第2話

「あー今年も川ができちまったなあ、いつもながら向こうにはおいしそうな野菜がたくさんなってる。。。」

川ができてから数か月、ガイチ集落のものが丘を越えて耕した畑はたくさんの実りを付けていた。川の向こうでは天狗が物欲しそうに畑のほうを見ていた。


「いいなあー毎年ここでこうしてみているがあそこの畑は本当に良い野菜を育てる。

久しぶりに食べたいものだ」

「川ができることで雪の季節ほど飲み水に苦労はしないものの、毎回水汲みに来るたびにあれを見せられるのは胃袋にくる。」


ガイチ集落の伝承に出てくる通称「天狗」、昔は外から来た人をそういう呼んだり、山の中で修業をする修験者がそう呼ばれたりすることがあった。

ただし、これはあくまでガイチ集落に伝わるだけの話である。実際のところは一人の人間が暮らしていた。人間かどうかは怪しい限りだが・・・。


「昔の記憶ではあの野菜はツルムラサキという野菜だと思うんだよなあ、うん、ばあちゃんちの畑で取れたのを覚えてる。まあ、川岸に見ているからあんまり定かではないんだが。」

「どうにかたしかめられないかなあ・・・。」


男の名前は十五坂吉野(じゅうござかよしの)いわゆる普通の日本人である。

身長も体重も平均的、年のころは30すぎ。しがないメーカーの技術系職員であった。

吉野の働く職場は炉を使用して鉱石からメタルを製錬し鋳造する工場でありいつも炉の管理をしていたのだが、地球温暖化のせいだろうか、それとも新入社員がバーナーの出力を間違えたせいであろうか。その日は炉の温度が特段熱く、メンテナンスするために炉の周りをうろうろしていたところ、目の前がくらくらし、気づいたら森の中に倒れていた。


「は?え?木?俺はさっきまで炉の横にいたと思ったんだが・・・」

起き上がり周りを見渡してみると鬱蒼とした森が広がっていた。どうやら工場ではない場所にいるらしい。


「え?嘘だろ?もしかして夢か?寝てる?」

「ええーーーどうやったら覚めるかな、でも夢にしてはやけにはっきりしてるんだよな」

「もしかして異世界転生とかいうやつか・・・それともテレビのドッキリ企画とか・・・」

「いや、いっぱしのサラリーマンを捕まえてそんな企画をしてもただの誘拐騒動にしかならないよな。」

「とりあえずは状況を確認するか。」



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