第8話 異世界人の告白

「それでアイダはなんであんな森の中にいたの?」


「…」




「アートどう答えるべきだと思う?」


【先ほど読んだ本の中に過去に時折異世界からの来客者が来ることがあるとの記載もありましたが、おそらくその希少性は高く最悪の場合飼い殺しにされる可能性もあるかと。】


「飼い殺しは嫌すぎるな…」



【ですが、マスターのスーツ姿といい、スマホや突然話し始めた事など不審な点も多く、嘘をついてもバレる可能性も高いと推測します。】


【3人に本当のことを打ち明けて協力して頂くと言う手段はデメリットもありますが、これから異世界で生きて行く上でメリットもかなり大きいかと。】



「リンにレイさんにブライドさんも会ったばかりだけど、悪い人には見えないし3人には打ち明けて協力してもらう方向にしよう」



リンの問いに聞こえない様に素早くアートと相談して今後の方針を決めた。




「信じてもらえるか分からないんだけど、簡単にまとめると実は…日本っていう国から来たんだけど、みんなから見たら違う世界の地球ってところに住んでいたんだ。自分でもなんでこっちに来たのか分からないんだ。気づいたら森の中で目が覚めて、訳がわからないままツノの生えたウサギやゴブリンに遇しながらもなんとか人里を目指して彷徨ってる時にリンがゴブリンに囲まれていたのを見つけたんだ」


俺は簡単に違う世界の住人であることと、こちらにきてからの経緯を話した。



3人は最初は目を点にしながら驚いていたが、魔物との戦いの話になると揃って心配そうな表情になり、リンとの出会いになるとリンはバツが悪そうな顔をして残りの2人はリンに怒るべきだと言う思いと心配な思いが混ざって複雑な表情をしていた。



「急に1人でこちらにやってきて心細かったでしょう…それなのに見ず知らずのリンを助けてくれて改めて本当にありがとう」


レイさんはそう言うと俺のことをギュッと抱きしめて子供にするように背中をポンポンと叩きながら受け止めてくれた。



俺は突然のことに驚き戸惑ったが、知らない世界で1人で急にあなたのやり取りをするという不安感から開放され、安堵から目に涙が滲んでくる。



「アイダありがとう!」

「何かわからない事があれば我を頼れ」


そう言いながらリンも藍の背中側から抱きつき、ブライドは藍の頭をわしゃわしゃと撫でた。



【今だけは泣きながらも鼻の下を伸ばしているのを許してあげますね】


心なしかアートも普段よりは優しい気がした。いや、やっぱり気のせいかも知れん。







涙が引いてきた頃、3人に慰められているのがなんだか気恥ずかしくなってきて藍の方からもう大丈夫だと伝える。


レイさんはかなり残念そうな顔をしていたが、なんとか離してくれた。



「俄には信じられない話だと思いますが、この服や、カバン、先ほどまでは言葉すら分からなかったのが急にわかる様になったのも俺が異世界から来たという証拠になるかと思います」


もっとも、アートの存在は藍自身もよく分かっていないのが本音だが…




「アート皆んなにもこの念話を聞こえる様にできるか?」


【はいマスター。先ほど皆さんがマスターに触れた際に魔力波は解析済みですので可能です】


「じゃあ頼む」


【承知しました。】


突然1人で会話し出した俺のことを不思議そうな顔で3人が見つめる。





【初めまして皆さん。アイダこと藍をサポートしていますアートと申します。以後お見知り置きを】


「「「!!!」」」


突然体に直接話しかけられてびっくりする3人



「あ〜皆さんこれが俺が急にこちらの言葉を話せる様になった原因です。このスマホっていう板の中に入っているアートって言うのが翻訳してくれているんです。アートは魔力の波?を判別することで直接話しかける事ができるんですよ」



