第2話
⭐︎マリノ視点
私の名前はマリノ・ビアンカ21歳
ショコラお嬢様のお世話を、当主であるヨーネス様より直に仰せつかった。
シュナイザー帝国がまだ帝国になる前の小国の貴族の末裔で、帝国に吸収されてからは平民となり四代に渡りアドマイヤー公爵家に使えている。
私は16歳から公爵家に入ったが、18歳で結婚して子供もいる。
名前はラント3歳のかわいい男の子だ。フフフ
でも旦那に定職が無いから、私が稼ぎ頭なんだよね。
子育ては満点な人だからバランスが取れてるんだよね家は。
19歳でメイド復帰を果たし、土日だけ帝都郊外の自宅に帰ってる。
ヨーネス様は身分を振りかざす事はない。
私の家庭の事情も考慮してくれるし、とてもお優しい。
アドマイヤー家に使えた時から、私はヨーネス様の大ファンだ。
ツヤツヤの金髪に爽やかな新緑の瞳。
家族はもちろん、一介のメイドにすら声を荒らげた事はない。
あー私はヨーネス様にもう用無し(ダジャレ)と言われるまでは、ここアドマイヤー家で勤め上げる。絶対に!
ただ、ヨーネス様は奥様であるイザベラ様には尻に弾かれっぱなしだ。
今回のショコラお嬢様の騒動で更に尻圧はあがるだろう。
お可哀想に。
私はヨーネス様のお役に立ちたい。
ヨーネス様のご命令であれば、私は感情に流される事無く立派に、ショコラお嬢様の面倒を見ていこう。
そう誓うマリノであった。
⭐︎ヨーネス視点
マーロ村のでアイを一目見た時、雷打たれたように目が離せなくなった。
菫色のフワフワの髪に水色の瞳、そしてお店の中での立ち振る舞い、その笑顔。
本当に村人なのか?いや天使だ!天使が私の目の前に舞い降りて来た!
イザベラの事はあったが、私が生きて来た中で最初で最後の我儘を通したい、例え何かを犠牲にしても。
アイのことしか頭に無かった。
私はアイに王都に来て欲しいと懇願した。
人として最低かもしれないが、イザベラと別れてもいいとまで思った。
いや、彼女がそばにいてくれるなら、イザベラとは必ず別れる。
どんなに言葉を尽くしても、アイは頭を縦には振ってくれ無かった。
しかもアイは「ヨーネス様、貴方とはもう二度と会う事はありません。視察に訪れる事があっても、決してここには来ないで。」
冷たい言葉に私は打ちひしがれた。
私の初めての恋だった。
あれから7年、突然アイから手紙が届いた。
私は胸が高まった。
内容は信じられないものだった。
子供が、子供が出来ていたなんて。
驚き過ぎて腰を抜かした。
物語で腰を抜かすというくだりを目にした事はあったが、どういう状態か身をもって初めて知った。
私は尻餅をついていた。
手紙の内容を簡潔に言うと、いや、簡潔にしか書かれていない。
要するに、貴方の子供を今まで育てて来たが、身動きが取れなくなったので引き取って欲しい。
と言う事だ。
どういう状況なのか、本当に私の子なのか?これは絶対にアイには聞けない。
私は密偵の者を雇い状況を調べさせた。
報告によると
アイの子供の名前はショコラで7歳、菫色の髪に若草色の瞳をしている。
聞き込みした村人全員が、自信たっぷりに領主様の子供だと証言した。
との事。
子供の誕生した時期、目の色、村人の証言、アイの手紙、全て自分の子供じゃ無いなんて言えるポイントが出て来ない。
ショコラは私の子だ・・・
それと密偵者が伝えて来た最後の報告が、悲しすぎた。
アイは死んでしまった。
私は、私は、この7年間一体何をして来たんだ。
私は馬鹿だ。大馬鹿だ。
7年前、アイに冷たくあしらわれて公爵家に帰って来た。
イザベラや子供達を見てこれで良かったんだど、納得してしまった。
もっとアイに会いに行けば何かが変わったかもしれない。
考えても栓のない事をぐるぐると頭の中で考え続けた。
そして私はショコラを引き取る事を決意した。
早速執事のセバスチャンには真実を告げたが、以外に驚く事もなくスンナリと受け入れてくれた。
それからトントン拍子で迎えに行く算段まで整った。
しかし、イザベラや子供達に事前に話すのはやめよう。
話したら最後、迎えにも行けなくなりそうだ。
行き当たりばったり、それが一番ダメージが少ない。私はそう確信して実行する事にした。
そして連れて来たら暫くは、可哀想だがショコラの事も手をかけない。
私が手をかければ必ずイザベラが反発するだろう。
そう心に決めたヨーネスであった。
手紙が届いてから、すでに二か月も経ってしまったが、今日ようやくマーロ村に向けて出発する。
ショコラは最後の晩餐の翌日から、食事は北の間で取る事になった。
ローテーブルにマリノが朝食を並べている。
席に着いて両手を合わせ「いただきます。」と呟く。
物心ついた時からご飯を食べる前にする習慣だ。
私には北の間の方が気楽に食事を取れるし、結果的に良かったとも思えた。
その日は母のカバンに入っていたものを整理した。
着替えやぬいぐるみ絵本と筆記用具、木の箱、母の手紙が入っていた。
手紙は私にも読める文字で書いてあった。内容は
母の手紙
《ショコラ、おとうさんのいえにつきましたか?
