第27話 忘れたい光景

私はその日、二男を保育園に預け仕事を休んだ。

しばらくすると元夫は目を覚ました。

昨日あったことを話すと

「迷惑掛けてごめん」と謝った。

でも、いきなり

「出かけてくる」

と行こうとするので、まだ無理だと止めたが、聞かない。

でもまだ呂律が回っていない。

私は思わず…

「どうしても行くなら私も一緒に行く」

と元夫に言った。

元夫は、仕方なさそうに「分かった」と言った。


それから支度をして下に降りると

元夫は、隣の大家さんの会社の従業員に突っかかっていった。

なんとか宥めて、大家さんの会社にも謝罪して駐車場に向かった。

私は免許を持っていないから、代わりに運転をすることが出来ない…

それは、めちゃくちゃな運転だった。


怖い思いをして何とか着いた場所。

それは、友達の妹だという女のマンションだった。

家に一緒に入って挨拶をした。

「私が精神的に不安定だから、お世話になっている」

と女は話す。

元夫は…

「ゆうこも嫌だろうから、もうここには来ないことにする。最後に二人で話したいから玄関の外で待ってて」

と言ったので、私は承諾し玄関の前で待っていた。

これから、起こることも分かっている。

でも、タイミングが重要だ…

元夫は、なかなか出て来なかった…

私は、タイミングを見計らい部屋に入って行った。

すると思った通り…

元夫と女がキスをしていた。

私は、鞄で元夫を叩いて

「好きにしろ」

と叫んで出て行った。

隣にタクシー会社があったので

タクシーに乗って家に帰った。


1度目の人生も

腹が立って仕方なくて…

涙も出なかった。

でも今は、その時の思いとは違う。

もう少し…もう少しの我慢だ…

と言い聞かせた。

でも、キスの光景が頭をよぎってしまう。

忘れたいのに忘れない光景となった…


元夫から何度も電話が入っていたが無視した。

家の電話が鳴ったので出てみると、さっきの女だった。

「私は家庭を壊す気はない。もう会わないから許してあげて下さい」

と言ったが

私は

「もう要らないから、そちらで好きにどうぞ」

と言って電話を切った。


元夫が帰って来て

話がしたいと言い、言い訳を並べて来た。

女とはもう会わないから別れないでくれと言う。

嘘なのは分かっている。

このまま別れてしまいたい。

でも、別れるのは今では無い。

でも別れた時期はいつだったか…忘れかけていた。

今ではないことは確かだ…


とりあえず、もう会わないと約束させて

許すことにした。

もう連絡をしないと思っていたのに

毎朝、メールが入っていることに気が付いた。

仕事に行くのに起きられないから起こして貰っていると言う。

私はおかしいだろうと怒った。

すると、もう連絡も取らないと言い、もう連絡をしないと書いたメールを私に見せ、送信した。

女から何度もメールが来ていたが…

元夫は無視していた。


それから暫くして

女が自分の実家の空き家に火を点けて、ボヤを起こし、女は火傷をして入院した。

後に、捕まったと聞いた。


精神的に不安定なのは本当だったのかもしれないが、この女も覚せい剤繋がりだったのだろう。

これでこの女とは切れることになった。


1度目の人生では、これで落ち着くと思っていた…

でも、順調に進んでいる。

私は、辛い過去を心の奥にしまい込んでしまう傾向があったから

離婚した頃の記憶が定かでないことが不安だった…

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