第30話 ヤミーターキー

ブライドさんに訓練でボコボコにされた時以来の大ダメージを負った(自業自得)が、お土産も確保できなんとか無事にフォクス村へと帰還した。


門番をしていた、2人からは服がボロボロになっている俺を見てかなり驚いて心配していたが怪我はないことを伝えて安心させる。


そして家に着いて扉を開ける。


「ただいま戻りまし…」


「きゃぁ〜!ハイヒーリング!!」


言い終わる前にレイさんが俺のボロボロの服を見て叫び、回復魔法をかけてくる。

ん?今さらっと1番上の回復魔法をかけてこなかったか?


そんなことよりもレイさんを落ち着けなくては…


「レイさん!大丈夫!俺はもうなんともないですから!!服だけ!服だけです!」



「あら?」


何とかレイさんに服はボロボロだけど体は何ともないことを伝えられた。


「こ、コホン。それで、アイダさんなんでそんなにボロボロなんです?」


早とちりだと気づき少し頬を赤くして咳払いをする。さっきの慌てようは無かったことにするみたいだ。



「実は…」


俺はボロボロになった経緯をレイさんに話した。自分のドジである為少し恥ずかしいがボロボロの姿を見られている以上言い訳をするわけにはいかない。下手な嘘をついてもレイさんにはバレる気がするしね。



「あらあらまぁまぁ、たしかに身体強化は魔力を圧縮した分だけ強力になると言われてるわ。普通は体への負担も大きいし、魔力も馬鹿にならないからそこまで強化することないわよ。そもそもそこまで圧縮できる魔力操作をできる人が少ないのもあるけどね。

何より無事でよかったわ」



「あはは…まさかあんなことになるとは思わなかったです。

あ、これさっき言ってたヤミーターキーです。アートが言うにはめちゃくちゃ美味しいらしいのでみんなで食べましょう!」


「私も食べるのはかなり久しぶりだわぁ〜

アイダさんが文字通り体を張って採ってきてくれたんですもの、今日は気合を入れて作るわよ〜!」


お昼ご飯を食べ損ねたが、夕飯にレイさんの豪華な料理が待っているので今食べるわけには行かないな…




ガチャ


「おばあちゃんただいま〜!

あ、アイダも帰ってきてたんだ…」


「…キャァ〜!ヒーリング!」



先ほど見た気がする光景に非常にデジャヴを感じながら、リンにレイさんと同じ説明をする。


「こ、コホン。アイダ無事で本当によかったよ!」


やっぱりリンとレイさんは間違いなく家族だ。




帰ってきてからもひと騒動あったが、おれは裏庭で汚れを落とし新しい服へと着替えた。まだ夕飯まで時間があるので、この時間を使って先ほど取ってきた魔石をスマホに取り込む。


………

魔石の取り込みを確認

魔力を抽出します

一部リンク者に還元します

………

完了


いつものメッセージが出てきた。

アートにステイタスを出してもらう。


name:アイダ(戸田藍)

職業:"アート"のマスター

HP:50/50 (5up)

魔力:281/281 (5up)

筋力:23 (5up)

器用:31 (5up)

スキル:"アート" 子機0/4 (作成可能1)




となっている。ゴブリンの魔石4個でステイタスが1upくらいか。前よりも上がるペースが落ちている気がするな…。


そして子機の後ろに(作成可能1)と表示が増えているのは魔石を取り込んで必要数を満たしたからだろう。早速子機を作ってみるとするか!


「アート、子機の作成を頼む」


【了解ですマスター。子機を作成します】


するとスマホが震え出し、一瞬光ったかと思うと俺が今まで持っていたスマホより一回り小さいスマホが画面から出てきた。


「おぉ!さすがファンタジーだな」


出てきた子機を触ってみるが大きさが小さいだけで俺のスマホと何ら変わりないように思う。電源をつけようとしてみるが…


「あれ?つかないな。壊れてるのか?」


【マスターは既に親機である私を使用中のため起動できないようです。起動には魔力を流して使用者登録をする必要があります】


「なるほど、俺は使えないのか」


【前にも言いましたが、チャット機能と位置がわかるGPSの様な機能のみ現在使用可能な為、マスターが所持していてもあまり意味はないかと】


「それもそうだな…そうなると誰に渡すかだけど、とりあえずレイさんに相談してみるか」




ちょうど夕飯ができた様で先ほどから肉の焼けるいい匂いが裏庭まで漂ってくる。この匂いだけでご飯が食べれそうな暴力的な香りだ。



匂いに釣られて居間までやってくると


「アイダ!やっばい!お腹がくっつきそう!」


俺と同じく匂いに釣られて既にリンが居間で待機していた。非常に同感である。


「みんな〜できたわよ〜!」


レイさんがキッチンから料理を運んできてくれる。何やら大きなお皿に大きな銀のボールが被さっている。よくレストランで見るクローシュってやつだ!



