第47話 春の到来(1)
新領主の使い、彼もどうやら「●●●」のようだ。と、いうのも僕やクルルのアストラル体を見ることができているようで、どうもその任務は「●●●」を見つけて身柄を差し押さえることと思われる。だから隊長に脅しをいれたし、僕たちにも釘をさしにきた。
よっく見ると体からちろちろアストラル体がはみ出すことがあって、彼が「●●●」としては弱い部類なのだろうと思われた。そして見分けにくいからこそ、噂を聞いて隠れようとする「●●●」たちの警戒を避けてリストアップできるというわけなのだろう。ただ、よく引き締まった体と、軽快な動きは積み上げた訓練のぶ厚さを感じさせて、単純な強さ以外に戦う技術をしっかりもっているのだろうと予見できた。僕もクルルも彼にまけるかもしれない。
彼が調べているのは「●●●」だけではないようで、村の情報、人数や魔物被害のわかる範囲の状態も調べているようだった。村長たちと長く話しているのを見かける。村長たちも新領主の手先ということで慎重に対応しているようだ。
特にユミ村長はしょっちゅうつかまってはうんざりしたような顔で対応されている。たぶん魔弓の行方のことなのだろう。彼は有名なようだから、新領主も逃がしたくなかったのかもしれない。
四日ほど経過した。僕たちは早くいけと四回彼にせっつかれ、準備が足りないと言い訳した。実際、日数を聞いても食料が足りないことが明白だった。
その言い訳をさせないために、使いの男は商隊の荷物から食料を抜いてもってこようとしたが、これは代金が足りなかったらしく半分くらいしかもってきてくれなかったので、断る口実にはできた。
そうやって時間を稼いでいたわけだが、とうとう隊長が返事をもってやってきた。
返事は、人間だった。
スルト執事が防具替わりの皮のコートをまとって一緒に歩いてきたのだ。
「迎えにきました」
「そんな、わざわざ」
「いや、ついでですよ。それに、あなたがただけで王都まで行かせるのはちょっと不安でしたしね」
ああ、うん、それについては僕らもかなり不安だった。なにしろ、出ても隣村とかの子供たちと、この国についてはさっぱり無知な僕だけだったのだから。
「それってつまり」
「はい、旦那様はあなたがたを受け入れてくださいます。下のお二人は屋敷の小間使いに、ダルド君は執事見習い。そしてあなたがたご夫婦は旦那様の専属護衛としてお雇いになられます。人手の欲しいところでしたし、変な紐のついていないあなたがたは渡りに船と思いましてね」
護衛? ちょっと責任は重いけど、新領主の野蛮そうな軍団で戦争加担するよりずっといいかもしれない。
「それで、悪いが明日にも発てるだろうか」
隊長がなぜかそんなことを言う。
いや、急げば準備はできるだろう。
「何かあるんですか」
「俺の辞任を王室代官に受理してもらえた。取り下げられる前に離任してしまおうと思ってな」
王室代官? ああ、そうかまだここは王室の管理にあるんだな。
「取り下げられるんですか」
「ゴルガウ卿は領内の『●●●』を一人も逃がしたくないらしい。買収でもごり押しでもなんでもやって邪魔してくるだろうと忠告してくれた人がいてな」
僕はスルト執事を見た。
「ついでってこれですか」
「旦那様は滞在中に隊長に便宜を図ってもらったもので、王室代官の件含め、骨をおりになられまして」
にこにこしてるが、なんとなく怒ってるような気もした。面倒を安請け合いしやがって、と思っているのだろうか。
「ついでに口うるさい私をしばらく遠ざけて、さて今頃なにをなさっておられますやら」
ああ、そっちか。
「新しい領主の部下というのが、僕たちはもう新領主に召集されたといってきましたが」
「あ、それ無効ですから。婚姻と正式の引継ぎまではみなさんは王室管理にあります。その事実を伏せてだましにきたんですよ」
むしろ、正式な書類を用意した博士の雇用と移籍が有効という。
それも、新領主が領都につくまでに退去しないと今度は新領主の言い分がただしくなってしまうそうだ。
「というわけで、急ぎましょう」
スルト執事はモクセイの町で駄獣に引かせた車を手配済だという。歩くより安全で、かつ早い。隊長の離任は代官の発行した辞令を隊長と後任に選んだ幹部の一人にすでに授与し、受領証も出ているためあとは領主の交代までにミョルド領を出るだけなのだそうだ。
だから、僕らも一緒に行こうというわけ。
ありがたいことだ。
ただ、新領主の手先の彼がこれをみすみす見過ごしたりするはずはなかった。
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