第29話 ゆうしゃ(2)
村の代表があつまると、隊長は単刀直入に切り出した。
「今回の魔物災害の原因がわかった」
おお、という反応。原因がわかれば対処ができる。あるいは無理とわかる。
隊長の帰還時の言葉は対処可能ということだ。
「みなの村を脅かした大型の魔物、あいつらは本来はもっと未開地域の奥地にいるはずで、餌の豊富な縄張りを捨てることは普通はない」
うわぁ、嫌な予感がするな。
「それでそこのオリアス殿が長くさぐっておったのだが、あの魔物よりさらに強い魔物数頭と、彼らを追い出した魔物が発見された。この魔物がどこから来たかは不明だが、それが超大型魔物をおいやり、そして大型魔物が彼らに追われ、発声した小型の魔物が逃げてきておるのが現状だ」
あのミノタウロスもどきより強いのがいるのか。あいつにだって勝てない気がするんだが。
ところでオリアスって誰だと思ってるとフード三人組の一人が顔を見せた。男だ。ほっそりしたハンサムで一瞬女性かと疑うが、よく見れば男性的なところもある。年齢は若く見える。だが、その容姿を鼻にかけている様子はない。ストイックさをも感じる。別の意味でもてそうだ。
「斥候のオリアスだ。調査に手間取ってもうしわけない」
「それで、対策のほうは? 」
ユミ村長があいかわらずのでかい声で聞いた。
「超大型魔物を除く。これは国王陛下より派遣された神兵シイナ殿、魔導師サボン殿、それにオリアス殿があたる。勝算は十分あるとのことだ」
とんでもないな、と思っていると、フードの残り二人が顔を見せた。二人とも女だが。一人には見覚えがあった。
一緒に飛ばされてきた特戦隊員だ。彼女は僕に気づいたらしく、微笑んだ。
世間一般的には喜ぶべきとこなんだろうけど、もちろん喜べない。もし、悪の末端戦闘員ってばれたらどうなるかわかったものじゃないし、彼女がその気ならろくな抵抗もできずにばらばらにされてしまうだろう。
「大型魔物だが、倒せれば倒してくれればいいが、無理なら超大型討伐後に誘導してくれればいい。その仕事を『●●●』の人にやってほしい。ユミ村長、魔弓殿の怪我の具合はどうだ? 」
「やっと起き上がったとこじゃ。すぐには役には立てんぞ」
と、なると、と隊長の目が僕にむく。
「キチ、あんたのとこは夫婦ともに『●●●』だったな。協力してくれないか」
いやいやいや、あのミノタウロスもどきに勝てるイメージがまったくわかないんだが。
「自分でなんとかできるなら、逃げてきませんよ」
三人は顔を見合わせた。特戦隊員シイナががぽんと手を打つ。
「アストラル体は十分あると思いますよ。おそらくちゃんと訓練うけてないせいでしょう。出発前に手ほどきすればいけると思います。無理そうなら、怒らせるなりして誘導するだけでいいですよ」
えええ、やだよ。
本音はともかく、完全に断れない雰囲気だった。
「では、後で訓練場まで来てほしい。奥さんも一緒にな」
断る理由にしようとしたちびたちについては、その間、および任務中は衛兵隊で保護すると言われて逃げ道もふさがれた。
「さて、それから隣接のアンカレ領の動きだが」
村長たちはさまざまな反応をした。ユミ村長は顔をしかめ、スン村長は聞こえなかったふりをし、ダルド村長は眉をぴくりとさせた。
「残念なことに宮廷で糾弾できるほどの証拠は得られなかったが、最近出没している賊は彼らの差し金ということはわかった」
隊長はため息をついた。
「保護を約束して従属先の乗り換えを求めてきているようだが、彼らが保護してくれるのは手先の賊からだけだ。魔物、特に大型魔物に対処するための重装備や兵士は派遣してくれないか、間に合わない。ハンノキ村は残念だったが、よく考えるように」
「しかし、守ってくれるかもしれんのでしょう? 」
「ミヨルド家の対応が遅く、対応が不十分なことはもうしわけない。だが、ミョルド領は一時預かりとはいえ、王室直轄ということは忘れないでいてほしい。アンカレ家は既に王室の不興をかっている。ついていっていいことはない。それに、あそこにも大型魔物が一体はいりこんでいる。諸君のために戦力を割くとしてもずっと先のことになるだろう。あの家には『●●●』への偏見が残っていて、家中には一人もいないからなおさらだ」
これには村長たちもだまりこんでしまった。
「それに、村々を巡回してわかったんだが、三つの村がアンカレ家の旗をかかげていた。帰属変更の経緯はいろいろだが、賊の脅威をうまく使われていた。その中に、ホオノキ村もあった。キチたちが襲撃の跡を見たところだ。経緯は不明だが、生き残りが村に戻ってアンカレ領の保護にはいったらしい。だが、その村で大型魔物に襲われたらしく、全滅していたよ」
そのほかの村は、大型魔物の脅威にさらされていないだけで無事だったそうだ。
だが、賊の出没とアンカレ領の申し出にぐらついていたらしい。
「結局ミョルド領にもどって村長が引責交代するだけだと警告はだしておいた。
「わかりました」
あまりしゃべらぬよろよろの老人、スン村長が口を初めて口を開いた。
「では、魔物の脅威は神兵様とお連れ様におまかせするとして、アンカレ領の手先の賊どもはどういたしますか。砦のみなさんでは少し心もとないかと」
「あ、それなら超大型を片付けたあと、我々で対処します」
神兵シイナはそう言ってから、仲間の二人の顔色をうかがった。斥候のオリアスは小さくうなずき、魔導師のサボンは表情のとぼしい平板な顔のままため息をついた。不機嫌に見える。
「追加報酬、必ずむしってね」
彼女はそれでも同意したようだ。
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