つらいことがあっても、のりこえて ショコラは せかいでいちばんしあわせに なってほしい。
はこは、14さいのあなたにはなしかけるわ。
あいしてる。ショコラ》
木の箱は、丁度私の靴が入るくらいの大きさだ。
開けようとしてもびくともしなかった。
お母さんから託された物だ、大事にしないと。
ショコラは鏡台の引き出しの中にこれらをしまった。
箱が話しかけるってどう言う事なんだろう。
マリノが世話をしてくれるのは週に月火水木金の5日で、土日は変わる変わる交代で別のメイドがやって来た。
マリノには子供がいて週末は子供の所に帰るらしい。
カイヤ、アキノ、ロビー
大体この三人が交代で世話をしてくれる・・・
この三人は私が子供である事をいい事に、私の当番の時は怠けると決めているのか、とにかく何にもしない。
ご飯も運んで来なければ、掃除もしない。
二人掛けソファの真ん中でドッカと座り自分だけが紅茶を飲んだりしている。
アキノとロビーはそんな感じだが、カイヤは叩いたりつねったり暴力を振るうからタチが悪い。
その所為で服で隠れている部分にはいつも青アザが絶えなかった。
服から出る部分に傷を残さないとはカイヤはなかなかの曲者だな!
(作者心の声)
それでも私は泣いた事はなかった。
命まで取られる事は無さそうだし、泣いたところで誰も心配してくれるわけでも無いのはわかっていたから。
ただあまりにも痛く苦しい時は、温かく優しい母の胸に抱かれながら眠っていた時の事を思い出しねむった。
性格なのか、私は辛いことや理不尽なことから全力で抗った事がない。
カイヤの暴力も、マリノに相談すれば少しは何とか出来るのかもしれない。
私はそれをしなかった、荒立てる事が怖かった。
2年前、公爵家に連れて来られる前に祖父にしがみついた時が最大の抵抗だったかもしれない。
そんなわけで土日はいつも腹ペコだった。昼間はまだ我慢出来るが、夜寝る前はお腹が空き過ぎて眠れない日もあった。
⭐︎カイヤ、アキノ、ロビー視点
私はカイヤ・ロマネス22歳
茶色の髪にグレーの瞳
下町の粉屋の娘だった私は、アドマイヤー家に奉公に出て4年になる。
アドマイヤー公爵家の人々は皆完璧で、素晴らしい。
旦那様 お坊ちゃま、お嬢ちゃま
見目麗しい。
特に奥様のイザベラ様は、立ち振る舞いも完璧で貴族の鑑の様な人。
銀色の腰まで伸びたウェーブヘアーは歩く度にキラキラと輝いて、海の底の様な深い青の瞳は、全てを見通している女神様のようだ。
イザベラ様は私の憧れだ。
しかし、今日旦那様であるヨーネス様が、どこからか不詳の娘を、自分の娘として連れて帰ってらした。
公爵家の人の髪色はゴールド&シルバーと決まっているのに、その娘の髪はなんと紫色!
絶対あの子は公爵家の血を引いてない。
奥様を苦しめるなんて許せない。
天罰を与えるのは私、カリナしかいない。
ショコラ、貴女がこの公爵家を諦めるまで、イジメてイジメてイジメ抜いてやる。
メイドのやり方で、卒なく、綺麗に、そして完璧に、イ・ジ・メ・る!
覚悟しなさい!
カイヤ
「アキノ、ロビー!
貴女達もあのガキをイジメなさい!」
アキノ、ロビー
「暴力はちょっと・・・
まーご飯は抜きにしとくわね・・・」
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