんて」
「イージーモードだからな」
「もう一度挑戦させてください。次はパーフェクトを取ってみせますから」
「おけ。何度でも付き合ってやるよ」
「ありがとうございます」
それから天内はパーフェクトを取るまで同じ曲のイージーモードを繰り返した。
天内がパーフェクトを取ったのは、それから三回目のプレイをした時だった。
回を増すごとに天内のダンスのキレも増していた。
それに関しては、さすが天内といったところだった。
「はぁ、はぁ、ようやくパーフェクトを取れましたよ! 神崎さん!」
「そうだな。おめでとう。どうする? 難易度上げてみるか?」
「もうこのゲームは満足したので最後に一番難しい難易度に挑戦してみてもいいですか?」
「対戦モードはしなくていいのか?」
「さすがに今の私では神崎さんに勝てないことくらい分かるのでやめておきます。もっと練習をして私が上手になったらその時は私と勝負してください」
「おけ。その時は相手してやるよ」
「その時は絶対に私が勝ちますから覚悟しておいてくださいね」
「天内って負けず嫌いだよな」
「勝負事は何であれ勝ちたいじゃないですか」
「それはそうだな」
俺は操作パネルを操作してこのゲームの最高難易度を選択した。
「曲はさっきと同じでいいか?」
「せっかくなので神崎さんが決めてください。イージーモードでは物足りなかったですよね?」
「そういうことなら、後悔しても知らないからな?」
俺はこの機体の中で最も難易度の高い曲を選択した。
曲が始まり、画面に映し出されたキャラクターが踊り始めた。
最高難易度の曲なので当たり前にダンスが激しい。
俺は久しぶりのダンスゲームにワクワクしていた。
もちろん狙うはパーフェクトだ。
俺は寸分の狂いもなく画面に映し出されているキャラクターと同じダンスをした。
「す、凄い・・・・・・」
天内にカッコいいところを見せようという気持ちがないといえば嘘になる。
それもあって俺は魅せるダンスをした。
少しづつ二年前の感覚が戻って来て、俺はパーフェクトを取り続けた。
「ふぅ、こんなもんかな」
ゲームを終えると天内は口をあんぐりと開けて拍手を送ってくれた。
天内は途中から踊ることを諦め、俺のプレイを見守っていた。
「す、凄いですね。凄すぎて思わず見惚れてしまいました」
「カッコよかったか?」
「はい。とてもカッコよかったです」
「そう思ってくれたなら、頑張った甲斐があったな」
もちろん俺はパーフェクトのスコアを叩き出した。
天内にカッコいいところも見せれたし、最高難易度でパーフェクトを取ることができたので、俺も満足した。
☆☆☆
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