第28話 ゆうしゃ(1)

 結果だけいえば、あの三人は戻ってこなかった。亡骸はきれいさっぱり食われてしまったのだろう。食われなかった天秤棒や引き裂かれて中にあった携行食料まで食いつくされたかばんだけが野イチゴ村が狩場にしていた場所にあったらしい。

 いざこざもあったので、何か知らないかと問い合わせも来た。

 問い合わせに来たのはユミ村長の娘というこれまたいかにもな農家のおかみさんですごく温厚そうな女性だった。

 いや、知らないというとあっさりひきさがったのだが、そこで魔物狩りは危ないという世間話を始めた。

「これまでずっと危ないことなんかなかったと言って、狩場に皮以外をどんどん捨てるものだから、集まる数も増えてきてねぇ。キチさんの狩場もそんなことはないかしら」

 食べるのでそんなに出ない、とはいえないので、そこは「まあ、工夫してますよ」とごまかすしかなかった。

「うちの狩場、ご存じでしょ? 危ないから近寄らないでね」

 なんで知ってると思うんだ。

 いや知らない。みんな知ってること? と聞くと笑ってごまかされた。

「まあ、気づかずどっかの狩場に近づいて集まった魔物に不意でもつかれると大変ですね。怖いですねー」

 で、まあそこは穏便におさまったんだけど、あれ探りいれられてたな。

 夕食時にはあの三人の家族らしい少年がやってきて、さんざんに悪態をついていった。

「父ちゃんを殺したのはおまえだろう。このルマ人の売女め」

 いろいろ言ったが、要約するとこの程度。ルマ人というのは隣国の人間で、クルルのことを言ってるらしい。ダルドが怒ってつかみかかったのをやっとわけて少年に話しかけた。力が全然違うので、少年は目をぱちくりさせていた。

「そう思う理由はなんだい? クルルは今日は砦から出てないんだよ」

「狩りは五人以上でやることになってるんだ。あそこにいたのは狩りのためじゃない」

「ほう、狩りじゃなければなんのため? 」

 そう聞くと彼は「あ」といって急に黙り込み、なんか的外れな捨て台詞を残して逃げて行った。

 行方不明者がでれば騒ぎになったはずなので、もしかしたらあそこから落とすぞというのは脅しだけで殺意まではなかったのかもしれない。

 そんなのわかるわけがないじゃないか。

 でも、あの三人がだれかを脅していたにしても、狩場がよその村にばれるのは面白いことではないだろう。村長の娘の反応からして、秘密にしてるのに間違いなさそうだ。それなら、これまで脅してきたのは村の気に食わない人間とかで、よその村の人間である僕を連れて行ったってことはやはり殺意があったんじゃないだろうか。

 本人たちが死んでしまったので本当のところはわからない。

 こんな事件があったせいか、隊長が帰ってくるまでうちにちょっかいは出されるということがなかった。気のせいか、ユミ村長の眉間の皺がへったように見えたのは気のせいなのか。

 翌々日、隊長が戻ってきた。三頭ででかけた騎獣が六頭にふえ、フードとマントの三人組がついてきていた。

 この三人が三人とも「●●●」だったのにはびっくりだ。特にリーダーらしい小柄な人物のアストラル体はこれまでみた大型魔物よりもさらに大きい。残り二人も、これまで砦最強のアストラル体もちだった隊長より一回りは大きなアストラル体をもっている。三人にも僕のアストラル体が見えるのだろう。ちらっとこちらを見て、何か会話をする。さすがに聞こえないが、僕のアストラル体はうっかり魔物の頭突きをくらったりという細かいダメージと超回復の蓄積で、実は隊長とほぼ同じになっていた。つまり、市井の実力者と勘違いされても仕方がないようになってる。

「長らく砦を留守にしてもうしわけなかった。ようやく帰村の目途がつきそうだ。各村の代表は詰所まできてくれ」

 隊長はほがらかに宣言した。

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