第34話誉めなければよかった

リンゴを食べながら休憩して魔力も回復したところでゴブリン狩りを再開する。

先ほどまで戦っていたあたりから少し離れた場所まで戻ってくる。するとアートが早速感知する。


【マスター、ゴブリン3体の群れとゴブリン5体+ホブゴブリン1体の群れの2つがそれぞれ右前方と左前方にいます】


また上位種がいるのか…それに昨日も以前より多い気がしたが、やっぱり明らかに前よりもゴブリンに遭遇する間隔が早くなっているな…


「ホブゴブリンはゴブリンメイジか?」


【いえ、魔力量からメイジではありません。今日遭遇したゴブリンエリートよりも魔力は少なくゴブリンよりは多いと言ったところです】


「通常のホブゴブリンか」


先ほどのゴブリンエリートは身体強化を3倍まで発動した俺とほぼ互角の身体能力を持っていた。俺の筋力が23だから恐らく60以上はあるのだろう。

エリートの進化前のホブゴブリンであればそれよりは弱いはずだ。


「戦っている間に合流されて挟み撃ちを1番避けたい。先にアートの魔法でできるだけ静かにゴブリンだけの群れを片付けてからそのままホブゴブリンのいる群れを狙おう」


【了解ですマスター】



アートの指示に従って右側へと歩を進める。



「いたな…あれは…ホーンラビットを運んでるのか…?


アートの感知通り3体のゴブリンがいたが、どうやら仕留めたホーンラビットをどこかに運んでいる途中のようだ。


【おかしいですね…獲物を見つけたら見境なく襲って食べてしまうゴブリンが、獲物を食べずに運ぶとは…】


「今はとりあえずあいつらを片付けるとしよう。出来るだけ静かに仕留められるか?」


【了解ですマスター。魔法を3つ同時に発動しますのでマスターは念の為ご自身で身体強化を使って備えてください】


「わかった。身体強化…準備オーケーだ」


俺は魔力を操作して自分で身体強化を発動する。3倍の身体強化には遠く及ばないが、少し体が軽くなるのを感じる。



【ウォーターボール】


アートが魔法を発動させると俺の前に3つの水球が現れる。大きさは直径1mほどで通常のウォーターボールがバスケットボールほどであることを考えるとかなり大きい。


そして水球が木々の合間を縫ってそれぞれ標的とするゴブリンへと猛スピードで飛んでいく。


ポチャン…


ウォーターボールゴブリンにぶつかってゴブリンが弾き飛ばされるかと思ったその瞬間、弾き飛ばされるどころか水球はゴブリンを丸々飲み込んでその場に留まっている。



「「「ゴボボボ」」」


突然水球に飲み込まれたゴブリンは水中で息ができずに水球から出ようと必死にもがいているが、ゴブリンの力では通常より巨大なウォーターボールを破る事はできないようだ。


しばらくもがいていたゴブリン達だったが遂に力尽きたようでその動きを止める。

役目を終えたウォーターボールも解除されると地面にその水を染み込ませ消えていく。


「えぐいな…」


【何か言いたい事でも?】


「い、いえ…ナンデモアリマセン】


水中でもがき苦しんでいる姿を見るとゴブリンとは言え少しだけ同情してしまう。だが、魔物のという相入れない相手が命を狙ってくる以上、こちらが油断すれば大きな命取りになることはこの世界に来て嫌と言うほど理解している。


「それにしてもさすがの魔法だな」


今の魔法は3つの魔法の同時発動という高等技術だけでなく、魔力量を増やして水球を大きくする技術、そしてその水球を木々の合間を縫って正確にゴブリンに当てる技術、ゴブリンを飲み込んだ後にそのままその場で留まり続ける細かな命令が必要になる。魔法自体は水属性魔法でも簡単な部類だがその技術は流石としか言いようがない。



【マスターには永遠に無理でしょうが、私にかかればチョチョイのちょいですよ】


誉めなければよかった…



俺はもう一つゴブリンの群れがいることを思い出し、魔石を取り出すと気を取り直してそのままホブゴブリンのいる群れへと向かう。

ちゃっかりとゴブリンが運んでいたホーンラビットの魔石も頂いていく。


ゴブリンの群れを見つけるとゴブリンよりも一回り大きく剣を持ったホブゴブリンが見える。やはりゴブリンエリートよりは少し小さく体つきも細いように感じる。


「今回も念の為ゴブリンエリートの時と同じ作戦で行こう」


【了解ですマスター】


アートが3倍の身体強化を俺にかけて体が軽くなる。やはり自分でかけた1.5倍とは比べ物にならない程の高揚感だ。


【行きますマスター。ウィンドストーム】


「グギャァアア」


アートが範囲魔法で先制攻撃をする。風の竜巻がゴブリンの群れを飲み込んで切り刻んでいく。

今度はボブゴブリンも風の流れに巻き上げられ切り裂かれていくのが見える。


ゴブリンメイジでなければホブゴブリンでもアートの魔法を防ぐ事はできないようだな…


1分程すると竜巻は何も無かったかのように掻き消える。残されたのは巻き込まれた草木と刻まれたゴブリン達の姿だけだ。


「グ……」


注意して様子を伺うと全身を切り刻まれながらも辛うじてホブゴブリンは生きているようだ。だが最早虫の息同然で体を動かすこともできないでいる。

俺は念の為、槍でとどめを刺しておく。油断体的だからな。

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