第18話 ポーション

昨日リンと歩いた道を思い出しながら向かうと無事マーラさんの家の前に辿り着く。ノックをして呼びかけると中から声が聞こえてくる。



コンコンコン

「マーラさん!アイダです!」


「開いとるから好きに入っとくれ」



「お邪魔します」


扉を開けて中に入ると先日と同じく様々な匂いが混じった独特な匂いがする。


「昨日お願いした件なんですが、早速今日からでも大丈夫でしょうか?」


「早いことはいいことさね。どうせ暇してるから好きな時にくればいいさね。それでアイダは薬学の何を1番知りたいんだい?」


「そうですね…」

【やはり1番は魔法以外の怪我や病気の回復のための手段と毒物と見分ける知識が重要になるかと】


おれはアートと同意見であった為そのままマーラさんに伝える。



「アイダは人間族だからこんな森の中まで旅をしてきたのによくそれでここまで来れたさね」


「あ、あはは」


早くも何か見透かされている様な気がするがなんとか苦笑いで誤魔化す。


「まぁいいさね、それじゃあ最初に毒物との見分け方だけどこれは本を読んで覚えるしかないさね。後は食べる前に肌に触れさせて異変がないか調べる方法もあるが…素肌に触れただけで死ぬやつもあるから覚えた方が確実さね。

そこに本があるから好きに見ていいさね」



マーラさんが指差す方には本棚があり、見た目かなり古いものから新しいものまで結構な量がある。おれはいつものごとくスマホでアートに読み込んでもらうためにパラパラとめくっていく。

確実にマーラさんに不審に思われるだろうが、俺にはこの本の量を正確に覚える自信なんてこれっぽちもない。それに、もうなんか見透かされてる気がするから今更だと自分に言い訳をする。



案の定マーラさんは怪訝な表情を向けているが特に何も言ってこない。


量が多い為しばらく時間をかけてアートに頑張ってもらう。最後の本を閉じて棚に戻すと、少し気まずい思いをしながらマーラさんにもう大丈夫だと伝える。


すると、「じゃあ確認さね」と言いながら俺に問題を出してくる。



「ベニイト花の毒はどの部分だい?」


【茎と根に毒がありますが、花には体の活性を高める作用がありますマスター】


俺はアートの言葉をそのままマーラさんに伝える。


「次はマダラキノコとマダラ毒キノコの違いはなんだい?」


【マダラキノコは傘の内側が白色に対して、マダラ毒キノコは傘までマダラ模様がついていますマスター】


だそうです。


「なるほどねぇ。どうやら本当に分かっているようさね。この歳になってもまだ驚くことがあるとは思わなかったさね。本を読む時に持ってたその板については詳しく聞かないさね。」


【流石に異世界人とまでは気付かれていないと思いますが、やっぱり完全にマスターだけの力でないことがばれている様ですね】


おれは全く覚えてないので申し訳ない気持ちになってくるが、例の如く愛想笑いで乗り切る。これが社会人生活で身につけた俺の必殺技だ。





「それじゃあ基礎知識が大丈夫なら早速次に進むさね。アイダも使ったことがあるかも知れないけど、これらがポーションさね」



マーラさんが棚に並べてある物の中から試験管の様な入れ物に入った緑と青色のそれぞれ濃さが違う物を3本机に持ってくる。


「この緑色のが回復ポーション、青色が魔力ポーションさね。そして、ポーションの色が明るく濃いほど質が高いポーションで、効果も高くなるさね。かすり傷や打撲程度ならこの低級ポーションで治るし、骨折や深めの傷には中級ポーション、重症は高級ポーションじゃないと治らないさね。本当はこの上に最上級ポーションがあって、千切れた手足も直ぐであればくっつくほどだね。うちには最上級ポーションは流石に置いてないよ」


「他にもいくつか種類はあるけど回復するポーションは主にこの2つさね。街の方では製造方法の公開を薬師ギルドが取り締まっているし、薬師は作り方は皆んな秘匿したがるから師匠が弟子に口伝するのが基本さね」



「まだここにもきたばかりでこんな怪しい奴に教えてもいいんですか?」


「それを自分で言うのかい。確かに人間族でも珍しい黒い髪に、物もあんまり知らないと思ったら本は直ぐに覚えるし、見たこともない変な板や時々独り言を呟いている変な奴さね」


「うぐ、うぐ、うぐ…」


マーラさんのラッシュに呆気なくボコボコにされる。



「それでも、リンちゃんを助けてくれた恩があるさね。村長のレイとも古い付き合いでリンちゃんが生まれた時から知ってる可愛い孫みたいなもんさね。それにあんたは悪い奴じゃ無さそうだとあたしゃの感がいってるさね」


【リンに感謝ですねマスター】


「ありがとうございます」




「今日はまずは回復ポーションを作ってみせるかね。回復ポーションに必要なのが薬草と清潔な水にこの釜さね」


そういってマーラさんはタジン鍋のような不思議な形をした釜と魔法陣の様なものが描かれた大きめの鍋敷きの様なものを持ってくる。


「釜が必要なんですか?」


「これはただの釜ではなくて魔力釜と呼ばれている物さね。魔力釜は普通の釜とは違って魔力を中のものに流すことができるのさね。」


「…?」



よく分かっていない様子の俺にマーラさんは見本を見せてくれるようだ。


「いいかい?ちょうど下処理をした薬草と水があるからやってみせるさね。」



それぞれ適切な分量があるのだろうか、マーラさんは重さを天秤で計りながら薬草を魔力釜に入れる。その次に水も少しずついれ、魔力釜の蓋を閉じて先ほど釜と一緒に持ってきていた不思議な紋様の布の上に置く。そして、マーラさんが布に手を置くと布の紋様と釜が少し光っていき、その後光が収まった。



「できたさね」


マーラさんは魔力釜の蓋を開け、中の液体をこぼさない様に試験管に入れる。透明な試験管の中に薄い緑色をした液体が注がれていき、先ほど見せてもらった低級ポーションと同じ色が中に溜まっていく。


「なるほど…ポーションの等級は何によって決まるんですか?」


「薬草の種類や質に使う水の質と薬師の魔力の込め方なんかによっても変わってくるさね。色々とコツがあるさね」


「奥が深いんですね…」



「次はアイダの番と行きたい所だけど、こんなに早く進むと思わなんだ材料も準備も足りないから、そうさね3日後に来ておくれ」



「分かりました。とても為になる時間でした。今日はありがとうございました。またお願いします」

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