第21話 発展していく能力の世界
掲示板にて、誘拐事件とモンスターの暴走事件の解決が大々的に報道されていた。
その活躍にはアマテラスの聖女が大きく関わっており、俺と唯華の存在は一切無かった。
逃げたのは自分達だ。こちらとしてもありがたい。
変に目立って注目を集めるのも避けたかったからな。
「今はまだ貴族地区に戻る時じゃない」
どんな災害にでも耐えられるような土台を作らなければならない。
そのための配信なんだ。
土台が完成していないのに、先へ進むのは危険。
話は変わり、ベルギーレによってモンスターとされた人間達の家族に一人一人会って来た。
子供が誘拐されて長い時間が経過しているはずだ。
どんな状態だろうと、子供の安否は知りたいだろう。
悩み続ける時間から解放させるために。
⋯⋯しかし、半分近くが子供に興味が無い人だった。
自分の生活でいっぱいなのに子供の面倒は見れないとか⋯⋯そんな事を言う輩もいた。
もちろん、中には嘆き悲しむ人達もいる。
だが、モンスターになった事を受け入れられずに子供達を探す親達もいた。
モンスターになった事で子供に怯える親もいる。
「色々な家庭がある。仕方ない事か」
結局、モンスターとなった子供は元には戻らない。全て俺の管理下に置かれる事となった。
モンスターを組み合わせたキメラの身体を持った人間、どう接するべきか。
悩みどころだ。
その事件が起こってから三日が経過していた。
管理世界にて。
多くの仲間を迎え入れた事により世界が拡張された。
平面的な地面がただ広がっているだけだが、水辺が用意されていたり雪が降っている場所もあった。
「管理世界はモンスターの特性に合わせて機能が追加される⋯⋯水場や雪場で暮らすモンスターを融合させられたんだな」
一体どんなモンスターを組み合わせられたのか。
最近のモンスターの出現率の低さもこの1件が影響しているのかもしれない。
「ここまで広がると地形が弄れるようになるのか」
感覚的に分かる、『できる』と言う直感。
地形を操作して山などを作れる。
「今は必要ないか」
広いと言っても山を作れるところはどこにもない。
モンスター達の居住区、そして食料を生産するための畑などの施設。
管理世界は広くなった。だがまだ自由奔放にモンスターが暮らせる程に広くない。
「一旦全員集まってくれ」
一時的にモンスターを全員集める。
「さて、今から役割分担を始めよう」
畑などのやり方を書いた本や道具はこちらで揃えた。モンスター達の家は木材を購入して唯華を主導に雑に建設した。
すぐに壊れそうな程に拙いが、家を作る技術が無いので仕方ない。
「技術力が圧倒的に足りない。だけどそんな技術を持ったモンスターも都合良くいないし⋯⋯モンスターを職人に弟子入りもできんしな」
そこまでの金銭的余裕が無いのと、外に出していたら聖女の光で消し炭にされる。
二度とあんな事は起こさせない。
「地形操作で洞穴も作っておくか。そっちの方が落ち着く子もいるだろ」
人型のモンスターには基本的に畑仕事を教える事にした。
それ以外のモンスターは戦闘訓練か。移動や運搬なども任せたいからその辺の練習も。
「う~ん。ずっと俺がいる訳にもいかないし、この場を仕切る副管理者が欲しいな」
【
それは権利であり、管理世界での権能をいくつか使える。
天候操作や地形操作は可能だろう。
臨機応変にやって行くには彼らと同じ目線に立てる副管理者が必要だ。
「問題は⋯⋯そこまでの知恵を持つ存在がいない事か」
勉強をさせるにしても、畑仕事の本もかなりの高額。
既にお財布事情が寂しい事になっているのだ。
モンスターの数が増えたのは戦力増強にも思えるが、過半数が中身女の子で戦えるメンタルをしてない。
