第3話

森である。周囲に見えるのは木や草ばかりであり、鳥のさえずりが遠くに聞こえることから何らかの生き物がいることは確認できる。

「なんだあの鳥、よくばあちゃんちに昼寝してると聞こえてくる鳥の鳴き声に似てるな。意外と異世界とかではないのか?」


「とりあえず歩いてみますか、俺も異世界物はたくさん読んできているからお決まりは食料調達だろう、とその前に。」


「ステータスオープン!!」


吉野の声はむなしく森の中にこだましていった。


「おほん、うんまあそうだよな、大体の異世界物と言ったらゲームみたいな世界になるんじゃないかと思ったからね。出ないのね・・・」


「むしろ出てくれるほうが話が早かったんだけれどな。」


「じゃあ次、鑑定!!!」


道端の草に向けて思いっきり叫んでみたが、草は風に揺れているだけで特に何も起こらなかった。


「おほん、おほん。うん、これもないと。そうかあ、鑑定とかステータスとかありがちだと思うんだけれどなあ。」


「なんか持ってないかな。」


服をあさってみる、といっても工場で働いているところからここに来たわけで来ているものといえばいつもの仕事着、そして感触からわかる通りヘルメットと軍手である。ポケットにはいつも名刺入れとメモ帳、そして会社携帯を入れていたのでそのあたりが出てきた。とりあえず携帯の電源はついたがもちろん圏外だ。


「まあ、そうだよな、たまにここで携帯だけつながる展開があるんだけれど。そういうことでもないみたい」


ただここで携帯が鳴った。


「え、圏外だったよな、今、携帯が鳴った?」

ポケットに入っていた携帯を見るとなんと会社からメールが来ていた。


「げ、なんで会社からのメールは届くんだよ。」


上司からのメールでが届いていた、本日炉のトラブルが発生しその収拾にあたっていた職員が熱中症で緊急搬送したとのこと。


「まあ、そうだよな、今日の炉の調子はなんかおかしかったし倒れる奴が出てきてもおかしくない。」


メールを読み進めていると被害者の名前と欄に「十五坂吉野」と出ていた。


「え、おれ?俺の名前がなんで?、確かにあの時めまいがしたが、熱中症だったのか」


他人事である。めまいがしてから気が付くと見知らぬ森の中にいたのだからそりゃあそうなのかもしれないけれど。


「というか、その後どうなったんだ?メールだと病院に運ばれたことになっているが・・・」


「もしかしておれ熱中症で死んだのか」


なんとも情けない話である。いや、それほど近年の地球温暖化の影響は大きくいつもと違う状況を感じ取れずにこうして死んでしまった人がおかしくないのが今の現状なのかもしれない。


「そうかあ、熱中症でかあ、斬新だな」

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