山奥の修練者

@Noborifuji

第1話

雪解けの季節、山中の川は解けた雪を収集し大きな流れを産み出す。そして雪が降り積もる季節に冬眠していた生き物たちへ飲み水として供給される。


ここ、ト月連山も同様である。ト月連山は大小14の山から構成され、山のふもとは深い森が広がり、頂にいくにつれ地肌が見える様相だ。


そのため、山を見上げた時に地肌が見え始めると周辺に住む者たちは、今年も川ができたことを知り農作業の準備を始めるのである。


「じいちゃん、ト月さんが茶色になってきたね。」

「そうだな、そろそろ農作業の準備をするか。」


「楽しみだなあ、今年もムラサキたくさん食べたい!」

「お前は本当にムラサキがすきだな、でもあれは夏に収穫するやさいだから食べられるのはまだまだ先だぞ」

「ええーそうなの、全然気にしてなかった・・・」


「ねえじいちゃん、春ごろにムラサキの種を植えて夏頃にならないと食べられないんだったらさ、もっと先に植えたら早くたべられるんじゃない?どうして川ができてからじゃないといけないの?」


「そりゃあお前、川の水が必要だからに決まっておろう。お前もいい年だし話してやろう。実は畑に行くときに山を一つ越えるだろう?」

「うん、山といっても丘みたいなものだけれどね。」

「そう、あの丘が問題なんじゃ。見ての通り、村の地形は斜面に形成されておる。そのため、畑を耕すのは平地がないため大変なんじゃ。加えてあの丘、丘の向こうに行かないと川がない、また丘のせいでこちら側の斜面に水を引くことができないんじゃよ。わかるかい。」


「んーなんとなくかなあ、じゃあさ、丘の上に水をためる池みたいなものを掘ればいんじゃない?」

「ご先祖様の代に掘ったことがあったそうだが、大雨になると池の水があふれてきて村を襲うことになったそうでそれ以来、池は掘らないことになったんじゃ」

「なんだやったことあったんだ、じゃあしょうがないね。」


「実はな、あともう一つあるんじゃ」

「もうひとつ?」

「川ができた時に何か感じんかったか?」

「そういえば、あの川って相当大きいよね、向こう岸にわたるにはとても大きな橋が必要だと思う。そもそも向こうに行ったことないけれどさ」

「そう、そこなんじゃ、あの川の向こうには天狗が出るといううわさがあっての」

「天狗~?ほんとうに?」

「まあ、向こう岸にわたったことのあるものなどおらんからな、本当のことはわからん。ただし、雪解け水が流れてきて川幅が大きくなった時でないと、天狗がこちら側に侵入しかねないからこの時期から出ないと農業ができないんじゃ。」

「そうなんだ、あれ?でも雪の季節に天狗はどうしてこちら側に来ないの?」

「それはそうじゃ、天狗が狙うのはあくまで作物、雪の季節は作物を作っておらんからの。それにあの丘があるおかげで雪の壁がとても高くなる。さすがにこちら側に来るのも大変なんじゃ」

「天狗って言われている割にはひ弱なんだね。」



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