第05話 知らないと言う罪を知りすぎる罠
今の僕は仮眠のお陰か寝る前よりも、スッキリとしていた。
「あとは勉強方法だけど……先ずは予習・復習ね。
中高二年の三学期は三年生ゼロ学期なんて言うけれど、始めるのは早ければ早いだけ総合的に楽が出来るというのが答えなのよ」
「言ってることはマトモだけど……受験終わりにそれはないよ……」
中学二年最後の三者面談で、担任の先生や親に口をそろえて「やめた方が良い」と言われながらも、「半年後の成績を見てください。本当の僕の性能とやらを見せてあげますよ」と、山岡と赤い彗星を混ぜたようなセリフを口にしたあと、偏差値を合格ライン(ギリギリ)まで上げみごと合格を果たした。
三年担任からは「判定ギリギリから合格させるのが最高に気持ちがいいい」と、脳汁プシャーな最悪な告白もあったが受かったからまぁいいとしよう。
全く受験生の人生でギャンブル欲を満たさないで欲しいものだ。
これら全ての原動力が『檜山さんに振り向いて貰うため』だったけれど、今となっては結局ムダになってしまった訳だ。
そんなこんなで背伸びして高校を選んだから、受験が物凄く大変だった。
こんな経緯あるからこそ今は苦労したくないと思ってしまうのは仕方がないと思う。
「勇気くんの言いたい事も判るけど、先ずは話を聞いて欲しいの。『七つの習慣』と言うアメリカの自己啓発本には、『終わりを決めてから始める』と言う一文があるの。
これは目標を決めてそれに至る道筋・方法を考えろと言うことなの」
「終わりを決めてから始める……例えば目標は『めちゃモテ』になることそのための方法や過程、中間目標を考えろって……コト!?」
「その通りよ! 今回でだと二か月で十キロ以上の減量が中間目標になるわ。
そして継続的にモテるためには一流企業、つまりはいい大学に入学することが近道よ。昔の偉い人はいいました『馬鹿とブスほど東大に行け!』と。
まぁ東大と言わなないまでも難関大学に行くためには何をするべきか? 答えは基礎を固めること、内申点を稼ぐことこの二つに集約されるわ」
阿〇寛演じる桜木〇二かよ! あれ? 阿〇寛演の演じる高収入男って未婚率高くないか? それに桜木〇二は偉い人じゃないよ!
「だから復習と基礎固め……」
「特に数学は小学生レベルから問題を解いていくの、高層建築と同じように基礎がシッカリしていないと上はグラグラになってしまうわ。
学校の授業を先に予習することもいいけれど、学校のテストは理解度のチェックには使えるだけど、内申を落すことになりかねない。だから過去問を入手し、それを使うといいわ」
基礎の計算速度を上げろということだろう。
「過去問……」
僕は中学時代の苦い経験を思い出す。
大手予備校や塾の場合その地域の過去問を所有しているため、そこに通えない人は大きなリードを取られてしまう。
実に不公平極まりないことだけれどしょうがない。
資本主義とはそういうことだ。
子供の性格などは遺伝子と環境と言うけれど、環境も遺伝子も『親ガチャ』なのだ。
僕は父子家庭だったからそういうことを知らなかったのだ。
「過去問にあまりいい思い出がないみたいね。でも過去問さえあればテストで簡単に七割以上を狙えるわ。
多分、中学塾で過去問が手に入る人間との格差を気にしていると思うけど、コミュ力……『話術』があれば入手できるものよ?
例えば先輩や塾で過去問を手に入れた同級生から手に入るし、精度は多少落ちるけれど中高レベルのものなら、ネット上を探せば幾らでも落ちているわ」
「……」
言っていることはその通りだ。だがなんだかモヤモヤする。
それを踏まえてか春姫さんはこんなことを話始めた。
「知らないことが罪なのよ。学習塾は金を払った人間を食い物に、金を払った人間は学習塾に金を払わなかった人間の上に立って優越感に浸っているの。奴隷の首輪自慢と本質的には同じよ」
塾>塾の生徒>一般生徒と言う、ヒエラルキー構造だ。
一般生徒がそれ以外から搾取される構造は、正に競争社会の縮図と言える。
この構造は高校→大学→就職と場面が変わっても変わらない。
過去問さえやれば赤点を回避し、内申点を確保しやすくなる。
「金かコネ……そしてコミュ力ってことか……僕に足らないそれを埋めようってことね! 理解した。」
「その通りよ! 勉強の目標は中学時点の学力が反映される最初のテストで、義姉弟のワンツーフィニッシュよ!!」
春姫さんは決め顔でそういった。
やることは単純らしく、四則演算百問を数分で満点になるまで解くと言う脳トレをしてから、勉強するだけで数学の点数は飛躍的に伸びると言う。本当かよ。
「問題を解く時に無意識で計算が出来れば、そのぶん心も体も疲れない。さらに二桁の九九を二十の段ぐらいまで覚えると、問題を解く時間が十秒以上短くなるから暗記することをオススメするわ。今週中に暗記できたらご褒美を上げるわ。少しぐらいエッチなご褒美でもいいわよ?」
――との一言でやる気になった僕は、午前中は痩せるためのトレーニング、午後は猿のように勉強に励むことにした。
二十の段まで暗記する方法はドラマで一躍有名になった『フランス式指電卓』や『インド式掛け算』などがあり比較的覚えることに苦はなかった。
二桁×二桁の掛け算はそれだけでけっこうな時間を使った。
時短方法を覚えた結果、ニガテ意識を持っていた数学が少し得意になれた。
学力が上がった実感はないけど、ミニゲームをクリアしたような妙な満足度を得ることができた。
「全部暗記できてる見たいね。約束通りご褒美を上げなくちゃ少しだけならエッチなことでもいいわよ?」
「~~~~っ! ってそんなお願いできるわけないだろ! 血がつながってないけど僕らは姉弟なんだよ? それに一度でもタガが外れると我慢できる気がしない」
「ぶふっ! あははははははははっ随分正直なのね。バニーガールでも着てあげようか? 勇気くんが持ってるラノベみたいに……」
僕が大好きな小説のタイトルと表紙絵を見たようだ。
タイトルにインパクトがあるから覚えていたのだろう。
外国人顔負けの爆乳ボデーのバニーガール姿なんて三角形のカップ部分から、大きな大きなおっぱいが零れ落ちてしまいそうだ。
「是非お願いします」
気が付くと僕は土下座をしていた。
恐ろしく速い土下座……ボクでなきゃ見逃しちゃうね。
「オッケー……うわっ! バニーガールってけっこう値段するのね……ご褒美だけどさ、少し後でいい?」
スマホでバニーガール衣装の調べたらしく、予想よりも値段も高かったようだ。
「……別にいいけど……」
「ありがと、待たせる分上乗せするから期待してて」
「お、おう……」
こうして僕の自己改革の日々は始まった。
バニーガール姿見たかったな……
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