8 緋莉
「
「だろ、あたしが言ったじゃん。」
「顔の良い双子で緋莉ちゃんもいい具合に産んだな。」
「まあな、黒高が兄で白高が弟だよ。」
「でも双子だから兄とか弟とか関係ないだろ。」
「んなことない、黒高の方がしっかりしてるからな。
あっちの方が兄貴っぽい。」
緋莉の手元には5歳の白高と黒高が一緒に写った写真がある。
子供向けの洋服を扱った雑誌に載ったものだ。
白高はにっこりと笑い黒高はすました顔で写っている。
白高はくっきりとした二重瞼の王子様顔だ。
黒高は一重瞼の醬油顔で、二人は対比的なイメージがある。
なのに顔立ちは瞼以外は背丈も全てそっくりだ。
「二人とも勘も良いし、
コロコロと表情も変わるからほんと良いよ。」
「だから次も仕事ちょうだいよ。」
「分かってるよ、こちらからもお願いしたい。」
だが緋莉と話している男性は言った。
「でもあの子達は学校にはちゃんと行かせろよ。
緋莉ちゃんみたいに字が読めんと恥ずかしいぞぉ。」
少しばかりおどけた感じで言った。
「はは、分かってるよ、
でもそれでもどーにかなるよ、んじゃ次もよろしく~。」
緋莉は元々モデルをしていた。
だが年齢を重ねると仕事も絞られてくる。
しかも彼女は白高と黒高と言う双子を持つシングルマザーだった。
だが彼女はあくまで楽天的だった。
そして子どもが5歳になると彼らをモデルの世界に引き入れた。
彼女の勘は
「あいつら絶対にいいとこまで行く。」
と告げていたからだ。
案の定白黒コンビは仕事が切れる事は無かった。
ただ、彼女はテレビやラジオに出ることは許さなかった。
写真の仕事だけを受けた。
その間白高と黒高は学校にはちゃんと通っていた。
見た目が良いので二人とも目立つ。
女の子にはもてるが同性からはやっかみが激しかった。
だが白高は見た目と違いかなり腕っぷしが強かった。
その反対に黒高は穏やかな性質で敵を作らない。
波はあったが学生生活は普通に過ごしていた。
母の緋莉は無理に仕事はさせず、
かつて男性と約束した事を守っていたのだ。
だが高校3年生の時に母親とその友人が飛行機事故で死んだ。
「オレが頼まなきゃ……。」
葬式が終わった頃に白高がぽつりと言った。
黒高は緋莉に頼み事をしたのだ。
そのせいで予定の飛行機を変更した。
その変更した飛行機が墜落したのだ。
「オレのせいだ。」
「違う、白のせいじゃない。」
黒高は首を振りはっきりと言った。
だがそれを聞いた白高は黒高を強く見た。
白高は式の最中ずっと泣いていた。
だが黒高は泣く事は無かった。
「黒、お前は泣かなかったな。」
「……泣くと言うか、その、仕事が、」
黒高は言い訳をするように言った。
確かに母親である緋莉が死んだ事は悲しい。
だが、その頃は仕事のマネージメントはほとんど黒高がやっていた。
高校生活を続けながら仕事の管理をする。
それは本当に大変だった。
そして母親が死ぬ。
仕事と私生活の板挟みだ。
この葬式もそうだが、
これからどうしたらいいのかそれしか頭になかった。
それを考えると泣くどころではなかったのだ。
「仕事が、か。優等生らしいよな。」
「おい、そんな言い方は無いだろ。」
さすがに彼の言い方に黒高はむっとした。
第一黒高が管理をしているので仕事が回っていたのだ。
子どもの頃は緋莉がやっていたがかなりいい加減だった。
それでも一応回っていたが、
いつの間にか黒高が管理をするようになった。
だからこそ、収入があり生活が出来る。
だが緋莉や黒高はそれを使う事しか考えていなかった。
毎日享楽的に面白可笑しく、
仕事が終われば二人は遊びに行ってしまう。
だが黒高は家に戻り書類整理だ。
「僕がちゃんと管理しなきゃ仕事は回らない。
それは分かっているのか?
ちゃんとやらなきゃ金は入らないんだぞ。」
白高の顔が歪む。
「ホント偉い様だな。
オレは言う事さえ聞いてればいいんだろ。
オレは奴隷か。」
「じゃあ勝手に仕事するんだな!」
白高が怒って立ち上がった。
「そうさせてもらうぜ、
お前の顔を見るとずっとむかむかしてたんだ!」
彼は激しくドアを開けて出て行った。
その日から白高は帰って来なかった。
「結局葬式の後始末も全部押し付けて勝手なもんだよな。」
黒高が母親の葬式や仕事の処理に追われながら呟いた。
高校はもうすぐ卒業だ。
白高は高校に来なくなり、黒高が休学扱いの手続きをした。
だが多分このまま中退となるだろう。
何しろ全く連絡が取れないのだ。
ただ今まで働いた分の給料の請求は彼の友人を通じて
連絡があった。
それは白高の正当な要求だ。
身内としての情もある。
なので黒高はきちんと給料を払った。
そして母が事故で亡くなったので賠償金と、
人に言われて入ったのだろうか、
保険会社からの入金も驚く程あった。
それは黒高も知らない話だった。
それも黒高は白高ときちんと分けた。
だがそれがいけなかったのだ。
黒高はのちに深く後悔する事となる。
ふと黒高は店内を見る。
母が亡くなったのは7年前の話だ。
モデルの仕事は母の死後すぐに終わらせた。
そして遺産でここを購入して衣料品店を始めた。
今までの繋がりもあり、客足はそこそこある。
店を経営する事も今まで仕事を管理していたからか、
それほど苦にはならなかった。
こちらの仕事の方が自分の性に合った。
黒高は色々なものを無くした。
そして手に入れたのはこの店だ。
大きくはない。
こじんまりとした店だ。
それでも今の彼にとってはとても大事なものだ。
その時、店の奥から白高が顔を出した。
ついこの前喧嘩別れしたのだ。
早めに店を閉めた時に街に行こうと白高は誘ったが、
黒高は断ったのだ。白高は拗ねて姿を消した。
だがそんな事は何もなかった様に、
にやにやと笑いながら白高が寄って来た。
黒高はじろりと彼を見た。
「黒、満知は来たか?」
「来てないよ。」
少しばかりそっけなく黒高は言った。
彼はこの前作った着物地のシャツを畳んでカウンターに乗せた。
「あ、このシャツ格好良いな。」
白高が黒シャツを見て言う。
「そうか?」
「ああ、良いよ、着物地だろ。変わってて格好良いよ、
しかもラッフルだろ?見たことないよ。」
黒高が畳んだシャツを広げた。
「このラッフルは取れるんだよ。」
「ボタンでつけてあるんだな?」
「ああ、それを取ると普通のシャツの形だから
普段着的な感じになる。」
白高がにやりと笑った。
「雑誌に載せろよ、絶対に高値が付くぜ。」
だが黒高は首を振った。
「いや、ここで売る。
僕が作ったから高い値段は付けられない。
拙い物だからな。
買って頂けたら嬉しいものだから。」
「相変わらず商売っ気ないな。そのうちこの店潰れるぞ。」
「潰れてもいいよ。」
その時ふっと白高が店の外を見た。
「客だ。」
黒高も見る。
「ああ。」
扉の向こうに人影が見え、
その扉が開くとベルの音がした。
「いらっしゃいませ。」
黒高が頭を下げた。
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