育てると決めたからにはやり切るつもりだが、食料なども問題もある。
「だ〜。問題だらけで頭が痛くなる。やらないと行けない事が多過ぎる。生活を安定させるの難しいな本当に」
「輝夜様落ち着いてください。お食事にしましょう。今日は私が作ります」
「食材を無駄に⋯⋯いや、なんでもない。よろしく頼むよ」
挑戦は重要だ。金を稼げているのも唯華のおかげだ。
彼女の申し出を断る権利は俺に無い。
その間にモンスター達との意思疎通を繰り返して会話をしておく。
今後の生活への不安はもちろんあるだろうが、慣れて貰うしかない。
親に拒絶された子に関しては心に深くダメージを負っているし、親からの関心が得られなかった子は今後の生活にワクワクしていそうだ。
「副管理者の権限は与えないけど、代表はある程度決めておこう」
面識が最初からあると言う雑な理由だが、山目さんはグリフォンなので飛翔部隊リーダーの役目を与えた。飛べるモンスターのまとめ役だ。
ただし、人の感覚から抜け切れてないので皆飛ぶ能力を失っている。
次にスケイルウルフ、鱗を持った狼だ。防御力と硬質の爪からの攻撃が特徴。これも元のモンスターに寄せて作ったキメラとなっている。
名前は
そして全体をまとめ指揮する立場にオーガを一人採用した。隊長だ。
長柄武器への才能が唯華のお墨付きであり、賢いので選んだ。
「オーガって呼ぶのもややこしいから⋯⋯ルアーとでも呼ぼうかな」
水辺を見ながら俺はそんな名前を与えた。
何も考えてない。軽い言葉である。
しかし、オーガは心の底から喜んでいるように見えた。
⋯⋯少し罪悪感が。もっと真剣に考えるべきだったか。
「モンスターについてあまり知らないんだな俺は。名前って特別なのかな? ⋯⋯そうだ。君達はアビリティ使えないの?」
キメラの彼女達に質問するが、全員がノーと答えた。
アビリティは人類特権なのかもしれないな。
「モンスターはアビリティ関係なく、超常的な力を使うのか⋯⋯そろそろ唯華が料理を終わらせる頃だろう。皆もう一度集合」
畑仕事について議論していた子供達もそれで意識を変える。
土の中で過ごしているだろうアースワームは出て来なかった。
唯華が作ったのは、黒炭となった何かがだった。
「⋯⋯今回は何を作ったんだ?」
「⋯⋯シンプルにステーキを。焼くだけだから簡単かと、思いまして」
「焼き加減にも色々とあるからなぁ。でもこれは焼き過ぎだな」
箸で突くと塵となって宙に舞った。
その光景は子供達には珍しかったのだろう。微動だにせず固まっている。
「んじゃ、俺の出番な」
「不甲斐なしっ!」
「適材適所って奴だよ」
俺は俺達の食べる分とモンスター達の分をサクッと作り終えた。
久しぶりに人間らしい食事に涙を流す子もいた。
食べ終わり、唯華と一緒に食器を片付けているとじゃれ合い遊んでいるモンスター達が目に入る。
見た目は凶悪だが、中身は列記とした女の子なんだ。
「私達に子供ができた様に見えますね」
「⋯⋯そうだな」
俺と唯華の間に子供ができたら、どんな子になるのだろうか。そんなあるかも分からない欲望にまみれた未来の想像をした。
「⋯⋯子作り、今晩からしますか?」
真剣な顔で唯華が質問して来た。手は既に服を脱ぐ準備をしている。
「冗談はよせ」
顔を見せないように背け、そう言い返した。
「⋯⋯そうですか」
どことなく寂しそうな、悲しさを含んだ呟きが唯華から聞こえた。
色々と問題は抱えているが、賑やかとなった管理世界。
ここはさらに発展して行く事になるだろう。
「ここに来たからには全員が家族だ。仲良くやって貰いたいところだ」
長期間不自由を強いるが、許して欲しいと思う。
◆あとがき◆
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