第9話 レイさんのシチュー

そうこうしているうちに奥の部屋からいい匂いが立ち込めてきて俺のお腹の虫が限界を突破しそうになる。



「リン〜アイダさん〜できたわよ〜」


レイさんがなにやら大きな鍋を抱えてこちらにやってくる。その鍋からは先ほどまで感じていた匂いよりも更に良い香りが立ち込めており、口の中が涎で溢れてくる。



「突然だったからこんなものしか作れなかったけど…」


そう言って蓋を開けると湯気と共にミルクのいい香りが部屋中に広がる。


「シチューですか!?」


「ええそうよぉ〜あと自家製の焼き立てパンがあるから一緒に食べてくださいね」



「シチュー大好物です!美味しそうすぎる!!ありがとうございます!!」


おれは、異世界で初めてのちゃんとした料理でまさかの大好物についテンションが上がる。それに…


【それに…こんな美女の手料理が食べれるなんて…!】


「おいやめろアート。心を読むな」

俺にだけ聞こえる様にわざと話しかけてくるアートに小声で返す。




「我もジャーキーと酒を持ってきたぞ!」


レイさんがパンを持ってシチューをお皿にみんなの分をよそい終わるとほぼ同時に扉からブライドさんが入ってきた。その手にはツマミになりそうなジャーキーと小さな樽を抱えていた。




ブライドさんが持ってきた木樽に入っていたのはワインの様だ。



「リンは来年からだな!」

そう言うと俺とレイさん、自分のグラスに樽からグラスに注ぐ。


「こちらの世界は何歳から飲めるんですか?」


「17歳だから私は来年からってこと!

1年くら多めに見てもいいじゃない」


「ガハハ、そうはいかないぞ〜?」



「リンは16歳だったんだな」


「そう言うアイダは何歳なの?」


「俺は27歳だよ。地球では1年は12ヶ月で1月は365日だったんですが、こちらはどうなんですか?」


「アイダさんは27歳だったんですね

もっと若いかと思っていましたわぁ〜

こちらも1年は同じくですわ」



【マスターはこちらの世界に来てから前の世界よりも生き生きして隈も減って若返って見えるんですね】



「生き生きってか、命のやり取りをしている感じはするな…それに元々髭が薄くて揶揄われてたからワイルド系に昔は憧れてたな…」




ぎゅるるる〜



藍のお腹がもう待たせるなと大きな音でみんなに伝えた。



「す、すみません。いい匂いすぎて…」



「うふふ

さぁ覚めないうちに食べてくださいな

それじゃあリンの無事とアイダさんの歓迎に乾杯〜」



「「「乾杯〜」」」



「いただきます!」


俺は待ちきれずシチューを一口食べる。


「ハフハフ とても美味しいです!」


熱々のシチューにはごろごろと大きな野菜が入っており、アイダの森の散策の疲れをレイさんが労るかの様な優しい味だった。一口食べれば次々とかき込んでしまい気づけばパンを食べずに一皿食べ切ってしまう。



「あらあら〜そんなに喜んで頂けて嬉しいですわぁ〜お代わりならいっぱいあるから好きなだけ食べてくださいな」


「お代わり下さい!」


日本人の遠慮などこのシチューの前では紙切れ同然である。

レイさんにお代わりをよそって貰うと、今度はパンを齧る。



「硬い!?」


パンは歯が欠けそうになるくらい硬かった。



「ガハハ!アイダこのパンはシチューに浸して柔らかくして食べるパンだぞ」


そういうと目の前でブライドはシチューにパンを浸してから食べ満足そうな顔を浮かべる。



俺もそれを真似して今度はパンをシチューに浸してシチューをパンが吸ったところでパンを齧る。


「うまい!!パンの香ばしさとシチューの甘優しいさがよくあって染み込んだパンがしっとりとして美味しいですレイさん!」



「お口にあった様で良かったわぁ〜」



それから俺はシチューをもう一度お代わりし、リンとブライドさんも俺に釣られる様にレイさんにお代わりを要求していた。



「うむ、アイダこのワインとジャーキーもよく合うから食べてみてくれ」



そう言われて俺はジャーキーを一口齧る。

少し強めの塩っ気と噛みごたえのある歯応えにかんでいく程に少しずつ滲み出てくる肉の旨みが口に広がる。口に入れた時には少し強いと感じていた塩っ気もむしろいいアクセントとなり、ついワインへと手が伸びる。


そしてワインも俺は正直日本でワインをあまり飲んでこなかったので良し悪し判別に自信がないが、口に含む前から香るブドウの芳醇な香りに渋みと深い甘みが両立し地球でも高級なワインになるのではないかと感じる。



「ジャーキーもワインもついつい手が止まらないくらい美味しいです!」


「ふぅ〜お腹いっぱいです

ほんとにご馳走様でした」



「ご馳走様!」

「お粗末さまですわ」

「ご馳走になった」


しばらくしてお腹を摩りながら俺が言うと3人も待ってくれていた様でそれぞれ食事を終える。





「リン、もう遅くなって来ているから体を拭いて今日は早く寝なさいな

もう森に1人で行っては行けませんよ」


「うん、気をつけるよおばあちゃん!おやすみ!」



食器を片付けるレイさんを俺とブライドさんも手伝い、テーブルにはワインとジャーキーだけを残して全て片付ける。

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