「「ぐぅ〜」」

俺とリンのお腹の音が2重曹を奏でてしまう。普段なら恥ずかしく思うが今はレイさんの持っている料理に釘付けである。


「今日は東方の人間族が食べているという主食の"ライス"を使った料理よ!」


「ライス!?こっちの世界にもあるんですか!!」


「アイダ知ってるの?」


「俺のいた世界というか俺の住んでいた国にではライスが主食で1番食べてたんだ!この世界でも食べれるとは!」


「ライスは前に人間族の行商さんがたまたまこの村に寄った際に売ってくれたのよ〜私も食べるのは久しぶりね」


「私はライスもヤミーターキーも初めてだからすっごく楽しみ!アイダありがとう〜!」



「俺も偶々捕まえることができたから運が良かったよ」


【私が見つけたおかげですねマスター】

この時ばかりは素直にアートに感謝しよう。まだ全力強化で突っ込んだ恨みは忘れてないが…



コンコン、ガチャ


「アイダ!門番の2人に怪我をしたと聞いたが大丈夫であるか!?」


ブライドさんが扉をノックして家の中に入ってくる。しかもなぜか酒樽を片手に持っている。


「ブライドさん?門番の方にもボロボロなのは服だけで体は大丈夫って伝えたと思うんですけど」


「う、うむ。念の為に心配になったのでな。うむ」


ブライドさんの様子が何かおかしい。さっきからチラチラとレイさんの方を、正確に言うとレイさんの手に持っているお皿の方を見ているし、片手には酒樽を持っている。


もしや、門番から俺がヤミーターキーを狩ったことを聞いたな!?そして俺を心配するそぶりを見せつつ夕飯に参加する気満々だ!!


仕方ない…お世話になっているし何よりもう俺が我慢できない。


「ブライドさんもよかったらヤミーターキーたべていってください。

それよりレイさんもう我慢できません…!」


「う、うむ。せっかくだからお言葉に甘えるとしよう」



「それでは、じゃじゃ〜ん!

丸ごとヤミーターキーのバターライス詰めです!」


レイさんがクローシュを開けるとこんがりと丸焼きにされたヤミーターキーが現れる。じっくりと焼かれたおかげでヤミーターキーの油が程よくお肉に残り光輝いている


ゴクリ。


だれの唾液を飲む音だろうか。そんなことも気にしている余裕がないくらい目が離せない。


動かない俺たちを他所にレイさんがナイフで切り分けてお皿に取り分けてくれる。


ナイフがお肉に切れ目を入れると中からジュワッと肉汁が溢れ出てしたたっている。それと共にお肉の濃厚な芳香と微かに甘い様な油の匂いが部屋中に広がる。


「さあ、頂きましょう!」


レイさんの言葉に俺たち3人は無言でナイフを入れ口に運ぶ。


「「「!!!」」」


上手すぎて言葉が出ない…

じっくりと焼かれた肉は噛んだ瞬間に柔らかく、肉汁が口いっぱいに広がるほどジューシーだ。なのに油が全くくどくなくむしろバターライスによってその旨みが引き立てられていると感じる。

皮目はパリッとしており香ばしく、何種類かのスパイスを使っているのか少しスパイシーな味もするが、肉の旨みはそれに負けないくらい主張してくる。


こんなに美味しい肉は人生で初めてだと言い切れる。


「なにこれ!めちゃくちゃ美味しいよ!!」


リンが最初に旨さの硬直から復活して声を上げる。



「おれもこんなに美味しいお肉は初めてです!」


「我、感動なり」


え!ブライドさん旨すぎて泣いてる!?

ブライドさんがそんなに美食家だとは知らなかった。そういえば自分でジャーキーを自作してたもんな。


「あらあら、まぁまぁ」


レイさんはそんな俺たちを見て微笑んでいるのであった。



ヤミーターキーうま過ぎた。もしまた見つけたら必ず捕まえると心に誓う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る