第21話 クラスの雰囲気は居づらい
教室のドアは保護者や生徒への配慮のため前も後ろも空いている。
教室のドアに張り付けられた座席表を見るに、どうやら僕の席は窓側の後ろの席で僕の真後ろは春姫だ。
「はぁ」
思わず短い溜息が口から洩れた。
別に面倒だとかうっとおしいと思っている訳ではない。
自分のせいではないのに不用意に注目されるのが嫌いなだけだ。
比較的空いている前のドアを潜る。
少し姿勢が悪いことを自覚しているので、胸を張って歩き始める。
教室に入ると複数の視線が僕に集まった。
それは好奇心や品定めと言った少し不快になる視線だった。
向けられた視線を返すように軽く、教室内を軽く見渡すが見知った顔は存在しない。
同じ中学なのか趣味の関係からか、彼らは一定のグループを既に形成している。
機械的に名前順で割り当てられた座席は、既に半数以上が埋まっており、残りの生徒もトイレや両親との写真撮影や、同じ中学の奴のクラスや座席に話に言っているようだ。
「あれが龍蛇母さんがグループに招待したって言う……」
「てことは学年ディスコ作ってくれたやつか……あれ便利なんだよなぁ」
「容姿は思ったより普通だな」
「おい! 聞こえるぞ……」
などと、男女構わずひそひそと
残念だったな! 俺は自室にいてもインターホンの音を聞き取れるぐらいには耳が良いんだ。
どうせならざわざわとしか聞こえないくらいに、大人数が噂話や陰口を叩いてくれれば聞こえなくて済むのに……
見た感じだが同じ中学……否、学習塾でグループ形成がされているというべきだろうか? 見た目ではチグハグに見える男女が3,4人程度でグループを形成している。
俺はクラスメイト達のひそひそ話を聞こえていないフリをして、自分の席に付くと机の中に荷物を突っ込みスマホを弄る。
文庫本を読めば陰キャというレッテルを張られてしまうが、スマホを弄っている分にはマイナスにならないのが現代社会の良いところだ。
リアルでの知り合いがいないというだけで、これほどまでの疎外感を味わうとは……
学校生活で苦労しないように、何人かは友達作らないと……決意をして内心で握り拳を作り決意した。
暫く待つと恐らくこの学年を担任すると思われる教師が来て僕達を体育館に誘導される。
体育館は真新しいとは言えないものの、手入れの行き届いいている。
「では新入生代表! 龍蛇母春姫さんお願いします。」
真新しいブレザーに身を包んだ年頃の男女の中で、体育館への移動中に合流した春姫さんは、大きな声でハッキリと返事をした。
「はい!」
錆の浮いたパイプ椅子から立ち上がり、座席の間に開けられた道を通って行く……するとヒソヒソとした話し声と共に彼ら彼女らの視線が春姫さんに集中する。
「代表って事は成績トップって事でしょ……」
「勉強も顔面も強いって天は二物も三物も与えるのかよ……」
(容姿は生まれ持ってのものだが、二物も三物もという言い方は、彼女の努力を踏みにじっているようで癪に障る僕は彼女の努力を知っているのに……)
脇から回り込んで壇上の上に上がる。時代遅れの蛍光灯が集中して照らされているためか、少し顔が赤い。
緊張しているのだろうか? あの完璧超人龍田母春姫が?
緊張していると思うだけで何だか急に人間味を感じる。
僕は忘れていたのが彼女がまだ十代前半の女の子だということを。
胸ポケットからカンペを取り出して、スタンドに乗せられたマイクのスイッチを入れる。
するとスピーカーから、キーンというハウリング音が聞こえる。
だが焦ることはない。
「本日は私達新入生の為に、盛大な式典を開いて頂き誠にありがとうございます」
彼女の演説の読み合わせにはかなりの時間付き合っている。
容姿の整った人物が、表情と声のトーン、身振り手振りに気を使って話せばどうなるだろうか? 答えは単純、演説の中身関係なく彼女に好感を持つ人物が増えるという訳だ。
例えば、人間は印象によって物事を判断する動物である。対して似ていないモノ真似でも誇張して印象の操作すれば一芸になる。
「暖かく穏やかな春の陽気に包まれ、私達はこの、伝統ある学校の一員となりました。新しく始まる学校生活では、学業はもちろん学校行事や部活動にも励み、文武両道。自分自身を向上させていきたいと思っております。本日は盛大な式典を挙行していただき誠にありがとうございました」
声の調子や抑揚、聖母のような柔和な微笑を浮かべつつ、出席者や重要な人物への目配せをする事で、自分個人に訴えていると錯覚させるテクニックだ。
内申点で有利になるからと、生徒会役員と学校のミスコンで一位を目指すと言う。明確な目標のある春姫さんにとって、この入学式という場は絶好の顔を売る期会だ。
まぁ本人曰く、保険とのことだがそこまで器用に立ち回れる自信のない僕には真似できない芸当だ。
こうして僕の新しい生活が始まった。
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