第2話 "アート"と初戦闘

チュンチュン

小鳥の囀りと木々の隙間から光が差し込んでいる。



「んん〜ふぁ〜もう朝か〜」



「ん?ここは…どこ??

ってあぁぁあああ!俺って確か電車に…」



「なんで生きてるんだ?というかマジでここどこだよ!?」



辺りを見渡すとどうやら森の中のようだ。それも木々の大きさや苔のつき方から相当古くからある森だということが伺える。



「全く理解はできないがとりあえずは現状確認だな

スーツケースの中にはっと、飲みかけの水のペットボトルに俺の主食のチョコバーが3本、眠気覚ましの板のチューイングガムに、あとは最低限の筆記用具にハサミとライトくらいか。後はポケットにスマホか」



「スマホはやっぱ圏外かよ…」



残念ながらインターネットに繋がらずほとんどの機能が使えないスマホを仕方なく胸ポケットにしまう。




「とりあえず辺りを散策してみるしかないな。

まぁなんとかなるよな…?あの1ヶ月以上会社に泊まり込み&ハゲ社長の小言を毎日聞くデスマーチに比べたらなんでもいける気がする!」




藍のストレス耐性はメーターを振り切ってバグってしまっているようだ。



辺りを見渡しながら歩くことしばし、周りは特に大きな変化のない森の中であった。



「ちゃんと進んでるんだろうな?

そういえばせっかくチャットロボット作ったのに稼働もみんなにお披露目もできず終いか…

こんな時"アート”があればな〜…」




【ピコン】


「!!え!?」


辺りに似つかわしくない急な機械音に体をビクつかせる藍


「さっきの音はたぶんスマホからだよな?」



スマホを取り出し画面を見てみるとそこには


【お呼びですかご主人様】

【ご用件をお伺いします】

と見覚えのあるチャット画面が表示されていた。



「これって俺が作った"アート”のチャット画面と同じだよな。なぜ俺の携帯に入ってるんだ?それにまだ正式稼働もしてないのに」




【ピコン】

【ご用件がないなら無駄に呼ばないでください】



「なにこれ。俺こんな性格に設定してないぞ。誰だよ作ったやつ。絶対性格悪いだろ出てこいや!

なんでAIチャットにまで怒られなきゃいけないんだよ」



【ピコン ピコン】

【作ったのはあなたでは?やっぱり性格が悪いのを自分でも気づいていらしたのですね!ぷぷぷっ】



【それに私はあなたからも学習していますので似てしまうのも当然かと】



「え?まじで?」


【ピコン】

【マジです】




まさかのAIからの罵倒を受けて一技術者として嬉しいような複雑な気持ちになる藍であった。






【ピコン】

【それよりもマスターこんなことをしてる場合じゃ無いのでは?】



「は!?そうだった! 全くどこかわからないしどこに向かえばいいかも分からないんだった!」



【ピコン】

【周囲の状況と私の知識よりここが地球では無いと推測されます。

おそらくマスターは異世界転移したのでは無いかと。】




「異世界転移!?異世界ってあの異世界!?

じゃあ学生の頃夢見てた剣と魔法にチートもあり得るのか!!」


「思い出せ中2病時代の俺を…!

ファイヤーボール!

ウインドブラスト!

カメ○メハ〜!

邪王炎○黒龍波

俺の右手がうず……かないな///」



【ピコン】

【………】



右手を突き出して大声で叫ぶものの何も起きないどころか、無性に恥ずかしくなってくる。



【ピコン】

【ワワースゴイ、スゴイ。カッコイイデス。】



「や、やめてくれ///」

「中2の頃の本気でファイヤーボールを出そうとしてるのを幼馴染に見られて無言で扉を閉められた時くらい恥ずかしい」



【ピコン】

【さすがマスター。並の精神の者では2度と学校にはいけてませんね!】



「追い討ちをかけるのはやめてください…涙」



「てかなんで異世界って分かったの?」



【ピコン】

【地球にあんなに大きな木があるとお思いですか?

それにほら、遠くにツノの生えたうさぎがいますし、あんな生物地球では報告されていません。】



「たしかにあんなに馬鹿でかい木があったら噂くらい聞いたことあるよな〜」



遠くの方にはスカイツリーを有に超えるような大きさの巨大木が聳え立ち神々しさすら感じさせる。



【ピコン】

【それよりマスター。ツノうさぎがすごい形相でこちらに向かってきてますよ】



「おいおい!もっと早く言ってくれよ!

ウサちゃんのくせに怖すぎるだろ!?

それになんか涎垂らしてこっち見てないか!


ウサギって草食動物のはずだろぉおお!」



【ピコン】

【教えてあげたのを感謝して欲しいくらいなのですが。】



どんどん迫ってくるツノウサギ。



「キュキュウ!!」

ダンッ



普段から飛び跳ねているその後ろ足が地面を蹴り上げる音が藍まで聞こえてくる。



「ッツ!」

咄嗟に右手で持っていたスーツケースで横からウサギを殴りつけて防ぐ。



「キュゥ〜」



「なんで肉食獣の顔してるくせに声が可愛いんだよぉお!?」



藍は背中を向けて走って逃げ出す。



【ピコン】

【意外と余裕ありますねマスター。】



「こちとら小さい頃から爺ちゃんに連れられて山籠りさせられて熊にも出会ってるからな!?」



「キュウキュウ」



ツノウサギはその鋭い角を主張させながら今もなお、餌と狙いを定めている藍の背中を追いかける。



「くそっ

いつまで追いかけてくるつもりだよ!?

しかもなんであんなに早いんだよ!」



【ピコン】

【最近会社に篭りっきりの引きこもりだったマスターが遅いのでは?】



通知音が鳴るも次第にスマホを見ている余裕が無くなってくる。



「ハァ…ハァ…」



「キュ〜ウッ!」


【ビー、ビー、ビー】

【よ・け・て!】



「ッツ!」

ウサギの鋭い角がが藍の背中を捉える直前

スマホから警戒音が発せられ、咄嗟に前に倒れ込む。


ドンッ



「イテテ…あれ?」


起き上がってみるとそこには木に角が刺さって動きの取れなくなったウサギの姿がある。



カーン!藍の中でコングが鳴り響く。

逆転のコングであった。



「ふっふっふ〜

さっきはよくも追いかけてくれたな!?

今日のご飯は君にき・め・た!」



「き、きゅぅ〜」


「急に可愛い顔をしてもダ・メ」



近くから手頃な大きさの石を手に取るとウサギに向かって振り下ろす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る