第21話 やはり俺が選ばれし者か…

午後からはレイさんと魔法の訓練をする為、これ以上魔力を使うわけにいかないし、そろそろいい時間なのでアリマに一言断って家へと向かう。



「あら、お帰りなさいアイダさん」


「ただいまです」


こんな美人にお帰りと言って貰える日が来るなんて夢にも思わなかった。リンのおばあちゃんと言うくらいだし、マーラさんが古くからの知り合いと言うくらいだから年齢も結構…


「ひぃ…!?」


突然レイさんから謎のプレッシャーが放たれて背筋に冷や汗が出る。女性の勘は鋭いと聞くけど、もはや読心術レベルだ。


【マスターが顔に出やすいだけですよ】


そういえばこいつもたぶん?モデルは女性だった。


【本に書いてありましたが、レイのように銀獣化すると体の作りが変わり寿命も能力も大幅に伸びて老化しにくいようです】


なんと女性の夢の様な話だ。


【ちなみに、銀獣化の様な変化を種族進化レースアップといい、人間族では真人化、森人族では精霊化、土人族は鋼人化といい、限られた存在だけが進化できるようです】


「じゃあやっぱりレイさんってすごい人なんだな。それに人間族も種族進化レースアップするのか!俺も可能性はあるんだな!」


【可能性はゼロではないです。可能性は】


相変わらず棘のある言い方をアートにされるが、可能性があるだけ十分である。


レイさんは普段の包容力の塊のおっとりしている姿からはあまり想像できないが、この村で種族進化しているのはレイさんだけで、あのブライドさんですら進化には至っていないのだ。


エプロンをつけ尻尾をふりふりしながら鼻歌を歌い料理しているレイさんを見るが、やっぱりそうは見えない。

は!?これが俺が憧れてた能ある鷹は爪を隠すなのか!?


そんなバカなことを考えていると料理をレイさんが運んできてくれる。今日は森で取れたビッグボアのスープと言っていた。


「このビッグボア?のお肉柔らかいのにジューシーで美味しいですね」


異世界に来て初めて食べたツノウサギ、正式にはホーンラビットと言うらしいが、そのお肉とまた違った美味さだ。




あっとういう間に完食すると小休止を挟んでレイさんとの訓練に入る。おれは少しでも上達する為に、レイさんが来るまで自主練しておく。



「それじゃあアイダさん始めましょうか。前回言ってた魔法のための流れを覚えているかしら?」


「魔力の変換・集中・構築・命令です」


「その通りだわ。魔力操作ができる様になったのを確認する為に、1つ飛ばして2段階目の魔力の集中をやってくれるかしら?

手からファイヤーボールを出す時は手の先に魔力を集めるイメージよ」


「手の先に集中ですね…」


俺は今まで体内でぐるぐると動かしていた魔力を今度は手の方で止まるように意識する。先ほどアートに身体強化で魔力を圧縮して高密度の魔力を体に流してもらったおかげか魔力の流れがより把握しやすくなっている気がする。

次第に手の先へと魔力が集まっていくのが分かる。


「出来ました!」




「あらあら、まぁまぁ!本当にもう出来ちゃったのね!アートちゃんのおかげで既に体が魔法を使った時の魔力を感じているのが大きいのかしらね」


【マスターの才能じゃなくて私のおかげですね】


ぐぬぬ…



「そしたらステップを戻って次は魔力の変換ね。その前に知っておかなきゃいけないことがあって、実は魔法には属性があるの。ファイヤーボールなんかは見た通り火属性に分類されて、他にも基本属性の水、風、土、光、闇属性やそれらを組み合わせた氷や雷、木なんかの複合属性、そしてそれらに当てはまらない固有属性ユニーク属性なんて物もあるわ」


「そんなにいっぱいあるんですね。ユニーク属性かぁ〜これは厨二心がくすぐられるな…」


「ユニーク属性は生まれつきの体質になるわね。それで、人それぞれ得意な属性が偏って使える魔法や消費魔力なんかもそれに大きく左右されてしまうの。

そこでこれからアイダさんの属性を調べます!」


ジャジャ〜ンと効果音付きでレイさんが箱から出したのは水晶玉である。


「これで基本属性の適性を測れるの。火属性なら小さな炎が、水属性なら小さな水みたいにそれぞれの属性が水晶の中に現れるわ。複数適性がある場合は順番に現れて最初に出るほど適性が高いの。こんなふうにね」


そう言うとレイさんは自分の手を水晶の上に乗せる。すると水晶の中が初めに発光しだし、その後につむじ風が現れ、次に水滴が順番に現れた。


「私の基本属性は光、風、水というわけよ」



おぉ!これは主人公が全部の属性を出させて「ふっ、やはり俺は選ばれしものだな」と周りを驚かせるテンプレイベントってやつですな!!


「それじゃあアイダさん手を乗せてみてくれるかしら」



「分かりました」


俺は緊張と期待が入り混じりながら水晶に手を載せる。



………


へ?


「レイさん…これは…?」


「う〜ん…属性がない…?」


レイさんが可愛く首を傾げる。



【2人ともよく見てください。水晶にとてもとても弱々しいですが光が灯っているようですよ】


「あ、あら、よ〜く見ると本当ね。じゃあアイダさんの属性は光属性ですわ」


「流石にこれは弱すぎね?」


どうやら俺にはかろうじて、瀕死レベルで光属性の適性がある様だ。



「でも、リンからアイダさんが模擬戦でアートちゃんを通してファイヤーボールを使ったって聞いたからてっきり火属性の適性があると思っていたわ」


確かに…あの時俺は…というかアートがファイヤーボールを放ったお陰で無事だったのは間違いない。



ん?アートが?


俺は頭に浮かんだ疑念を晴らすべく念の為スマホを水晶の上に置く。



すると…水晶の中には同時に全ての基本属性がぎっしりと見えている。


「あらあら、これは初めて見ましたわ!全ての属性が同じレベルで適性を持ってるなんて!」


レイさんが興奮した様に驚く。やはり全属性、しかも全て高いレベルでの適性だ。相当珍しいのだろう。



【ふっ、やはり私は選ばれしものですね】



く、くそぅ…返せ俺のテンプレイベント…!!

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