第20話 身体強化
朝のランニングを終え家に戻るとレイさんがご飯の用意をしてくれている。まだレイさんに何も返せていない俺は必ず恩返しをすると心に誓いながら今日も美味しくご飯を頂く。
レイさんに魔力操作がだいぶ上達した事を伝えると、今日のお昼過ぎに次のステップを教えてくれることになった。
お昼まで暇ができた俺は訓練所へと向かうことにする。
訓練所に着いてキョロキョロと辺りを見渡すがブライドさんはいない様だ。代わりに初めて見る衛兵が短剣を指導しているのが見える。
短剣もいずれ補助武器として習ってみたいがまずは槍をある程度まともに使える様にならなきゃな…
俺はブライドさんの見本を思い出しながら素振りを繰り返す。
「ふっ、せい、ふっ、せい」
続けて振ると手がぶれずに振れるのは精々30回くらいで途中から穂先がぶれてしまう。やはり筋力が不足している様だ。それでもできるだけ脳内のブライドさんの動きに近くなる様に休憩を挟みながらひたすらに動きを体に刷り込んでいく。
「ふっ、せい…」
「精が出るっすね!」
しばらく続けていると近くで声がする。
集中して気付かなかったが、訓練所に来た時に見かけた短剣を持った衛兵が近づいて俺に話しかけてきた。
おれは槍を振うのをやめて衛兵のほうを向く。
「ふぅ…初めましてアイダです。先日からこの村でお世話になってます」
「知ってるっすよ!ブライド隊長が久し振りに鍛え甲斐のあるやつが来たって悪い顔で言ってたっす。あの人熱くなると我を忘れるんでご愁傷様っす。
万が一っすけど、身体強化を使ってきたら本気でこの世とおさらばしかねないから注意するっすよ」
普段の堂々とした姿からは想像がつかないと思ったが、いきなり模擬戦をさせられた事を思い出して苦笑いする。
だが、それ以上に男心をくすぐるワードがでてきてウズウズしてくる。
「自分アリマっていうっす。自分の武器は短剣で槍は使えないけど、衛兵の中では先行任務、いわゆるスカウトってポジションを担当する事が多いっすから何かあったらいつでも聞いてくださいっす!」
「アリマさん早速なんですけど一ついいですか?さっき身体強化って言ってたと思うんですけど、それってどんなのですか?」
「あ、自分のことは呼び捨てでいいっすよ。
身体強化っすか?ブライド隊長が1番得意だから隊長に教えてもらうのがいいっすけど、自分も一応使えるからやってみるっす。自分だと最大でも3倍くらいが限界っすね」
アリマは初めに素の状態でジャンプして見せる。176cmあるおれと同じあたりまで跳んでいる。普通にすごい。獣人族だからか?
「よし行くっすよ!身体強化!」
ザッ
アリマからなんだか先ほどまでよりも圧を感じる気がすると思ったら、土を蹴る音がして先ほどのおおよそ2倍ほどの高さまでジャンプをする。明らかに先ほどよりも身体能力が上昇している様だ。
おぉ!これが身体強化か!これはロマンだな
「すごい!それどうやってるんですか!?」
「アイダは魔力操作できるっすか?」
「まだまだ拙いですが少しはできます」
「そしたら魔力操作で全身に魔力を満ちさせて、ふん!ってやるっす」
「ふん??」
「ふん!はふん!っす」
アリマはかなり感覚派のようで全くもってわからない。為にしやってみるがうんともすんともいわないしできる気がしない。するとみかねたアートが助け舟を出してくれる。
【マスター、アリマに触れたまま身体強化してもらってください】
「その手があったか」
俺はアリマの肩に手を置く。
「ん?どしたっすか?」
「ちょっとこの状態でさっきの身体強化を使ってくれないか?」
「?? 分かったっす。身体強化!」
突然肩に手を置かれ不思議そうにしながらも身体強化を使ってくれる。
【魔力の流れを解析します。完了。もう大丈夫ですマスター】
おれはアリマにお礼を伝えて少し離れる。
【身体強化はどうやら魔力を圧縮して全身の血管の隅々まで魔力を高速循環させる技法のようです。圧縮された魔力は次第に霧散する為、発動中は魔力をどんどん消費する様ですね】
「いけそう?」
【問題ありません】
「それなら頼む。ついでに消費魔力も計測しておいてくれ」
アートが身体強化を発動した途端に、俺の全身に力が漲ってくる。手のひらを開いたり閉じたりして確認しつつ、持っている槍を振ってみる。
ブォン、ブォン
明らかに練習していた時よりもいい音が鳴る。
さっき教えた所なのにもうできたのか!?と驚いた顔でアリマがこちらを見てくる。
次にその場でジャンプすると俺の身長くらいは跳ぶことができた。普段の俺なら絶対に無理だが、アリマほど高くは跳べないのは素の状態の身体能力に差があるからだろうか。
少しすると力が抜けていく感じがしていつもの状態に戻る。アートが身体強化を解除したようだ。
【身体強化の魔力消費ですが、先ほどは1分でおよそ5の魔力を消費していました】
【身体強化というだけあって素の状態の身体能力に大きく左右される様なので、これからも体力と筋力トレーニングは続けないといけませんね】
内心でアートに同意する。
「身体強化すごいですね!体に力が漲ってくると言うか」
「すごいのはアイダっすけどね!こんなに早く習得するなんて思っても見なかったっす!さすがブライド隊長のお気に入りっす」
自分が習得したわけではないので、褒め言葉がむず痒いが本当のことを言うわけにもいかず、いつもの如く苦笑いする。
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