第10話リンの過去
リンを除き3人になった俺たちはワイングラスを片手に再びテーブルを囲み席に座る。
「少し前にブライドさんが狐人族って言ってましたが、この世界には他の種族もいっぱいいるんですか?」
「うむ、獣人族の中には猫人族や犬人族、虎人族、牛人族、鳥人族などの人数の多い部族に我らの様な少数部族の狸人族、象人族、狼人族など多くの種族がいる」
「そもそも、この世界にはアイダさんの様な見た目の人間族とそれ以外の亜人族がいるのよ〜
亜人族はブライドさんの言ってた獣人族の他に魚人族や森人族、魔人族、土人族など人間族以外をまとめて亜人族と呼ばれているのよ
もっとも、亜人族と呼ぶと怒る人たちもいるから気をつけた方がいいわね」
「そんなに多くの種族がいるんですね!
いつか会ってみたいな〜」
藍は今まで空想上の種族でしかなかった存在に会える可能性を前に年甲斐もなく興奮し目をキラキラと輝かせる。
「うむ、獣人族ならばこの森をずっと下った先の獣王国家レオグランドに行けば多くの種族に会えるぞ」
「獣王国家レオグランド…アートどうかな?」
【私はマスターと共にあります。マスターをこき使う…もといサポートするのが私の役目です。
それに大きな国に行けば、よりこの世界の情報を得られる可能性が高いかと】
「よし!当面の目標は獣王国家レオグランドだな」
【マスター。その前に今のままでは森を抜ける前にマスターが餌になります。まずは準備を整えるべきです】
「途中で見かけたあの巨体に大きな胸傷のあるトロールみたいなのに出会ったら一巻の終わりだしな…」
俺とアートとの話を聞いていた2人が胸傷のあるトロールの話になると息を飲み表情を固くした。
「どうか2人もどうかしたんですか?」
「「……」」
2人はお互い顔を見合わせてて何か迷っている様子だ。そして意を決した様にレイさんがゆっくりと口を開く。
「おそらくですが…アイダさんが出会ったトロールは大きな棍棒を持っていて右肩から脇腹まで焼けた様な大きな傷跡があるトロールではないかしら?」
「暗かったですがそうだと思います」
「そのトロールは私の息子夫婦、つまりリンの父と母の仇なのですよ…
もう7年前になります…」
そう言うとレイさんは昔を後悔とどこか懐かしむ様な雰囲気で話し始める。
「その日は今日の様なよく晴れた日でした…
私の息子ヴィルとその妻のルイは3人でリンの好物だったハニービーの蜂蜜を取りに行きました。
この森の魔物はツノウサギやキバネズミ、ハニービーなど危険性の高くない魔物ばかりで2人がいれば安全に帰って来れるはずでした。実際にそれまでは毎年何も問題はありませんでした。
しかしその日の夕方帰って来たのは身体中を擦りむきながら土埃などで汚れたリンだけでした」
「泣いているリンから何とか事情を聞いた私たちはすぐさま2人の捜索隊を編成して捜索を開始しましたわ」
「うむ、ここからは俺が話そう。訳あって村を離れられないレイさんの代わりに現場の指揮をとったのは我だからな。
その後我らはリンの話す場所に捜索に向かったが、激しい戦闘跡だけで2人は見つからず森の奥へと続いていた大きな足跡を追って行ったのだ。
我らも急いで追いかけたが2人を見つけた時にはもう手遅れであった…
そして2人の近くにはその巨大なトロールがおったのだ。
どうやら2人はリンの逃げた方向の村から少しでも離れた所へとトロールを引き離そうとして逃げながらも戦っておったようで、大きな傷を与えながらもその力に破れてしまったようだ」
「ここの村は魔物が近づけない様に私が微力ながら結界を張ってますが、トロールの様な力の強い魔物が相手では効力は弱く獲物を追っている状態では簡単に見つかってしまうのを2人も分かって村のみんなを守る為に戦ってくれたのよ。あの子は昔からみんなの事が大好きで正義感の強い子でしたから」
「そうだったんですね…」
【本にはトロールは再生力も高いと書いてありました。私達が見たトロールにあれほど大きな傷跡を残すのは2人が全力を尽くした証かと】
「ありがとうアートちゃん
お転婆なリンが迷子になるといつも見つけて助けてくれたのがヴィルだったから、種族も違うのにどこか雰囲気が似ているアイダさんが一緒に来てくれてリンも嬉しそうで本当にありがとうね」
少しだけ涙目を浮かべながらそう語るレイさんを見て、自分も息子と義娘を亡くして辛いはずなのにそれでも孫娘と村の為に涙を堪えながら前を向いている姿に、俺は少しでも力になりたいと心からそう思った。
【マスターと少しでも似ているとはヴィルさんに失礼になってしまいます】
「おい!どう言うことだよ」
少ししんみりとしてしまったが、アートのおかげでその後晩酌は笑いながらお開きとなりレイさんに案内された空き部屋を使わせてもらう。
服も息子さんが着ていたと言う服を借りて着替えてベットに横になる。
部屋はに月明かりが窓から差し込み、優しい夜風が肌を撫でる。
「なぁアート。おれまだこの世界のことも良く分からないし、魔物も居て命の危険もある。今日リンの両親の話を聞いてそんな世界でも生き抜いてやりたい事をやって、そして誰かを守れる様な強さを手に入れたいって思った」
【………】
「たぶん俺だけじゃ到底無理だと思う。だからさ頼むよアート。アートとならやれる気がするんだ」
【マスターの命令であれば仕方ありませんね。ですが、私がついているのですからマスターが目指す先は世界最強の俺tueeeですよ】
「ははは、それも良いかもしれないな」
【泣き言を言って逃げ出そうとしたら、全世界に全力でマスターの恥ずかしい裏歴史の数々を広めさせて頂きます】
「ほんと勘弁してください」
そうして俺はこれからしばらく生きる為の力を身につける事を誓った。
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