第35話 直ぐに離れて下さいマスター

俺はゴブリンとホブゴブリンの魔石を取り出しながらアートに話しかける。


「一個前のゴブリンだけの群れを見つけた時あいつらホーンラビットをどこかに運ぼうとしてたよな?」


【はい、マスター。通常ゴブリンは仕留めた獲物は自分達で食べます。ですが、ゴブリンの上位種特にゴブリンジェネラルやゴブリンキングへ進化した個体が出現すると、その個体を中心に統率の取れた集団になると言う記述があります】


「ゴブリンジェネラルにキングか。エリートであの強さだと考えるとかなりヤバいな…」


【先ほどのゴブリン達がホーンラビットを運ぼうと移動していた方向に拠点がある可能性が高いですね】


ここは村から結構離れているが、もしゴブリンの上位種が居て、拠点ができてるとしたらいつか餌を求めて村の方へと手を伸ばす可能性も否定できない…


「ゴブリンの拠点があるのか確認だけしに行こうと思う」


【拠点があるとすればおそらく、先ほどまで戦っていた小さな群れより遥かに多いゴブリンが居てかなり危険を伴いますマスター】


「それは分かってるけど、レイさん達に伝えるにしても相手の拠点がわかっているのといないのじゃ雲泥の差だしな。

俺が後悔しない為にもリンやレイさん、フォクス村のみんなの為にできる事はやっておきたい。

それに、俺単独ならアートの感知がある分偵察に向いているしな」


【結局私頼りじゃ無いですかマスター】


「頼りにしてるぜ相棒」


【全く仕方がないマスターですね】




「それじゃあゴブリン達がホーンラビットを運ぼうとしてた方向を探しに行きますか!」


【…そっちは反対ですよマスター…】


俺は何事もなかったかのように反転して歩を進める。

だって、草と木ばっかりで目印なんてないんだもん…

心の中で言い訳をしながら、アートがいなければ村に戻ることもできない可能性が高いなと改めて相棒の偉大さを実感する。



移動中もゴブリンの小さな群れはちょくちょく感知したが、今はできるだけ隠密行動を心がけ避けられそうにない場面でのみゴブリンを始末していった。



ゴブリンの拠点があると思わしき方へと進むにつれて明らかにゴブリン達との遭遇する頻度が増えていく。

今までの戦いからゴブリンメイジがいる場合魔法を察知され防がれる可能性があり、増援を呼ばれる危険性が高まってしまう。そこで俺たちはアートがゴブリンメイジのいる群れを感知した場合は少し遠回りになったとしてもその群れを避けて進んでいくことにした。


数回の避けられない戦闘を行いちゃっかりと魔石を確保しつつ、森の奥深くへと慎重に進んでいくと、ギリギリ目視できる所に木の囲いのような物が見える。


俺は自分で身体強化を発動すると見晴らしの良い所まで背の高い木へと登り目を凝らす。


「完全にゴブリンの村が出来てるな…」


俺の目にはただ木材を並べただけであるが簡易の塀に囲まれ、中には辛うじて家と呼べるようなものまで建てられている。塀に囲まれた中心部には一際大きい建物が見える。いかにもボスがいますと言った雰囲気だな…



「アートの感知はゴブリンの村まで届くか?」


【普段円状に広げている感知を前方に絞ればギリギリいけます】


「やってみてくれ」


敵の数と主戦力を把握できれば作戦も立てやすくなるはずだ。


【了解ですマスター】


【………!!!マスター!すぐにこの場から離脱してください!早く!】


かなり焦った様子でアートが俺に伝えてくる。ここまで焦ったアートはあの馬鹿でかいトロールにで会った時依頼だ。


俺はすぐさま木から降りると身体強化を発動したまま一直線に離脱を図る。


途中でゴブリンに出くわすが、俺は構わず走り続け攻撃してこようとするゴブリンにはアートがウィンドカッターを放ち道を切り開いてくれる。


10分ほどだろうか、俺は身体強化をしたまま全力でゴブリンの村から離れ、ゴブリンとの遭遇もかなり減った。


「ふぅ…急にどうしたんだアート?」


【私が魔力感知をした途端に察知されゴブリン側からも私達を魔力感知されました。あの場所で隠れていたこともおそらくバレています】


「まじか…ゴブリン側にも魔力の扱いに長けた個体がいるみたいだな。ホブゴブリンより上位種のゴブリンメイジか…」


【私が感知した限りでは村の中におおよそ600体のゴブリンにホブゴブリン100体、ゴブリンエリート40体、そして中央の大きな建物にそれより強い反応が3つと特に強い反応が1つありました。

おそらくゴブリンジェネラル3体とキング1体だと思われます。ゴブリンジェネラルと思われる反応の1体がこちらに魔力感知をしてきました】


「つまりゴブリンジェネラル個体のメイジか…

それにやっぱりゴブリンキングまでいる可能性が高いとなるとすぐにレイさん達に報告した方がいいな」


俺はゴブリン村の件を伝える為にフォクス村へと帰り道を進む。

帰り道の途中に出会ったゴブリンは少しでも数を減らす為に狩って魔石をいただいていく。






フォクス村へと辿り着くとちょうど門のところにブライドさんが居たため軽く事情を話してレイさんと一緒に詳しく話を聞いてもらうことになった。



「ただいま戻りました」


「アイダさんお帰りなさい〜

今日は早かったのね?

あら?ブライドさんも揃ってどうしたのかしら?」


「実は先ほど森で見たことについてレイさんとブライドさんに報告がありまして…」


俺の真剣な表情から何かただ事ではないと言うことを察したレイさんは俺たちに席に腰掛ける様にと促すとお茶を入れて話の続きを促してくれる。


「先ほど森で狩を行っていた際にゴブリンの村を発見しました。場所はここから7キロほど離れた森の中でそこまで近くは有りませんが、アートの感知によればゴブリンキングと思しき反応もあったとの事です」


「「ゴブリンキング!」」


2人もキングの存在を聞いてかなり驚いている。

アートから感知した詳しい状況を2人にも説明してもらう。村の中であれだけの数がいたが、俺が今日狩ったゴブリンのように村の外で獲物を探している群れを合わせればもっと多いはずだ。



「そんな…以前の衛兵の偵察では村なんてできていなかったはずよ。それにこんなにも早くゴブリンキングにジェネラルまで進化するなんて異常だわ…」


「うむ。これだけの数のゴブリンが増えていれば衛兵が見逃していたと言う事はないだろう。やはり何か変だが、とりあえず今はゴブリン村をどうするかであるな」


「私がこの村にミラージュをかけているとは言え、ゴブリンジェネラル以上の魔物が近づけばバレてしまう可能性が高いわね。アートちゃんの魔力感知を察知して返すくらいだからほぼ間違いないと考えていいわ。この村が見つかる前に倒しておかないと皆んなに被害が出かねないわ」


「うむ。当分は森への出入りは禁止して限られたものだけにしよう。その間に討伐隊を編成してゴブリンキングを討伐するための作戦を練らなくてはな…」


「近くの街のハンターにも協力依頼を出すわね」




「俺も力にならせてください!」


2人は顔を見合わせて2人で笑う。


「アイダさんは本来なら異世界から来てこの村のために無理をして戦う必要なんて無いからわ。でも…アイダさんもフォクス村の一員として手を貸してくださいな」

「うむ。頼りにしてるぞ」


「はい!!」

俺は危ないからと気を遣われるよりも、フォクス村の一員として力になれる事がとても嬉しかった。

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