第23話 砦(1)
石碑によれば、そこから分岐した先にあるのは二つの村らしい。
ひとつの村は二里、もう一つは四里の距離らしい。距離だけ見るとクルルたちの村よりさらに奥まっている感じだ。心の中で雑に地図を作って、これらの村が分村からそんなに離れてないと思えたが、道もなかったし、森になれた地元の子供たちが彼らに助けを求めなかったのは理由があるように思えて黙っていることにした。
襲われたのそのどちらの村のものなのかわからない。街道に出てきたところに襲撃を喰らったらしい。
襲撃したのは人間のようだ。というのも、魔物にはなんの価値もない貨幣がのこっていないし、くず鉄含めて金目のものは残っていなかった。それに襲撃のときについたのだろう、荷車に刃物でつけた傷が残っている。おかげで、衣類でも食料でも何か回収できないかと思っていた僕たちはがっかりさせられた。
ただ、不思議なのは死体がきれいさっぱりなくなっていたこと。
荷車を引いていた駄獣は売るためにつれていったんだろうと思うが、人間の死体がないのはおかしい。拉致されたとしてもこの血の量で犠牲者がでなかったとは言えない、そのくせ、近くに埋葬の痕跡もない。
と、なると怖い想像が浮かんだ。クルルも同様だろう。本村の村人、死んだ山賊の遺骸はどうなったか。死体が魔物を引き寄せ、綺麗に食べてしまったのだ。
もうこのへんまで魔物がうろついている。
こんなところで日が暮れたら目も当てられない。
「急ごう」
「ちょっとまて、説明」
不審に思ったダルドが詰問してくるものだから道々説明することになった。
もちろん、本村の犠牲者が食われたなんて話はしない。子供たちの両親、親戚、友達もみんな食われたなんて聞かせるわけにはいかない。
魔物に食われた。それで十分だ。
小さい子供たちはもちろん、ダルドも知らなくていい。つらいだけだ。
「魔物が出るかもしれない。注意」
魔物だけならいいんだが、あの襲撃はそんなに前のことではない。血痕の感じかららして、一日以上だが十日も前の話ではないだろう。襲った賊がまだそのへんにいて、遭遇したらこんな小所帯ひとたまりもない。
そりゃあ、僕やクルルはある程度戦えるだろう。だが、背中で爆発を起こしてくれたような奴がいたらそれもどうかわからない。賊に「●●●」がいないという保証もない。そして何より小さい二人を守り切れないだろう。
その後、分岐点や、旅人のための休憩用の四阿などが出てきたが特に襲撃痕も襲撃者もいなかった。遠目にもぐら魔物が慌てて地面にもぐるのが一度見えただけだ。
だから、緊張したまま先をとにかく急ぐというけっこうしんどいことになり、みんなどんどん不機嫌になっていった。
坂を越えたところで砦がようやく見えたところで、ストレスから解放されて僕もふくめ、全員歓声をあげた。
砦ははじめ、火山かなにかの岩山かと思うようなものだった。ごつごつとしていて濃い灰色で、よく見るとほぼ垂直の城壁が風化か過去の攻撃で石材がかけてがたがたになっているだけだった。外から見た限り、高い城壁しか見えない。
「中にうちの村の物資小屋がある。符丁、ダルドが見つけてある」
なんか備蓄物資を使わせてもらえるっぽい。
ただし、砦がミヨルド家の管理にあれば、という前提もあって不安しかない。
あんまり期待できないなぁ。
砦の門は開いていた。巨大な門扉がかつてはあったのだろうけど、今はそれは見当たらず、門は開きっぱなしだった。ただし、人の背丈より高い石積みで半分ほど塞がれ、その真ん中に引き戸式の頑丈そうな門が設置されている。これの高さは人の背丈くらいで、本気の軍隊相手にどれくらい持ちこたえるかは疑問しかなかった。
そこに三名の軽装甲冑兵がいる。その甲冑を見たクルルたちはほっとしたようだ。
彼らはミヨルド家の家紋をつけていたから。
「ああ、どこの何者だ」
誰何する声には元気がなかった。
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