【原因とはなんですかマスター。まるで悪いことをしている様なので訂正を求めます。さもなくば…皆さんに俺の異世界最強計画を…】



「ストップ。俺が悪うございましたアート様」




突然体に直接話しかけられ驚いていると、2人で何やらよく分からないが丸め込まれているアイダを見て2人の関係性を早くも何となく察してしまう3人だった。



「ともかく、このアートのお陰で全く知らない異世界でも何とか生き延びる事ができたんです。それにリンを見つけたのもアートなんですよ」



「じゃあアート先輩も命の恩人って事ですね!」


「アートちゃんありがとう」

「うむ、助かった」



リン、レイさん、ブライドさんの順に話す。

リンはどうやら俺とアートとの先ほどのやり取りでアート先輩と呼ぶことにした様だ。懸命な判断だと言わざる負えないな…




【いえ、当然のことですので】

どこか満更でもなさそうに答えるアート。



「それで皆さんにできればこの世界のことを色々教えて欲しくて…」



「もちろんだよ!」



「異世界から来たなら住む家もないでしょう?暫くはここに泊まりなさいなアイダさん」



「そんな急にいいんですか!?」



「大丈夫ですよ、こう見えて私族長ですので♫それに部屋なら余っていますし男手も欲しかったところなのよ〜」


「え!族長だったんですか!?」



「ほらこの村だと今は私だけ毛並みの色が銀色っぽいでしょう?

これは銀獣化と言って他の狐人族よりも魔力が高くて凄い証なのよぉ〜」

 


「美しいだけじゃなくてレイさんは強いんですね」


「うふふ〜美しいだなんてぇ〜」


そう言うレイさんの耳と尻尾が嬉しそうに動いており、目が離せなくなる。




「うむ、我も時々様子を見に来るとしよう。

だがアイダが異世界からやってきたという話は我ら以外にはあまり話さない方がいいと思うぞ。我ら狐人族は皆いい者達ばかりだが、余計な不安は増やさない方がいいからな。無論アート殿のことも含めてない」


ブライドさんの言葉でおれは現実に引き戻される。




【ブライドの言う通りですよマスター。すぐにバレる様な行動は控えてくださいね。あと鼻の下も伸ばさないように】



「はい…気をつけます」


「あはは」

「うふふ」

「ワハハ」



3人に笑われながらも、レイさんのご好意で当面の宿として一部屋貸していただけることになり野宿生活から一転、美女と美少女との一つ屋根の下生活にまた違う緊張をしてくるのであった。




【…マスター私もいますよ】


「心まで読めるのか!?」


【顔に出過ぎですマスター】








ぎゅるるる〜


俺のお腹の虫が突然大きな音を立てて存在感をアピールしだす。



「あらあら、積もる話もあると思いますがまずは腹ごしらえしないとですわね〜

お夕飯を作ってくるからちょっと待ってて下さいね♪

ブライドさんもぜひ食べて行って下さいな」



「うむご好意に遠慮なく預かろう。では私はこの前仕留めた獲物の肉で作ったジャーキーを持ってきますぞ」


そう言うとレイさんとブライドさんの2人はそれぞれ別の方へと歩き出し、居間にリンと2人残される。





「そういえば、リンは何であんな森の辺りに居たんだ?」



「あ〜実はね…ハニービーの蜜を採りに行ってたんだ〜

パパとママも好物だったからどうしても採りに行ってあげたくてね…もうすぐ2人の命日だから

おばあちゃんからは1人で森に入るなってうるさく言われてたんだけど」



「そうだったのか…辛いことを思い出させて済まなかった!

やっぱりリンは優しい子だな」



耳も尻尾も垂れてしゅんとしているリンを見て俺は何だか元気づけたくてその頭をブライドさんが俺にしてくれた様にクシャクシャと撫でていた。



「アイダ…?」



「俺はリンの両親に会ったことはないけれど、リンの両親ならリンが元気でいるのが一番嬉しいと思うぞ。それにその気持ちだけでも両親は大満足だと思うが、それでもって言うならリンが幸せいっぱいの顔をしてお墓参りに行っていっぱいお話を聞かせてあげるのがいいよ」




「うん…ありがとうアイダ」


涙を袖で拭きにぱっと笑顔を向けてくるリンに藍も満足げな顔でサムズアップする。

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