第15話 マイヘブン

サンドイッチを食べ終わった俺たちは少し休んだあと、早速レイさんに魔法について教えてもらう事になった。

裏庭に集まるとレイさんからの講義が始まる。



「まずはアイダさんは魔法について何か知っている事はあるかしら?」


「いえほとんど何も知りません。魔力を使ってファイヤーボールとかを出したりするくらいしか…」




「なるほど…ではまず、魔法を使うために必要になる物について教えますね。魔法を使うにはまず先ほど言っていた魔力が絶対に必要になるの。そしてその魔力を変換・集中・構築・命令する事で発動するわ」



「魔力を変換・集中・構築・命令ですか…」



「そしてこれら全ての基本になるのが魔力操作なの。魔力操作は最も魔法を使う者の技量によってばらつきが出やすく、魔力操作を見れば大体の実力が分かると言われる程なのよ」



「じゃあ早速魔力操作をやってみましょう!アイダさんは魔力を感じる事はできる?」


「いえ、よく分かりません」



「そうよね…ならまずは…

魔力は心臓から作られて身体中を巡っているの」




レイさんはそう言うと、俺の手を取りなんとそのまま自分の心臓の位置へと俺の手を近づけていく。




ふにょん


「!!!!?」


「私からアイダさんに魔力を流してみるわね…

分かるかしら…?」



右手が、右手が未知の感覚に喜んでいる!?右手全てが極上のプリンに包まれているようで、動かしたら儚く崩れ落ちてしまいそうな感覚さえ覚える。

ごめんなさいレイさん。全く集中できません。


【マスターはチェリーボーイの癖にヘンタイなのでこのままでは無理かと】


茹蛸の様になって固まる俺を見てレイさんも難しいと分かったのか少し悔しそうに手を離す。


あぁ…おれの天国が遠ざかる…さらばマイヘブン



【ドヘンタイマスター。私がマスターの魔力を前みたいに無理やり動かすのでそれを集中して感じてください。あと次に同じ事をしたら2度と使えないように新品でも燃やしますよ】


「ヒェ!?燃やすってナニをだよ!?」


アートの言葉に一気に顔の火照りが冷めていく。




【それじゃあいきますよ】


初めは何も感じなかったが、次第に心臓付近に大きな暖かいエネルギーを感じ始める。そしてそのエネルギーの一部がぐるぐると全身を輪のように流れているようだ。


「あ…何となく分かった気がします。この暖かいような不思議な感じなんですね」



「そしたらそのま自分で動かす練習に入りましょう。感覚は人それぞれだから本来なら自分に合った方法を身につけていくのだけど、アートちゃんが居ればコツを掴むのを簡単かもしれないわ」



【私が軽く動かして流れを作るのでマスターはそれを後押ししてみて下さい】


言われるがままアートの動かしてくれた魔力を流れに沿うように動かしていく。

初めて使う筋肉の使い方が分からないように動きそうだが動かないもどかしい感覚になる。それでも深く集中すると、ほんのちょびっとずつではあるが流れが速くなったきがする。

だが、アートに流れを止めてもらってから、自分で動かそうとするとピクリとも動かない。



「初めはなかなか上手くいかないものですわよ」


「あたしなんて魔力を感じて動かせるようになるまで3ヶ月くらいかかったよ」


リンが訓練を思い出したのか苦い顔をする。



「3ヶ月でもかなり早いのよ。長い人だと数年かかる人もいるくらいよ。これができるようになるまではアートちゃんと自主練あるのみですわね。

あ、後この本達が今この村にある魔法に関する本だからアートちゃんに読んでおいてもらうといいと思うわよ〜」


そう言われてアートに魔法の教本を読み込んでもらった後、ついでにレイさんに言って家にある本を一通りアートに読んでもらった。その後はアートに手伝って貰いながら魔力操作の練習をしていく。


日が落ちる頃には成果が出てきて、まだまだ、亀の如きスピードではあるが自分だけでも動かせるようになってきた。



「アイダさ〜ん、そろそろ戻ってきて下さいな〜」


レイさんに呼ばれて訓練を中止して部屋に戻る。集中していたせいか、ひどく疲れ全身汗だらけになっていた為一声かけてから先にタオルを借りて井戸で体を拭く。



「やっぱりなかなか難しいけど、ちゃんと自分の糧になっている感じがして楽しいな」


【向こうの世界でのマスターは死んだ魚と同じ顔をしてましたからね。今のマスターは打ち上げられた魚と同じくらいと言ったところでしょうか】


「それかなりもがき苦しんでるときじゃ…」




喜んでいいのかわからないアートの言葉に腑に落ちない感じがしつつも、居間に戻る。

すると2人がすでに料理を作っている途中で席で待っているように伝えられる。


【完全にヒモニートのクソ野郎ですねマスター】


「うぐ…その通り過ぎて何も言えない…

レイさんに聞いて明日から何かできることがないか相談してみよう」





「アイダ〜できたよ〜」


リンが元気よく持ってきたのはキノコたっぷりのパスタであった。

続いてサラダを持ったレイさんもやってくる。



「パスタは私が麺から作ったよ!」



「とても美味しそうだね」


3人でテーブルを囲み挨拶をした後に早速パスタを頂く。


「このキノコの旨みがソースによく出ていてモチモチのパスタとよく絡んで美味しです!」


「あらあら、うふふ。よかったわねリン〜

助けてもらったお礼に手伝う!って張り切ってたものね」


「美味しいよリン。ありがとう」


「こちらこそ助けてくれてありがとね」


えへへ〜と少し照れた様子でリンがはにかみながら改めてお礼を伝えてくる。



「レイさん、この村で何か俺にも手伝える仕事ってありますか?少しでも皆さんの役に立ちたくて」



「う〜ん、今思いつく事だと、畑仕事か狩りの手伝いとかかしら」


【森での狩はこれからの旅をしていく中で非常に役に立ちますので狩をお勧めします。それに狩であれば私の探知が役に立つかと】


「アートがそう言ってるので狩の手伝いをさせていただいてもいいですか?」


「分かったわぁ〜

狩人を指揮してるルークさんに話を通して置くわね」


「ありがとうございます」


それから食事をしながら魔力操作が少しだが自分でもできるようになったことを伝えると2人から非常に驚かれた。

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