第04話 最強のバフはモテているということ

 

「『モテている』状態は最強の魅力よ? これをもし言い換えるとすれば、魅力的な『肩書』や『地位』、『ステータス』と言った状態かしら……」


 春姫さんの言葉で理解できた気がする。


「あっ! なるほど、『清中の女神』と言う『肩書・地位』があるから春姫さんはより魅力的に見えてモテる! つまりモテのスパイラルに入れれば『地位』『肩書』『名誉』『ステータス』と言ったバフ状態が自動的にで手に入るってことか!!」


「その通り! でもそのモテの高速道路、VIPルームに入る壁は高いわ。そのための基礎こそが今やっている運動よ!」


「確かに小学生の頃は足の速い奴がモテたけどさあ……」


「言い方は悪いかもだけど、目立って自信がある奴がモテるのよ。中学だと喧嘩が強い不良とか、面白い人とか……高校だと勉強が出来たりリア充グループに居る男子とかがモテるでしょ?」


「確かに……判らなくもないな……『自信』がある男ってなんかナゾの説得力あるもんな……」


 檜山さんの最初の彼氏は、中三の自信あり気なヤンキーだった。

 うっ、胃が痛くなってきた。あの日から僕のオカズはネトラレ・BSSモノが多くなった。

そして間違いなく僕の性癖は歪んだ。


 性癖のオールラウンダーと言われた僕を一変させたのは、間違いなくあの事件からだ。

 精神的負け癖がついて、男性ホルモンが下がるとメンズコーチジョニーに言われてしまいそうだ。


 ネトラレ・BSSは暫く封印、時代はそうあまあまな……純愛、純愛なんだよ。純愛はエネルギー砲だって撃てるんだから。


「その通りよ! なんで私言語化できなかったんだろう……」


 どうやら彼女の一歩上を取れたようだ。


「今日の予定はお昼までは水泳で午後からは予習と復習よ」


 こうして僕たちは地元のスポーツクラブに向かった。

僕の視線は当然、水着姿の春姫さんの胸元に向かっていた。

水着の性質上どうしてもご立派ァ! な胸が押し潰されオムレツ型になってしまう。

 

だがそれも良い。やっぱりいいものだ。

 

「毎朝散歩やランニングをすることが出来れば、その日一日の消費カロリーが多くなるから、出来れば学校が始まってからもやって欲しい習慣よ」


「プールに入っているのに泳がないのが違和感がある……」


「水中ウォーキングは陸上に比べ関節への負荷が少なくて、消費カロリーが多いの。ダイエットと筋トレに効果的なのよ」


 確かに反発を使わず筋力だけで歩こうとすると物凄い抵抗を感じる。


「少年漫画でよく出て来る超重力の部屋みたいだ」


「あるあるよね。超重力の部屋で修行したり、重り付けて修行するの……この水中ウォーキングも似たようなものよ」


 なんどでも言おう。

 押し潰され変形するオムレツ型の胸もまた乙なものだ。

 

 そう言って歩くこと三十分。

 僕は肩で息をしていた。


「春姫さん体力凄いね……」


「まあね運動部だから……それに慣れてるからね。運動強度が高いから休憩してからか、今度はそのまま一時間泳ぐわよ」


「い、一時間……」


「出来れば全身運動の極致と言えるバタフライがいいけど、出来なければクロールまたは平泳ぎがいいわ。水泳は全身運動で消費カロリーも大きいし、身体の歪みやコリも取れるから胸の大きい女の子にはオススメね」


「なるほどそれで水泳を……」


 幸い水泳は苦手ではななかったので、五十メートルは余裕で泳げる。

 けど……


「息継ぎとターンが苦手みたいね」


「……」


 二十五メートルプールと言えども、ターンを繰り返し疲労が蓄積しボロが出ると一気に崩れる。


「泳ぐ時に何かを深く考える必要はないの、脳内の雑音に耳を傾けるでもいいし、水の音や脳内で音楽を流しても、自問自答しても無心でもいい。動きながら瞑想をすればいいの……」


「おう……」


 動きながら瞑想ってなんだよ。俺は仏僧じゃないのに……でも自分の特攻と特防が1段階ずつ上がりそう。


 残りの時間ただただ泳ぎ続けた。

 プールから上がるころには僕はヘロヘロだった。


「ヘトヘトね。でも疲れたからってそのままぐっすり寝てはだめよ? 寝る前にアラームをかけておやつを食べるの」


「寝る前に食ったら太るだろ……」


「普通はね、いま欲しいのは筋肉よ。運動してから出来るだけ速やかに上質なタンパク質を摂取する必要があるのよ」


 美少女から出てくるとはとても思えない筋肉理論だ。


「タンパク質ってサラダチキンでも食べるのか? パサパサしてて美味しくなんだよな」


「それもありだけど今回はこれよ」


 そう言って取り出したのはプロテインだった。


「プロテイン?」


「プロテインは色んな味があって、運動系ダイエット中のおやつに最適なのよ!」


 またも決めポーズを取る。

 どうやら彼女はそういう性質みたい。


「プロテインを呑んだあとは直ぐに歯磨きをして、15~30分を目安に仮眠をとってそれから勉強開始よ! いい睡眠は全てにつながるわ」


 春姫さん曰く昼寝は眠気を解消させ、集中力や学習能力の向上、疲労・ストレス、精神を改善させ、疾患のリスクを低下させそうだ。


 そして一日で総量が決まっている『意志力』を回復させるそうで、寝起き後二時間が最高値になっているとのことだ。

 なので暗記科目以外の勉強は、本来寝起き直ぐの午前中にやるべきとのことらしい。


 シャカシャカと歯磨きをしているとこんなことを言った。


「鏡を見なさい」


「……」


 僕は考えることが億劫で、言われるがままに水着のまま姿見を見る。

 僕の太った醜い体が映し出される。


「これが今の勇気くんよ。筋力を感じさせない体に出っ張ったお腹を目に焼き付けなさい! そして決別するの。

筋肉と学力は平等よ!! 誰でも等しく自らの手で勝ち取れるモノだから……そして女の子と違って男の子の社会的属性レッテルは筋肉質の場合、身長や顔の美醜なんて関係なくマッチョになるの」


 確かに女の子の場合どれだけ美人でも胸がや尻が無ければガッカリする男は多い。僕だってそうだ。

 声が可愛くない橋本〇奈よりも、声の良い声優さんの方が良いという男がオタクに多いことからも、女性の場合美人だけど……となるのは明白だ。


 しかし男の場合それは少ない。

 街でマッチョを見てもよほど変わった特徴がなければ、マッチョという情報以外は印象に残らない。

 例え不細工やフツメンでもマッチョになれば関係ない。何だか凄いことに気が付かされた気がする。


「筋トレをする意味が分かったみたいね! 安心して私が立派な男の子にしてあげるから……――~~ッ!! かっ、勘違いしないでよねっ! べ、べつにエッチな意味じゃないんだから!」


 と雪のように白い顔を耳まで赤らめて否定する。

 00年代の古典ツンデレかな? 『釘宮病』患者か、『ゆかり教育』を受けた世代には刺さると思う。


 僕はもちろん通信教育(自主的)を受けてるからブッ刺さる。四倍弱点だ。


「べつに勘違いはしないよ?」 


 内心ドキっとしたことを悟られないようにしながら、春姫さんの指示に従う。

 睡眠の方法も米軍式睡眠法を使うことで、の〇太くんのように快眠になると言う。


 最初は疑っていたが、実際直ぐに寝落ちすることが出来た。

 

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