箱の中身

アザミ

箱の中身

 箱が一つ、私の頭の中を回る。中身は分からない。何故なら開ける場所がなく密閉されているからだ。此箱の存在を忘れたことは一度もない。何故なら物心ついた時からずっと回っているからだ。正直、気が散る。

 この箱が出現したのは私が小学生であった或日、わけも分からず虐められた時からだったと記憶している。

 仲の良かった友達の態度が其日突如として変わった。色んな話を沢山してくれた大好きだった彼女は私の顔を殴り、腹を蹴りあげ、脚を折った。

 其日から始まった彼女の暴力は次第にエスカレートしていった。顔を机に叩きつけ、態々家から金属バットを持ってきて腹を殴り、脚を電動鋸チェーンソーで切りつけた。幸いにも他の生徒が止めた為、骨迄及ぶ事は無かった。

 其時から小さな箱が頭の中で回り始めた。箱が頭の中に回っている、と話したとて無論、誰かが信じてくれることなど一切もなかった。次第に大好きであった彼女も嫌いになっていった。もっと最悪なのは、中学も高校も同じ学校、同じ組であった事だ。私に対する虐めは留まることを知らなかった。関係あるかは分からないが時が経つにつれ、次第に箱のが大きくなっていったのを感じた。

 今日も登校する、今日も暴力を振るわれる。席に着く、何時もの落書のされた、画鋲の入った席に。そんな席に着けば聞こえる甲高く狂った女の笑い声。そんな笑い声と共にこっちに来る、始まる。又。髪を掴まれる、殴る、脛を蹴り、立たせたかと思えばライダーキックの様に背中に飛蹴をかます。もう慣れた。もう彼女の暴力にも叫ばなくなった。もう、飽きた。

 数日続いた私の無反応に苛ついたのか暴力はやめて席に戻った。今日は之で終わりかと思ったその瞬間であった。彼女は手提バッグに入れた小刀を持って私に振り翳してきたのだ。虐められるのには慣れたが、死ぬのは慣れていない。流石の私もその小刀を避ける様にして逃げた。それでも彼女は追いかけてくる。教師は見て見ぬ振り。此学校は根本的に終わっていたのだ。走りすぎて足は棒の様、何時しか私は彼女の取巻に捕まった。小刀を持った彼女が私に迫ってくる、逃げ場は無い。諦めようとした次の瞬間であった。回り続けていた私の頭の中の大きい箱が突如壊れたのだ。破片が脳に刺さる。中に入っていた液体が脳に降り注ぐ。そんな感覚を前に私の意識は途絶えていた。気が附いた時には私の手には彼女のモノであろう小刀があり、目の前には女が三人倒れていた。二人は私を押えた彼女の取巻であり、もう一人は嘗て大好きであった嫌いな糞女だった。三人から既に心臓の鼓動は聴こえなかった。救急車を呼ばねば、たとえ嫌いな人間でも通報はせねば。そう思い電脳板スマートフォンを取り出そうとした、が動かない。其れ所か躯が動かない。意識だけがここにいる。次の瞬間動かなかった自分の躯は意識に反する様に走った。棒になり動かなかった筈の足は私が走った時以上に速く動いた。出会い頭にすれ違った人間は手に持っていた死んだ蚤の持っていた小刀で斬り裂いていった。罪の無い人間も無差別に全員乗っ取られた私の躯によって殺されていった。否、全員に罪があったから殺されていったのかもしれない。女の甲高い悲鳴が、男の野太い叫び声が校舎内を飛び回る。もう私は私を止められない。何故なら箱の中に入っていた液体が私の脳を襲ってから私の躯はもう私のモノではないからである。正直抵抗するつもりもない、気力もない。少し疲れたから、この意識に身を任せることにした。今はゆっくり寝させてくれ。

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箱の中身 アザミ @Tamaba-Chirsium

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