第5話 ステイタス

「ふぅ…本当に危なかった…

色々言いたいこともあるがありがとうなアート」


【お疲れ様でしたマスター。反省会をしますと言いたいところですが、魔石だけ回収して今は群れに気づかれないうちに川沿いに戻るべきかと】


「そうだな…」


未だに痛む体に鞭打ちながら素早く心臓のあたりにハサミを差し込み魔石をとりだすと、川沿いの見晴らしの良い場所まで避難する。



「結局野宿になってしまったな〜

それにお腹減ったな…」


川までたどり着いた藍は小さな切り傷が膿んでしまわないようにしっかりと洗い流しながらそんなことを考えてしまう。



川から上がって教えてもらった方法で火をつけ焚き火に当たる。


【マスター先ほど手に入れた魔石をスマホに近づけてもらえませんか?】


「そういえば魔石を取り込めるんだったな」


恐る恐る魔石をスマホに近づけていくと一瞬でスマホに向かって取り込まれていく。



………

魔石の取り込みを確認

魔力を抽出します

一部リンク者に還元します

………

2種類の魔石の取り込みに成功

ステイタスボート機能の凍結を解除します

………

完了

………


【…どうやら私からマスターのステイタスというものが使えるようになったみたいです。表示します】


そういうとスマホにステイタス画面が表示される



name:戸田藍

職業:"アート"のマスター

HP:8/20

魔力:12/12

筋力:6

器用:12

スキル:"アート"



「これだけ?ってか"アート"のマスターって職業なのかよ

この数値がどれくらいなのかは分からないけど高く無いであろうことは分かるな」



【"アート"の下僕じゃなかったんですね。】



「いつもマスターって呼んでくれてるよね?

普段から本当は下僕だと思ってたの!?」



【ノーコメントで】




「くそぅ…それに筋力6って器用の半分しかないのかよ。俺ってそんなにヒョロヒョロだったのか…

数字で現実を突きつけられると少し凹むな…」



【マスターはもやしですからね。これからは部屋に引きこもっていないで毎日筋トレをする事をお勧めします】



「好きで会社に引きこもってたわけじゃないし、今の状況じゃ引きこもりたくても引きこもれないな」



「というかさっきのゴブリン戦のせいでHPが残り8しかないのか

かなりギリギリだったんだな」



【このHPは0になったら絶命ではなく、死ぬ一歩手前の様です。いわゆる瀕死ですね。そのままだあれば間違いなく終いなのでくれぐれも気をつけてくださいマスター】



「そうならない様にアートもサポート頼むよ」


【しかたないマスターですね】


【そんなマスターに早速朗報です。川から取り残された水たまりに魚が数匹取り残されている様です。あれならマスターでも取れそうですよ】



「おぉ!お腹ぺこぺこだからありがたい!」



水溜りにはやる気持ちを抑えながら近づくと鮎の様なサイズの魚が4匹取り残されて泳いでいた。



苦戦しながらも何とか4匹とも魚を捕獲に成功し焚き火で焼いていく。


「よしよし、異世界のウサギも美味かったが魚はどうかな?」


「うまっ!?塩がないのが残念だが身が引き締まっているのに噛むとホロホロになってしっかり脂ものっている!」


「異世界の具材はどれも美味いのか!?」



【最近のマスターの食事はチョコバー齧りながら仕事していましたからね】



「だから何で知ってるんだよ…」


【それは監視カメラをハッキン…マスターの友達から教えて貰いました」


「おい!友達から聞いたとか分かりやすい嘘つくなよ!」


【マスターは27歳になってもプライベートまで仲の良い友人なんていませんもんね】


「うぐ…

この話はやめておこうか」


【マスターには私が憑いてますから大丈夫ですよ】



「今ついてるって字が違くなかったか!?」


アートの言葉に少し本気で恐怖を感じ背筋をブルブルさせる藍であった。


そして夜は更けていく。





【マ、マスター!!】


「どうした?」



【すぐにここを離れて隠れてください!!かなり巨大な反応がこちらに向かっています!!急いで!】



すぐに火を消して焚き火のそばから離れて木々の茂みと岩の間に身を隠して息を潜める。


しばらくするとドシッドシッという足音とその音だけで巨大な生物がやってきた事が伝わってくる。その生物は先ほどまで藍が焚き火をしていた辺りにやってきた頃、月明かりが雲の間から顔を出してその全容を照らし出す。


照らし出された体躯は8m以上はありそうで、ブヨブヨした皮膚に腰巻きを巻き、木でできた巨大な棍棒を持って歩いている。

そして何より目を引くのが右肩から左の腰へと続く大きな傷跡であった。


【物語でよく出てくるトロールと言われる巨人に似ていますね…。あまり感知能力が高くないのか気付いていない様なのでこのままやり過ごすことを提案します】



アートの言う通りに必死に息を潜めて隠れるが、離れていても感じる圧倒的なプレッシャーに、全身から冷や汗が噴き出てくる。その棍棒の一振りと言わず、ただ道端の石ころの様に踏まれただけで全身の骨が簡単に砕けてしまいそうだ。



暫くするとトロールは藍のある方向とは別の方へとドシドシと歩いて行った。



【周囲はには移動物の反応は無くなりました。もう大丈夫ですマスター】



「あんな巨大なやつに正面から出会ったら一巻の終わりだな…ありがとうアート」


今まで魔物と遭遇しても何とか生き抜くことができていたが、改めて異世界の厳しさを肌で実感することになった。



今日の移動は諦め、生い茂る草を引き抜いて簡易のベットを作りその上に身を投げる。

ゴブリンとの戦闘に加えトロールとの遭遇で流石に体も精神も疲れていたのか、アートに「何かあったら起こしてくれ」とだけ伝えてすぐにぐっすりと眠りについてしまう。

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