第6話
とりあえずあたりを歩いてみることにした。
普段、舗装された道路を歩いている人間からすると森の中を歩くのはとても大変なもので地面が平らでなく足元を注視して歩くのだが、それでは低い枝にぶつかる。
ただ、上だけ見てても、落ち葉に隠れたくぼみの所を踏み抜くと態勢を崩してしまう。
「こんなところ歩いた経験ないからなあ、せめて靴だけでも変えてほしかったな。」
工場の靴と言ったら安全靴である。
甲からつま先にかけて鉄の板が仕込まれており、重いものを足に落としたとしても直接足には当たらない構造になっている。
加えて普通の靴であれば高温物と接触すれば燃えてしまうところ、難燃性の素材を使用しているため燃えにくいものである。
ただ、鉄が仕込まれているため少し重い、なんなら製錬所で使用される安全靴はくるぶしまでおおわれている形のハイカットのものが主流であり、工場で身を守るには最適ではあるが、森の中をハイキングするにはとても歩きにくいものだった。
15分ほどまっすぐ森の中を歩いてみた。すると、意外と早く森が途切れている部分にたどり着いた。ただ、森の先はほぼ直角の崖になっており登れる状態ではなかった。
「意外とすぐ森をぬけれたな、もしかしたら木が高いところで生い茂っているから遠くが見渡せないせいで山が見えていないのかもしれない。」
せっかく森の切れ間まで来たので森に沿って歩いてみることにする。
するとなんだかどこまでも円弧を書いて曲がっていることに気が付いた。
反対方向を向いても同じである。ただし、円弧を描いている方向が逆になる。
「この崖、今いる部分がえぐれているのか?」
とりあえず歩き続けてみると10分歩いても15分歩いても景色が変わらない。
ずっと崖の円弧に沿って森が続いているだけであった。
「いやいや、おかしいでしょどこまで行っても崖が切れないんだけれど・・・
もしかしてこの森ってこの崖にかこまれているのか?」
そう思うと、木に登りたくなってくる。ただし、ここらの木はだいぶ高いところまで枝を伸ばしており到底木登りの経験がないものが登れる高さではなかった。
木登りはあきらめてひたすら歩き続けることに専念すると、なんと、1時間以上歩いているのに景色が変わらなかった。
「んーどこまで行っても同じ景色で飽きてきたな。」
「大きさはわからないけれど絶対これぐるっと回っているでしょ」
そんなこんなで歩き疲れたため木に寄りかかって休憩していると再度電話がなった。
「もしもし」
「もしもし、どうもお世話になります、渡会です。その後どうですか?何かわかりました?」
「とりあえず森の中を歩いてみたんだがどこまで行っても崖があって行き止まりになっているんだ、高さは3階建てのびるくらいはあるかな、だから全然登れないしで手詰まりってとこだな」
「なるほど、崖ですか、どのくらい歩いたかわかります?」
「1~2時間歩いたから10 km くらいは歩いているんじゃないかな」
「では、結構長いこと続く崖なんですね、そんなところあったかなあ。そして相変わらず高い山は見えないんですよね?」
「そうだな、崖の外が見えそうなもんだが何も見えないな。反対側を見たとしても木が邪魔で見通しがきかない。」
「そうですか、それにしてもな気はするんですよね。もしかして私が想像しているところじゃない?のかもしれません。」
「そうなのか?とりあえず渡会さんと話ができているから冷静にいられるが、一人だったら発狂物だったかもしれないな」
「そうですよね、こちらも1週間なにも音沙汰がなかったのでどうなったか心配で連絡してみました。」
「え、なんだって?!1週間とは何の話だ?」
「前回十五坂さんに連絡してから1週間という話です。山を探してくださいとは言いましたがさすがに全然連絡がないのでどうしちゃったのかと思いましたよ。電話がつながってよかったです。」
「ちょっと待ってくれ、こっちはさっき渡会さんから電話が来てそれから2時間立ったという意味だぞ?
「え、そんな馬鹿な、先週の水曜日に電話してからこちらでは1週間経過しておりますが・・・。。。
そうか、やっぱりあの世界にいることは間違いないのか。」
「どういうことなんだ、なんで1週間なんて時間がたって・・・」
「十五坂さん、どこにいらっしゃるのかだんだんわかってきました。あなたがいる世界についてお話しましょう。」
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