第13話 VSジューク
「うむ。それではルールはさっき言った通りだ。開始の合図は我がする。それでは2人とも健闘を祈る」
俺とジューク君は10mほどの距離を空け、武器を構えて対峙する。
【マスター小僧を何か煽って下さい】
もうどうにでもなれとよく分からないままアートの指示に従う。
「ジューク君ってもしかしてリンのことが好きなの?リンのピンチに自分が助けられなくて悔しいとか」
「はぁ!?そ、そんなわけないだろぅ!あんな女!」
ジューク君は顔を真っ赤にしながら剣を振り回して否定しているが、俺から見れば図星を突かれた子供にしか見えない。
【若い純情を利用するとはやっぱり鬼畜ですねマスター】
「…アートが煽れって言ったんだろ…」
【これであの小僧は開始と同時に真っ直ぐマスターに突っ込んでくる筈です。相手はおそらく……】
「了解した。よく分からない部分もあるがとりあえずアートの言うとおりにしてみるよ」
アートから模擬戦の詳しい指示を受け、頭の中でイメージして合図を待つ。
「うむ。2人とも準備はいいな!これは模擬戦であることを忘れるなよ!
それでは、はじめ!!!」
「うぉら〜」
アートの読み通りジューク君は開始の合図と共に利き手である右側に剣を構えながらこちらに向かって突っ込んでくる。
【マスター作戦通りです!来ますよ】
俺は槍を構えたままタイミングを待つ。
「うぉりゃぁ!俺の剣をくらえ!」
【今です!マスター】
俺は剣を振り下ろそうとするジューク君に向かって左斜め前方に避けるとジューク君の剣は目標を見失って空を切り空振りに終わる。俺は避けながら槍の柄でジューク君の足を引っ掛ける。
「ブブフウェ」
ズザーと言う音共に顔面から地面に突っ込んだジューク君の呻き声が聞こえて来る。開始から一撃で決めようとしたのか全力で加速していた為、足を掛けられ転んだ際のスピードもかなりのものだった。
「完全にアートの予想通りだな」
【ナイフも要らなかったですね】
試合前のアートの指示は【おそらく…直情型の小僧は突っ込んできた後に、そのまま右手に持った木剣を右上から振り下ろそうとして来ます。
集合前の小僧の模擬戦を少し把握しておりましたが9割型間違いありません。
ですので、マスターは小僧の斜め左前方に向かって進みながら剣を避けるのが1番避けやすいです。
ついでに足でも引っ掛けてやればそれでお終いです。
万が一ですが、何か不測の事態があれば相手の方に向かって手を前に突き出してください。】と言うものであった。
「うむ!そこまで!勝者アイダとする!」
呆気ない終わりに一瞬周りは唖然とするも、ブライドさんの声で拍手と歓声があがる。
「俺はまだ負けてない…あんな奴すぐに倒して…」
転んだ態勢顔に傷を負いながら起き上がると、アートの方を睨みつけ何か集中し始める。
歓声の中に紛れたジューク君の呟きはかき消されて周囲のものは誰も気づいていない。
だだ1人?を除いては。
【マスター!手を前に!】
アートの声に咄嗟に反応できたのは先ほどイメージトレーニングをしていたおかげか、異世界での命のやり取りをしたおかげかは分からないが、事前のアートの指示通りに槍を持っていない左手を前に突き出す。
手を突き出したと同時にジューク君の方から炎の球が飛んでくる。リンがゴブリンに放った炎の球よりも一回り小さく色も赤い炎だが、直撃すればその熱は体に深刻なダメージを与えるのが容易であると伝わる。
さすがのブライドさんも咄嗟に反応しているが距離が離れていたことと試合はもう終わっていたと言う油断から間に合うかどうかは微妙な所である。
バーンッ
炎の球がぶつかり大きな音共に煙が上がる。
「俺の勝ちだ!」
ジューク君がそう叫ぶ。
周りのギャラリーは一様に驚き、リンとブライドさんは藍の名前を呼ぶ。
「「アイダ!!!」」
ケホッ、ケホ
「アートの言うとおりにして良かったよ」
煙の中から声が聞こえてくる。
【当然ですマスター】
「でもまさか自分が魔法を使うとは思わなかったよ。でも、俺が使ったって言ってもいいのか微妙な所だけどな」
【マスターは私の下僕なんですから同じですよ】
炎の球が俺にぶつかる直前にアートの指示によって突き出した手から、アートが俺の魔力を直接操作してリンと同じ青い炎の球をぶつけ相殺したのである。
「無事であるか!?アイダ!」
「アイダ!大丈夫!?」
ブライドさんとリンが俺の方に駆け寄ってくれる。
「アートのおかげでなんとか無事だったよ」
「無事でよかったぁ〜
いつのまに私と同じ
「やっぱりファイヤーボールでよかったのか。実はあれ俺じゃなくてアートがやったんだ」
「アートちゃんが!?」
「うむ!?なんと!?」
【試合前にマスターに触れた状態でリンにお願いしてファイヤーボールを見せてもらった際に魔力の流れと質、使用方法を解析しました。模擬戦で小僧がリンと同じく魔法を使ってくる可能性もありましたので】
「さすがだなアート」
「うむ、そしてジューク!我は試合終了の合図をした筈だ。これは模擬戦であると初めにそう言ったな。戦士としていや、男として恥ずべき行動だ!罰として1ヶ月村中の清掃を命じる」
「そんなバカな…俺の方が早くから魔力を練ってファイヤーボールを放ったのに、あいつの方が後からだったのに…」
「サイテーだよジューク!」
「グハッ」
ジューク君はようやく完全に自分の負けを認めたようだ。そして思い人からのサイテーと言う止めの一撃によって魂が抜けていくようであった。
模擬戦が終わりブライドさんの解散の声で各々自分の訓練に戻っていく。
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