第12話 訓練所

マーラさんの家を後にすると今度はリンが鍛冶師のところまで案内してくれると言うのでついていく。

少し歩くと煙突から煙を出している家の前に着く。中からはキン、キンッと金属を叩く音が時折聞こえ、どうやらここが鍛治師の家の様だ。



「ガンテツさ〜ん!入るよ〜!」


リンはどうせ聞こえないと思っているのか返事を待たずに扉を開けて中に入る。一緒に中に入るとブワっと熱気に襲われ額に汗が滲んでくる。



「ガンテツおじさん!ガンテツおじさん!お客さんだよ!!」


リンが近づいて大きな声を出すとようやくこちらに気付いたのか金属を打っている金槌を置き、額につけた手拭いを外す。



「おぉ!なんだリンちゃんじゃ無いか!いつの間に来てたんだ!」


「もう!さっきからずっと呼んでたのに気付いてくれないんだもん」


「悪い悪い、集中するとついな…って隣にいるのは見ない顔だが、昨日ハリマの野郎が言ってたアイダか?」



「はい、昨日からお世話になってますアイダです」


【もう藍と訂正するのも諦めましたねマスター】


アートが何か言ってくるがスルーする。



「リンちゃんを助けてくれてありがとうな。なよっちい見た目をしてるがやる時はやる男なんだな!

俺はガンテツってぇもんで、武器だけじゃなくて鍋なんかも俺がこの村のほとんどを作ってるから必要なものがあったら言ってくれよ。」


「ガンテツおじさんは村のほとんどの金具を作ってるし直してくれるんだよ〜」


「それは凄いですね」



「そうだ、ほら、ちょうどさっき出来たもんだがこれ持ってけよ。解体にも使えるし便利だぞ」


ガンテツさんがそう言うと刃渡り20センチほどのナイフと鞘を渡してくれる。


「ありがとうございます!」


「まぁなんか必要なものがあったら俺のとこに来な!俺の息子のテッシンに作らせれば修行にもなるしな!」



「ガンテツおじさんそういえばテツくんはどこ行ったの?」


「あいつは今頃はたぶん訓練所じゃねぇかな?」


「そうなんだ、分かった!次は訓練所行ってみるね!またね!」


リンは次の場所が決まるといそいそと次へ向かおうとする。



「ナイフありがとうございました!大切に使います!」


俺は遅れまいとガンテツさんに礼を伝えリンの後ろをおいかけると、後ろから、おう!という声と金属音がまた聞こえて来た。




「リン!まって!」


「あ、あはは〜ごめんね!つい急いじゃった〜」


「訓練所ってどんなところなの?」


「訓練所は14〜16歳くらいが集まって、衛兵の人たちに武術や魔法を教えてもらう場所だよ〜!あたしも普段はそこに訓練しに行ってるよ!みんながいると思うとつい駆け足になっちゃった」


「そうだったのか」



【モヤシマスターはまず訓練どころか基礎体力からですよ】


「こっちに来てからの2日間で嫌という程身に染みてるよ…」



リンと話しながら歩くと次第に、カンッカンッと言う木と気がぶつかる音や大きな声が飛び交っているのが何となく聞こえて来る。



「みんな〜やってるねぇ〜!

あ、今日はブライドさんだ!」


2人でブライドさんの元へと歩いていく。


「うむ、リンはアイダを村案内しているのか。せっかくなら皆とアイダを顔合わせして置くか。

全員訓練をやめて集合!!」


ブライドさんは大声でそう叫ぶと周りで訓練していた者たちがいそいそと集まって来る。


「聞いている者もいるかも知れないが、この村に昨日からやって来た彼がアイダだ!

みんなよろしくするのだぞ」



「ブライドさんそいつが噂のリンを助けたって奴なんですか?ヒョロヒョロでとても信じられないんですけど」



「やめんかジューク」



ブライドさんの言葉に不服そうな顔で突っかかる狐人族の少年はジュークと言うらしい。ジュークはスポーツ刈で髪の毛は赤茶色をしており、やんちゃという言葉がよく似合う見た目をしている。ちなみに年はリンより一つ下の15歳だと後で聞いた。



「ちょっとジューク!アイダに失礼でしょ!」


「あはは、大丈夫ですよブライドさん、リン。ヒョロヒョロなのは本当ですし、ゴブリンに勝てたのもリンのおかげですから」



「はん!やっぱりかよ。どうせそんなことだと思ったぜ。俺ならその場にいたら1人でゴブリンなんか蹴散らしてリンを守ってやったのに」


ジューク君はチラチラとリンの方を見ながらそう言い放つ。



【マスター。この小僧と模擬戦をしましょう!】


「え?模擬戦?」


突然の意外なアートの提案に小声にすることを忘れて素っ頓狂な声をあげてしまう。それがジュークに聞こえてしまい火に油を注ぐことになった。



「なんだと!?俺と戦って勝てるとでも言いたいのか!?」



「うむ。それもありなのであるな。

よし、アイダがやる気であれば問題ないな。ルールは何でもありだが、相手に回復不能な重大な傷や致命傷などは厳禁で即失格の上、我が即座に止めに入る。よいな!」



「あの、いやちょっと…模擬戦なんてとても…」


【よいです!】


「はぁ…なんでお前は乗り気なんだよ…」



【あの小僧を捻り潰しましょうマスター。マスターを貶すのは私の役目なのに!!私の仕事を取りやがって】



「おい、そんな理由かよ…しかも君の仕事は俺のサポートって前言ってなかったっけ?」



【それは暇つぶしみたいなもんです。それで模擬戦の前にリンとマスターにお願いが…ゴニョゴニョ】



異世界に来てから1番アートがやる気を出している気がするが、その理由に俺のやる気はだだ下がりだ。



「うむ。では2人共あちらから好きな武器を取って来るといい」


ブライドの指差す方向を見ると木製の武器が並んでおり、メジャーな武器は大体あるようだ。

俺はもう逃げられないことを悟り、仕方なく重い足を引きづりながら武器を選ぶことにした。


ジュークくんは訓練で使っていた剣をそのまま使用するようで武器を取りには来なかった。



「やっぱりツノウサギの槍を使ってたから槍かな」


木製の槍を手に取って数回振って重さと重心を確かめる。


【マスター。槍は接近されると弱いので念の為ナイフも持っていってください】


「確かにな。一つだけとは言われなかったしいいのか」


俺はアートの指示通りナイフを腰の横に差し込んでから槍を持ってブライドさんの元に戻る。

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