第11話 フォクス村

「んん〜よく寝たぁ〜

久しぶりのベットは最高だったなぁ

ここ最近で一番よく寝れて体調いい気がする」



【おはようございますマスター。今日は一段と幸の薄い顔ですね】



「俺って体調良くなるほど幸薄顔かよ。確かに子供の頃から幸運とはかけ離れてたな…

親に連れて行ってもらったクルーズ船でカモメに餌あげてただけなのに、俺だけ食べてもらえずカモメにも糞を落とされたわ…」



【ある意味"運"がついてよかったじゃないですか。ぷぷっ】




そんなたわいも無い話をしながら部屋を出て居間を目指す。

居間には既にリンとレイさんが居て、朝ご飯の準備をしていた。



「居候なのにすみません!手伝います」


「うふふ、嬉しいけどまずは顔を洗って来なさいな

よく寝れたみたいでよかったわぁ」



「アイダすごい頭してるよ!ツノウサギみたい!」


レイさんとリンに笑われて寝癖が凄いことに気づく。


おれは顔の体温が上昇するのを感じながら、洗面場をリンに教えてもらいタオルを借りてすぐに向かう。


家の裏庭にある井戸に着くと滑車を利用して水を汲み上げ、借りたタオルを水に浸してよく絞る。


「ふぅ〜気持ちいいな…」


寝癖を治し、顔や体を拭くと体だけでなく気持ちもスッキリしやる気が漲ってくる。



寝癖が治っている事を確認すると居間へと戻る。するといい匂いが立ち込め、テーブルの上には、パンの上に目玉焼きと何肉かは分からないが薄く切られたお肉が乗せられ既に準備は終わっているようだった。



「アイダさんもうできましたから椅子にかけて下さいな

みんなで食べましょう♪」


「何から何までありがとうございます」



「それじゃあ…

いただきます」



「パンもふわふわなのに香ばしくて、卵とお肉をより引きたてて美味しいです!」



「このパンおいしいよね!おばあちゃんはこの村でも一番パンを焼くのがうまいんだよ!」


「うふふ、年の功ですよ」



レイさんほど年の功という言葉が似合わない人はいないと思いながら、俺はあっという間に朝ごはんを食べ切ってしまった。



「アイダさんは今日の予定は特に決まって無いわよね?

よかったらリンに村を案内してもらって見て来て下さいな。あんまり大きな村じゃ無いけど自慢の村なの。

村のみんなにはリンを助けてくれた人間族の方がしばらく一緒に暮らすと昨日伝えておいたから心配入らないわ」


「おばあちゃんナイスアイディア!」


「お気遣いありがとうございます。俺も見て回りたかったのでありがたいです。リンもいいかな?」


「もっちろんよ!」



【マスターが迷子にならない様に私が見張っておきます】


「迷子っていくつだと思ってるんだよ…」





ご飯を食べ終えた俺とリンは早速リンの案内で村を回ることにした。


「アートちゃんのことは皆んなには秘密の方がいいんだよね?」


「そうだな。無理に伝える必要も無いだろうし、異世界人だとバレるきっかけになるかもしれないしな」


【話しかけても大声で返さないでくださいねマスター。範囲内であればどんなに小声でも私は聞き取れますので】


「了解した」




「そういえばこの村って名前が付いてたりするのか?」


「この村はフォクス村って名前だよ〜

まずはあたしの一番おすすめの場所から案内するね!」


リンはスキップでもしそうな雰囲気で先導してくれる。当然尻尾や耳も上機嫌に揺れている。



【…マスター。獣人族の尻尾や耳は家族や恋人以外には基本的に触らせない様ですよ。大人しく諦めて刑務所…は無さそうなので豚箱に入ってください】


「まだ何もしてないだろ!?しかもその豚箱はまじの豚小屋じゃねぇか」


【まだ…ね】


「うぐ…揚げ足取りやがって…】  



無駄話をしながらリンに着いていくと、一軒の古い家へと着いた。



「マーラおばあちゃん!遊びにきたよ〜」


と大きな声で叫びながら扉をノックして中に入る。俺も置いてかれないようにリンの後に続いて中に入る。


中は草の匂いや甘い匂い、薬品の匂いなど様々な匂いが混ざって独特な匂いをしていた。そして部屋の中は棚が複数あり、瓶の中にカラフルな色の水が入っていたり、乾燥した草や木、石のようなものなどが置かれている。


「おやまぁ、リンちゃん久しぶりだねぇ〜よく来たさね」


奥の部屋から出て来たのは杖をついた老婆の狐人族で、腰が曲がっており手や顔には皺が寄っている。



「マーラおばあちゃん久しぶり!昨日聞いてるかも知れないけど、人間族のお客さんが来たから連れて来たよ!」


「おやまぁ、アンタがリンを助けてくれたって言うアイダかね。話はハリマの小僧から聞いてるよ、よく来たさね」


「ハリマの小僧??」


「昨日門のところにブライドさんと一緒にいた弓を持ってた人だよ!」


「あぁ、あの人か」


そんな気はしていたが村のみんなには藍ではなくアイダで広まっているようだ。



「マーラおばあちゃんは村一番の薬師でいろんな病気や怪我をあっという間に治しちゃうんだよ!リンもよく怪我するからお世話になってるんだ〜」



「あたしゃにだって直せない怪我はいっぱいあるんだから、すぐに怪我をするんじゃないよまったく。心配するこっちの身にもなって欲しいもんさね」



リンはマーラさんに孫のように可愛がられているのが伝わってくる。



【マスター。薬も毒もこの先旅をするのであれば必須の知識になって来ます。可能であればマーラさんから詳しく聞いて下さい】



「マーラさん初めまして、棚に並べられているのが薬なんですか?」


「薬もあるし反対に毒もあるから無闇に触わるんじゃ無いよ。薬と毒は紙一重だからねぇ。毒も上手く使えば薬になるし、薬も過ぎれば毒になるさね」



「なるほど…

薬ってこの薬草?とかから作るんですか?」



「なんだいアンタ薬に興味があるのかい?最近の若者にしては珍しいねぇ」



「旅をしていく上でやっぱり大切だと思うので」


「ならあたしゃが教えてやろうかい?

リンを助けてもらったみたいだしね」



「いいんですか!?ぜひお願いします!」

 

「じゃあ、また後でうちに来るさね」


【マスターにしてはナイスでした】


まさか教えてもらえることになるとは思っていなかったが、アートの指示通り薬について知る機会が得られそうだ。

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