一席目 不慣れでは美味さより苦み
第一話 噂のお抹茶王子!?
二時間目も半分を過ぎた体育館。
真新しい制服に身を包んだわたしたち一年生は、茶色とオレンジ色の間みたいな色をしたツヤツヤの木の床の上に座らされていた。
ぼうっと眺める先は舞台の上。単調につづいてゆく部活紹介。飽きてそろそろ体育館内の空気が死に始めていたはずだったのに、ある部活の紹介がされると途端にぎゅお、とその息を吹き返した。
「ひゃぁっ……」
端のほうの女子生徒の小さな悲鳴。
それが、みるみるうちに体育館全体にザワつきとともに薄く拡がる。
「茶道部部長の
『王子様』なんて、マンガの中だけの話だと思ってた。
そもそもわたしは、ぜーんぜん『そーいうの』に興味がない。
付録目当てで少女マンガの月刊誌を買っても、読むのはポケモンのマンガとかモフモフのペットがかわいい話ばっかりで。イケメンくんと恋する話はムズムズしちゃって読み飛ばしちゃう。
だって王子様やイケメンに、ほんーっとに興味がないんだもん。
だから。
入学したての中学校の部活紹介で『その人』が素敵なお顔と美しい和服姿で壇上に立っても、ほかの子たちみたいに「ひゃあ」とかそんなハートとかピンクとか、黄色の声は出なかった。
男の子? うーん。元気だよね。あとうるさい。乱暴。そしてバカ。友達として好きとかはあるよ? でもそれ以上の気持ちとかって言われても正直よくわかんない。
大勢のイケメンさんにわらわら囲まれて暮らすよりも、かわいいモフモフたちに囲まれて暮らすほうがよっぽど幸せだと思うけどなぁ。
「決めた!」
小学校時代からの親友のマヨは体育館から教室に戻るなりそう高らかに宣言すると、長い人差し指を天井へと突き立てた。くせ毛の髪についた真っ赤なイチゴのヘアピンがまぶしい。
「わたし、茶道部に入る!」
「…………へ」
これがわたしの運命のはじまり。
「……え、マヨ、吹奏楽部じゃなかったの?」
去年、6年生の時、興味ないわたしを無理やり連れて演奏会まで行って、あんなに目を輝かせてたのに? 吹部! ブラバン! 青春! って、あんなにうるさくコーフンしてたのに?
「うん。気が変わった!」
「えええ……」
「だって見たでしょ? 茶道部のあの部長さん。あんなキレイな顔の男の人わたし見たことないもん! 同じ空気を吸いたい! そして普段なに食べてるか聞きたい! スキンケア知りたい! 願わくばお近づきになりたいっ!」
う……。理由が不純すぎやしませんか。
「
その時わたしたちの後ろから凛としたそんな声が聞こえた。
「茶道部部長の三年生。言わずと知れた我が校の『お抹茶王子』」
「お抹茶王子?」
思わずマヨと声を揃えた。
「そう。ご実家は茶道のお家元。幼き日より茶の湯をたしなまれ、礼儀正しくお育ちになった。もとは
う……なんだろ、この子。黒髪のロングヘアに白い肌。切れ長の目、声やその話し方までお嬢様のような印象で。
「ええっと……宇治原さん、だっけ?」
一時間目にあった自己紹介を思い出しながら言うと「ええ。よろしくね。
「茶道部にお入りになるのでしたら、
「ああいや、わたしは」と言いかけたところでチャイムが鳴った。宇治原さんは品良く会釈をして自分の席へと向かう。
もう、わたしは茶道部に入るつもりはないっていうのに。
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